第二十九話 私を変えた思い出
今回はイーサ視点です。孤児院の面々ともしばらくのお別れですので、堪能してください(笑)
ルクスが旅立ちの宣言をした日の夜の遅く、私は一階のリビングで手紙を書いていた。
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ルクスへ
まず最初に、みんなと一緒にお見送りに行けなくてごめんなさい。
理由はルクスのことが急に嫌いになったとかではなくて、私が行ってしまうときっとルクスを引き留めてしまって、困らせると思ったからです。
なのでバーバラさんにお願いをして、特別にこの手紙を書かせてもらいました。本当にバーバラさんは優しいです。
前置きはこれくらいにしておいて、本題に入ろうかな。
今思えば孤児院で最初から一緒に居たのはルクスだったね。(私は産まれて間もなく捨てられていたそうなのでルクスとほぼ同じタイミングだったそう)
そう考えると、一番長く一緒に時を過ごした人とのしばしのお別れってことになるんだよね。正直に言うと相当寂しいよ?ルクスもそう思ってくれていると嬉しいな。
ねぇ、ルクスが私に色々と打ち明けてくれたあの夜のこと、覚えてる?
まさかルクスが冒険者に成りたいけど見た目のせいで悩んでるなんて、私驚いちゃったよ。(今も気にしていたならごめんね?)
でもルクスは凄いよ!あの時はあんなに悩んでいたのに、今となっては突然巡ってきた冒険者になるための近道に軽く飛び込んでいっちゃうんだから。
でも、小さい頃からみんなのことを考えて行動してくれてたルクスは、今になってもちっとも変わってない。
そんな優しいルクスが居てくれたおかげで、私もみんなと一緒に頑張ることができたんだ。
────でも、これからはその頼りもいなくなってしまう。
だから、私はもっともっと、ルクスが居なくても心配されないくらいに魔法を練習して、強くなるんだ!
もちろん時間はかかると思うけど、いつかはルクスと同じくらい凄い冒険者になるんだからね?これ約束だよ。
それじゃあ、気をつけて行ってらっしゃい。私はルクスの夢をいつまでも応援しています。
イーサより
追伸。貴方に精霊の御加護がありますように。
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「よし。これでもう大丈夫」
私は、書き終えた手紙を一通り見直すと、ふぅーっと息を吐いた。
「結構早めに書き終えれたのは良いことなんだけど、これじゃ逆に寝られないよ」
当然だけどみんなが寝ている部屋はもう真っ暗。
なので、深夜に堂々と灯りをつけて起きているのがバレてしまうことを恐れて、魔力を流すことで光るランプを使用していたのだ。
そのおかげで目はチカチカしているのに頭の方は妙に冴えているというわけわからない感覚が私を襲う。
──イーサ姉ちゃん?
背後にある入口の扉から、不意に誰かの声が聞こえた。
「えっ?なーんだ、勘違いか……」
この呼び方はルクスだ!と思って振り返ってみたが、そこには誰もいなかった。どうやら空見だったようだ。
「そういえば、なんでルクスって私のこと姉ちゃんって呼ぶんだっけ?」
確か前に本人に尋ねたことがあった気がする。たしか孤児院のみんなを悪口から守ったみたいなのが理由だったと思う。
「でも、おかしな話だよね?最初に守ってもらったのは私だっていうのに……」
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「イーサちゃん、あかちゃんのときにすてられてたんだって?ママから聞いたよ」
「え……う、うん」
これはたしか、私達が五歳くらいのときだったと思う。
「だからこじいんにいるんでしょ?なんか、かわいそうだよね」
「パパもママもいないなんて、わたしだったらしんじゃうよー」
こんな感じで、私は当時一緒に遊んでいたマリエル村の女の子達からいつも軽い仲間外れにされていたのだ。
この時の私は、今と違って物静かでビクビクしていたところがあったから、当然言い返すことなんてせずにただ黙り込むことしかできていなかった。
そして、そこに現れたのが────
「こんなとこにいたの?バーバラさんがよんでるぞ!」
黒髪で少し吊目な男の子、ルクスだった。
その時はちょっと見た目が怖くて、中々話しかけられずにいた覚えがあったなぁ。
「うわっ、『あくまのこ』だ!」
「ていうか、イーサちゃんもおんなじところにすんでるって……」
「しーっ!あのこのめのまえではなしちゃだめだよ!」
ルクスが現れた途端に、大きな声で悪口を言い出した村の女の子達。今思えばわざと大きな声で言っていたのではないかと思う。
「……あ?」
ルクスがその言葉に反応して、細めの目をさらに細くする。
「「「ひぃ!」」」
村の女の子三人に向けての言葉であって別に私は何もやられていないのに、無駄にドキドキしていた気がする。
「べつにおれにわるくちをいうのはいいぞ?おれは、べつにおまえたちのともだちじゃないからな」
ルクスが真剣に話をしているのを感じたのか、私を含めた四人はその話に聞き入っていた。
「だけどイーサはともだちなんだろ?だったらちゃんというか、いわないのかハッキリしろよ!」
ぎくりと身を震わせた三人。まぁ、私も分かってはいたんだけどさ。
それでも、その事を私が言ったら余計にハブられるんじゃないかって、思ったんだ。
「い、いいよルクス。わたしはべつに……」
「だめだっ!それでなかなおりできないんなら、それは″ともだち″じゃないってバーバラさんがいってたぞ!」
「…………」
その時は、友達って悪口くらい言うんだって勝手に思っていて怒こりもしなかったけど今なら言えるね。
怒っても怒らせても、仲直りできるのが友達なんだって。
「なによあのこ、えらそーに」
「ママにいいつけちゃおー」
「イーサちゃんもイーサちゃんだよ」
子供ならではの心無い言葉に、思わず黙ってしまう私。ここで何も言い返すことが出来ないのが駄目だったんだ。
「ほら、はやくいくぞ!バーバラさんがまってるから」
そんな私の手を引いてくれたルクス。この時から、なんだかんだ言ってルクスは優しかったんだよ。
「────ねぇ?それじゃあ、ルクスくんがわたしの″ともだち″になってよ」
恐らく、もうあの子達と遊ぶことはないだろう。小さいながらにそう思った私は、半分やけくそになってルクスにそう言った。
「なにいってんだ?もうおれとイーサは″かぞく″みたいなもんじゃんか!まぁともだちでもいいけどさ……」
私は、不意にかけられたその言葉でその場に座って泣いていた。それはもう、うるさく泣いていた。
理由は今ではよく分からない。
家族がいるという実感にびっくりしたのか、おなじ境遇のルクスがここまで前向きに生きていたからなのか。
とにかく、心が何かで満たされて溢れたのはよく覚えている。
「なんだよー、オトコならなくなってバーバラさんが……オトコじゃなかった。じゃあほら、いくぞ?」
ルクスはそこから、私をおんぶして帰ろうとしてくれてたんだよねー。まぁ、すぐに体力切れで倒れてたけどね。
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あの時、あの場所でルクスが私の手をもし引いてくれなかったら、今の私はいなかったかもしれない。
だから私はルクスを信頼しているし、誰よりも一番に守りたいと思っている。
「でも、やっぱり寂しいなぁ……」
ここまでずっと、一緒にいた。これからもそうだと思っていた。だけどそれは一旦終わりになってしまったんだ。
「いや、だからこそ、これから頑張らないといけないんだ」
ルクスが立派な冒険者になって帰ってきたときに、また一緒に居られるようにね。
そんなことを思い出しているうちに眠くなってきた。
明日は早朝からプレミア草原の跡地で自主練を行うつもりなので、早く寝ないと。
心地よい微睡みを感じながら、私は心の中で誰かに誓いを立てる。
──いつまでも待ってるよ!なんて言ったって私達は、″家族″なんだからね。
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