第四話 初体験の連続 (1)
※改稿しました。
────衝撃が、身体中に広がっていく。
それはなんの前触れもなく、なおかつ骨格を変形させるほどの強さだった。
そして、それと同時に色々なイメージが頭の中を駆け抜けていく。
まるで見覚えのない、よだれが出るほど美味しそうな料理を俺が作っている。
王女様が着るような、煌びやかなドレスを着ている女性が隣で俺を見て幸せそうに笑っている。
何から作られているのか分からない剣のようなものを握りしめて、汗まみれになるほど一生懸命に俺が素振りをしている。
そんな、なんの脈絡もない記憶の断片が頭に流れ込んでくる。
────そして、突然の熱さを実感しながらも、俺はこんなことを口走った。
「死ぬのかー、嫌だなぁ……」
それと同時にテレビの電源を切るように映像が真っ暗になる。
そして訪れる静寂。
俺は、何をしてるんだろうか。大体、これは俺なのか?
それすらも分からない。分からない……
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夢から目覚めたのは魔法適性・階級検査の結果が出た数日後。
本格的な魔法の訓練が始まる日の早朝、時間は午前4時過ぎだった。
「うわぁぁぁ!!!」
俺は大声を上げて素早く体を起こした。
「それにしても最後のアレ、まさか、死んだ…………いや、いやいやいや。そんなわけないよなぁ?まぁ夢だし大丈夫だよね?」
そう言いつつも、身体からは冷や汗がダラダラと流れ続けている。どうなってんだこれ!
「もう!うるっさいわねぇ!今何時だと思ってんのよ、まったく!」
いきなり起きたはずなのに大声で叫んでくるのはサラだ。いつも面倒見がいいけど、怒ると1番厄介なんだよなぁー。
「もうルクス!今なんか失礼なこと考えたでしょ!?」
げっ、バレてる。
「ご、ごめんサラ、そんなこと考えるつもりはなかったんだ!」
「考えるつもりはなかったってことはそういうことなのね、分かったわ……」
サラの周りに赤い魔力が集まり、俺がさっきとは違う意味で冷や汗をかいていると、他のベットからも声が聞こえてきた。
「もう、うるさいですよ二人とも。それとルクス、夢なんて確実性の無いものを信じない方がいいですよ」
「ん、うるさい……」
俺が間一髪なところで起きてきて文句を言う2人は、言い回しがなんかカッコイイ(口調だけで判断)し、この孤児院の中で一番物知りなスコラ。
そしてもう一人は、この前孤児院のある町の貴族たちに、
「お嬢ちゃん?良かったら私の家の養子にならないかい?」
とか何とか言われてた子だ。(そのあとバーバラさんが何故か群がっていた貴族たちを得意な風魔法で吹っ飛ばしていた)
これも受け売りなのだが、ちょうぜつびしょうじょ?で燃えるような真っ赤な髪の毛がトレードマークのアリアさんだ。
アリアだけなんでアリアさんなのかだって?なんかオーラがあるからに決まってるじゃんか。
「ルクスなんかもう知らないんだからぁ!」
そんな言葉を大声でいいながら、二人を無視してサラが俺に向かって拳を振り上げる。
「げっ!!……?」
俺はとっさに目をつぶったが、その拳が当たることはなかった。何が起こったんだ?
「暴力はダメだよ。それにルクスも何か理由があるのは分かるけど、サラを起こしてしまったのなら、謝らないとダメだよ?はい、仲直りして!」
いつの間にか起きていたイーサ姉ちゃんが、優しい口調なのに何とか怒った雰囲気をだそうと頑張っている。
それと同時に、まだ習ってもいない水魔法の盾を無詠唱で創り、サラの拳を防いでくれたのだ。
「ありがとうイーサ姉ちゃん!それとそのすごい水の防御魔法、こんど俺にも教えてくれよな!」
そう俺が言うと、イーサ姉ちゃんは恥ずかしそうに照れながら言葉を返してくれた。
「えへへ、ありがとー!……はっ、そんなことより2人ともはやく仲直りの握手して!」
イーサ姉ちゃんにそんなことを言われてしまったので、渋々俺とサラは仲直りの握手をしたのだった。
コイツ思っきり握ってきやがった!痛い痛い!
するとそんなに長い時間が経っていたのだろうか。
まるでタイミングを見計らっていたかのように、下の階にいるバーバラさんから朝食が出来たことを知らせる声が掛かる。
「美味しい朝ごはんができたから降りておいで!ただし顔を洗って歯磨きしてから食べるさね!」
「はーい!」
そう返事を返すと、俺を含む部屋のルームメイトたちは喧嘩のことも忘れて、朝ごはんのために急いで階段を降っていった。
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それから数時間後、もう一つの部屋の子たちと合流してからバーバラさんが訓練の話を始めた。
「これから、第2回目の訓練を開始するだわさ。今回はワタシがデモンストレーションで魔物と戦いながら魔法やその他のことをアンタたちに説明してやるからちゃんと聞くんだよ!」
「はい!」
みんなは俺と同じように興奮気味に返事をしながら、町から出てすぐ近くにあるプレミア平原に向かった。
そして、奥の茂みからなにかが──
「うわ、ゴブリンだ!!」
突然のゴブリン登場に思わず俺は声を出してしまう。ビビりなわけじゃないからな!
そうすると、声に反応して3体の緑の肌色をしたゴブリンの群れが、唸りながらこっちに走ってきた。気持ち悪いな。
「さて、じゃあこいつらでデモンストレーションしてやるさね。みんな下がっておくんだよ……」
そういったバーバラさんはいつもの呑気なおばあさんの目ではなく、獲物を狙う肉食動物の目と同じように、ギラギラとしたものに変わっていた。
次回は初戦闘シーンです。色々な至らない点があると思いますが(特に迫力など)見てくださると嬉しいです。
第4話、第5話、2話連続投稿です。