第七話 真夜中の戦い
今回は簡単にいうとスカッとする回です。スカッとしてくれれば幸いです。
※改稿しました。
────そして運命の夜十二時は、思っていたよりもすぐに訪れた。
「魔法なんか使わなくたって、ビチルダなんかぶっ飛ばしてやる!」
俺は小声で自分をそう励ましながら、村から少し離れた暗いところでビチルダを待っていた。
緊張しているのか、鼓動が早くなってその振動が痛いほどに伝わってくる。
「チヒヒ!悪いルクス、待ったか?」
「俺たちも来てやったぜルクス、デハハ!」
「よぉ、ルクス、カヒヒ!」
やっとビチルダが現れた、と思ったら何故かデフとカーリまで一緒に居るではないか。
「は?なんでデフとカーリがいるんだよ?」
そのことに驚いた俺が、そう呟いたのが聞こえたのか、ビチルダは性格の悪そうな笑顔でわざわざ説明をしてくれた。
「おいおい、俺は一人で戦ってやるなんて一言も言ってないぞ?ちょっとは頭使ったらどうだ?チヒヒ!」
────騙したな?
そのことにカチンときた俺はとりあえず悪口で対抗する。
「何が頭使ったらどうだ?なんだよ。どうせ一人じゃ怖かったんだろ?このチビのチビルダ!」
ビチルダ改めチビルダは、孤児院の中でもビックリするほど小柄だ。
何せ、実際そこまで大きくない俺とも結構な身長差があるぐらいだからな。
「チッ!そのあだ名はやめろって言ってんだろ!この魔法すら使えない出来損ないが!お前らやっちまえ!」
「「おう!」」
そんな感じで俺たちの戦いは始まったわけだ。まずは最初にガリガリで少し猫背なカーリが、自分の得意な火魔法を撃ってくる。
「くらえ!『ファイアボール』」
「くらえとか言って撃つ魔法なんて当たるわけないだろ!ばーか!」
だが、思ったより分かりやすい攻撃だったので俺は危なげなく避けることができた。
「魔力も制御できないお前と違って、こっちはもう魔法の連携も習ってるんだよ!『サンダーボール』」
そう俺がカーリを挑発していると、どうやらその避けた所を狙われていたようで、次はデフが得意な雷魔法を撃ってくる。
「痛いな。ていうか、そんなのありかよ……」
流石に回避した直後の攻撃は完全に避けることが出来ず、左肩が焼け焦げていた。
その怪我を見たビチルダは、俺を馬鹿にしてくる。
「あんなくらい第6階級の防御魔法で防げるよ!あ、ルクスは魔法使えなかったんだっよな?」
チビルダが言う嫌味に合わせて、他の二人も声を出して笑う。
「そう言えばさ、お前が村の人達になんて言われてるか知ってるか?「悪魔の子」だってよ!魔法も使えない悪魔がいるかっての!チヒヒ!」
だからどうしたんだよ!バーバラさんが俺は強くなれるって言ってたんだ。お前なんかに俺の気持ちが分かってたまるか!
せめてものお返しに、チビルダのやつを一発くらいぶん殴ってやる!
「こんのぉぉ!!許さねぇぞ!」
大声を上げて俺はチビルダを殴ろうと全力疾走で少しでも距離を縮めようとする。
それに対してチビルダは完全に俺を舐めているようで、薄ら笑いを浮かべていた。
「魔法も使えないのに俺に突撃とか、ホント面白いな?まぁいいや、どうなっても知らないからな!『ウインドランス』」
そこでデフとカーリの2人は怖気づいたようなことを言い出した。
「そ、それはやり過ぎだろ……」
「そ、そうだよ……」
なぜ2人がそんなことを言ったのかというと、ビチルダが撃った魔法、『ウインドランス』は第5階級魔法である。
そして名前の通り、第6階級の各属性のボール系統の形質を槍のように尖らせることで殺傷力を上昇させた魔法だったからだ。
そして、第5階級魔法以降は生身の人に向けてはいけないと、バーバラさんから口を酸っぱくして言われていたからでもある。
しかし魔力を一箇所に集めることすら出来なくて訓練についていけなかった俺。
当然そんな魔法の存在も知らずに、ビチルダに殴りかかるために近づいていたので、避けることなど頭にも入っていなかったのだ。
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「全く!あんだけ言っておいたのに、そんな魔法使ったら生身の人間が死ぬことぐらい誰にでも分かるさね!」
今まで隠れて観察していたバーバラ(教育は基本放任主義だと豪語している)は、万が一に備えて待機していたのだが、その読みはどうやら当たったようだ。
「仕方がないから、一旦魔法を……ん?なんだい、アレは!?」
────ことが起きたのは、その場からルクスに防御魔法を使おうとした瞬間だった。
なんとルクスの体から出て来た、黒い魔力がウインドランスを侵食して、溶けるように魔法そのものまで消し去ったのだった。
その異様な光景を見たバーバラは、早くもその現象を自分なりに解釈し始めた。
────今のはルクスが使用した黒魔法?、いや違うさね。
あれはルクスの意志で出したんじゃなく、ルクスの生命の危機に反応して出てきた?それだと、生命の危機ではないボール系統の魔法で出てこないのが頷けるだわさ。
でもワタシの知るか限りだと、魔法ならともかく、魔力が術者の命を気遣って自衛するなど有り得ない。
だとするともう魔力そのものに知能があるとしか思えないさね。そしてまだルクスの命を奪っていないということは、今の所はその気がないということが分かるだわさ。
だったらあんまり魔力のコントロール習得は急がなくてもいいということになるだわさ。一安心さね。
その後はこれといった確証など全くないが、ルクスに生命の危機はもう無いことはバーバラが持つ長年の直感で理解したようだ。
それからもう一つの理由としては、せっかくなので、決着が着くまでもう少しルクス達の様子を見ることにしたのであった。
────そして、場面はウインドランスが放たれた冒頭へと戻る。
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なんだあの槍みたいなやつ!?あれ当たったら間違いなく俺死ぬだろ!どんだけ俺の人生最悪なんだよ!
チビルダは、俺が殴りかかってくるのを利用して至近距離から『ウインドランス』を発動しているので、そもそも避けることはできない。
不意に身体の力が抜けた。どうやら脳がもう無理だと直感的に判断したらしい。
「死ぬのかー、嫌だなぁ……」
そして突然心に響く、無念そうでどこか悲しそうでもある誰かの声。
あれ?なんかこの台詞、前にも聞き覚えがあるような──あの夢か、最悪だ。
その台詞というのは、ちょうど俺が見た夢の中で、自分視点の誰かが死ぬ間際に呟いた言葉だったのだ。
そんな感じのことを無意識のうちに考えていると、チビルダが放ったウインドランスがもう目前まで迫っていた。のだが──
「うわ。なっ、なんだこれ!」
驚くのもそのはず、突如自身の体から謎の黒いモヤモヤが『ウインドランス』に向かって、素早いとは言えない速度で飛び出していったのだ。
そして、それと同時に身体中に痛みが走り、四つん這いになって苦しそうに息を吐く。
そしてその黒いモヤモヤは、ウインドランスを一瞬で覆ったかと思うと、真っ黒になるほど侵食して魔法ごと消え去っていた。
「な!?俺のウインドランスが……お前魔法なんか使えないはずなのに、何したんだよ!」
ビチルダが驚愕の声を上げると同時に、デフとカーリがちょっと安心しているのが顔を見るだけで分かった。
少し時間が空いて、ビチルダがなんとか落ち着きを取り戻したのか、他の2人に指示を出し始める。
「お、お前ら何やってんだ!早く次の──」
「もう終わりだ!このバカ野郎!」
俺は今までの喧嘩で一番速く、強く、そして様々な感情が乗った拳を、ビチルダの顔面に放ったのだった。
もう立っているのも精一杯だけど、せめてハッタリでも言っとくか。
「お前たちもコイツみたいになりたいのか?」
鼻が頬につくほど曲がり、気絶してしまっているチビルダを横目に見つつ、意識を必死に保ちながら俺は虚勢を張った。
「くっ、行こうデフ」
「あ、あぁ、覚えとけよルクス!」
良かったぁ、どうやら俺の嘘を信じてくれたようで、2人は苦し紛れに逃げる悪者じみたことを口走って孤児院に帰っていったようだ。
「どうだよ俺、魔法なんか使えなくても、勝ってやったよバーバラさん。イーサねぇ、ちゃん」
俺はそう呟いたと同時に意識が飛び、その場に大の字で倒れたのだった。
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戦いが決着した後、バーバラはルクスとビチルダのところに急ぎもせずに行き、独り言を口にした。
「こりゃたまげた、まさかルクスが勝つなんてねぇ。まぁ、説教は目を覚ましてからにしてやるさね。ということでさっさと後片付けをするだわさ」
そう言ってバーバラはルクスとビチルダに自分の得意な風の治癒魔法、『ウインドヒール』で最低限の回復を施した後、孤児院の2人のベッドまで運んだのだった。
これで少なくとも、後日二人が訓練でバーバラにこってりと搾られるのは、もう確定事項だろう。
5歳でこんなこと考えられるのか?と自分でも思っていますが見逃してください。(修正済みです。)
補足 本当の名前 ビチルダ
付けられたあだ名 チビルダ です。