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第二十八話 餞別と紹介




 俺は、冒険者になるための修行をしてくれるというジークさんの誘いを、悩みに悩んだ末にようやく頷いた。


 そして、このマリエル村を出るため、門もない村の入口でみんなと最後の別れを惜しんでいた。


 ちなみにこれからの行動としては、ササエ大陸にいくつか点在する大きな街の一つに赴いて、冒険者になる為の準備を色々と行うらしい。


「ルクス、よく聞きな?昨日も言ったがここはいつまでもアンタの家だ、だからいつでも帰ってきていいんだわさ……」


 バーバラさんの特徴であるちょっと掠れてるけど、どこか優しげな声を聞くのもしばらくはお預けか……


「でも、どうせ帰ってくるなら一丁前の冒険者になって帰ってくるさね!もし自分に自信がなくなったとか言って帰ってきたら、その時はワタシがみっちり鍛え直してやるだわさ!」


 うげぇ……


 あのサシで行う戦闘訓練は出来ればもう二度と受けたくない。

 まぁ、バーバラさんが怖いのはそこくらいで、他のところでは凄く優しいんだけど。


 そして楽しげに笑うバーバラさんは、俺に小さなポーチのようなものと、大きな弁当箱を渡してきた。


「だから、とりあえず餞別だけは渡しておくだわさ。簡単に諦めるんじゃないよ?」


「はい!ありがとう、ございました。今までお世話になりました……」


 今までの感謝を込めて深い一礼。


 ちなみにこれもバーバラさんから教育を受けていて、貴族の方々に対しても失礼のないようにはしっかり出来る。


 そして受け取ったポーチには、ずしりとした重みがあった。触ってみた感じは何枚かの硬貨だと思う。


「ルクス君?そろそろ行きますよ?」


 バーバラさんとの対話が終わると、先に馬車に乗っているジークさんから声がかかった。


「はいっ!今乗ります!」


 その声に元気よく返事した俺は、ジークさんとナミルが既に乗っている比較的大きめで簡素な二頭引きの箱馬車へと意気揚々と乗り込んでいく。


「それじゃあみんな、またな!」


 俺の声を合図に動き出す馬車。これから始まる出来事への期待で、身体の震えが収まらない。


 それにしても、立派な冒険者になれたらこの村には絶対に帰ってきたいな。


「────!!!」


 孤児院このみんなが泣いたり笑ったりしつつも、一斉に俺を見送る言葉を叫んでいるという事だけは分かる。


「みんな?行くぞ!!!」


 ──動き出した馬車。


 そのタイミングに合わせるように、突然チビルダが掛け声をかけ始めた。そして、その合図でみんなが小声で詠唱を行い始める。




 い つ か ま た 逢 お う 




 どうやら、一人が一文字ずつ魔法で色とりどりの文字を再現しているようだ。どうせスコラか誰かの入れ知恵だろう。


(ルクスはいい友達が居て良かったな?我にもあんな友達が沢山居れば……くっ!)


 クロナ、声だけで泣いていることがわかるんだけど。ていうか、こっちだって泣くの我慢してるんだからやめてくれよな……



 俺は、孤児院のみんなの魔法に涙を堪えながらも手を振ることで応えた。


 それから馬車が進んで、遠く遠く見えなくなるまで、手を振り続けた。



 もうすでに遅いことなのだが、実はイーサ姉ちゃんが見送りに来ていなかったことが未だに腑に落ちないのだ。


 早朝から姿が見えなかったから、どこかに行っていたんだろうか。こんなことなら、昨日のうちに感謝の言葉を伝えておくんだった。


 まぁ、こんなことでもイーサ姉ちゃんなら笑って許してくれそうでもあるが。



 そんなことを思いながらも、馬車が進むにつれて小さくなっていくみんなの姿を目に焼き付けるように見つめて、ひたすらに手を振る。



 ────遠く遠く離れて、見えなくなるまで、ずっと。






━━━━━━━━━━━━━━




「さて、それでは新しい家族に改めて自己紹介といこうか……ナミルからだぞ?」


 俺が隠しきることのできないしんみりした雰囲気を察してくれたのか、ジークさんは自己紹介をしてくれるようだ。


「え?はーい。僕の名前はナミル、歳は九歳だよ。あとは少しの間ひみつ〜。これからよろしくね、兄さん!」


 兄さんという呼ばれ方が聞き慣れないせいか、なんか背筋が伸びるな。



 ────ていうか、ぼ、僕だって?


 えへへ。と笑うナミルは、そのサラサラな短い銀髪の髪から華奢な身体までどう見ても俺より年下の女の子にしか見えないんだけど。もしかして……


「僕、ってことはナミルって男なの?」


「うーん。多分ね?じゃあ兄さんも自己紹介してみてよ?」


 多分ね?って随分適当だな。まぁ、それは一旦置いておくとして。


「俺の名前はルクスだ、です。えぇー、夢は凄腕の冒険者になることで、歳はちょうど十歳。とにかく、これからよろしく、お願いします」


 何故かナミルだけでなくジークさんにまでくすっと笑われてしまった。何かおかしいことでもしたか?


「僕達もう家族みたいなものなんだから、敬語とか畏まって使わなくてもいいんだよ?」


 なぜかと考えていると、ジークさんに笑顔でそう言われた。


 確かにこれからしばらくは一緒に居るのに、畏まった敬語というのもおかしいかな?


「まぁその話は後でするとして、僕の本名はジーク・フリート=ヴォルフ。君とナミルの師匠兼保護者になる立場だから何かあったら言ってほしいな。これからよろしく頼むよ?」


 ジークさん、絶対優しいぞ。何故かって?


 もう何歳か分からないくらいに格好良いし(それ関係なくね?)、聞いていて落ち着く優しくて低い声だし、そもそも佇まいがほのぼのしてるからだよ。


「あっ、ちなみにナミルとは一応遠い親戚なんだけど、そこは別に気にしなくていいからね。あとは、馬車での移動は今のうちに色々慣れておくんだよ?」


「はい!……ん?」


 パシャパシャと馬車の左右についている白色の仕切りをつつかれているような音が小さくだが、聞こえる。


 当然だけど、今は馬車も走っているし。おかしいな?


「ピィ!」


 すると、中に入ることが出来る御者の方から何かが入ってきた。こんな白いヤツ見たことないな……


「これ、風魔法の伝書鳩だよ?兄さんを突っついているから兄さん宛じゃないかな?」


 そういえばバーバラさんがこんなものを飛ばしているのを見たことがある気がする。


 ということはバーバラさんからかな?




 俺は早速手紙を開いて中身を読み始める──





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