第三話 選択と温もり
本当にお持たせしました。これからも「無彩色の運命」をよろしくお願いします。
今回は短めです。
そしてその日の夜。
「みんな、食事中で悪いんだけど、大切な話があるから聞いてほしいんだ……」
思わぬ形だったが、スコラとチビルダに相談をしたことでようやくこれからのことについて踏んぎりがついた俺は、バーバラさんと孤児院のみんなに話をすることにした。
「ようやく決まったのかい?ルクス」
事情を知らない他の子達は何事かと顔を見合わせる中、バーバラさんがどこか含ませたような笑顔でそう聞いてきたので、とりあえず力強い頷きを返しておいた。
「みんな、俺が冒険者になりたいってのは知ってると思うんだけど、それで色々あってさ、結果的にある人の弟子にならないかって言われたんだ──」
「え……えええええええええ!!!」
チビルダとスコラ以外のみんなは驚きの声をあげた。
だがそれも当然だろう。何せここは行き場のない子供たちが集まる孤児院なのだから。
「それでさ、結構悩んだんだ。もちろん嬉しんだけど、代わりにみんなとは少なくとも数年は会えなくなっちゃうし、その先もどうなるかなんてまだ分からないから……」
みんながこちらを、怖いくらい真剣な顔で見つめている。
このみんなの顔を見るのも、しばらくはお預けだと思うと何かがこみ上げてきて、思わず視線を下げてしまう。
「でも、俺思ったんだ。スタンピードが起こった時、みんなに助けてもらわないと俺は何も出来なかったんだよ!だからもしまた同じようなことがあったら、バーバラさんやみんなだって死んじゃうかもしれないんだ」
下げていた視線を上にあげると、不意にイーサ姉ちゃんと目が合った。
そしてその瞳には溢れ出さんばかりの涙が溜まっていた。
────寂しいけど、だけど!
「だから俺がみんなを守れるように、強くなってくるから!どれだけ辛くてもみんなの、為に頑張るから、さ。だって、俺達は血なんか繋がってないけど、ちゃんとした『家族』だろ?だから、だから…………ッ!」
気が付くと、涙でぐちゃぐちゃになった俺を、誰かが、いやみんなが抱いていた。
「安心しろ!お前が居ない間は騎士の俺様がみんなを守っといてやるからさ。チヒヒ!」
──チビルダはそう言って笑う。
「今度私と会った時に、私より弱かったら承知しないんだからね!分かった?馬鹿ルクス!」
──サラはそう言って泣くのを堪える。
「行ってらっしゃい……本当に辛くなったら、戻ってきてもいいから……ね?」
──アリアさんはそう言って優しく微笑む。
「流石ビチルダ!俺だってみんなを守っといてやるから安心しろよルクス!デハハ!」
「実はデフとビチルダと三人で騎士見習いからだけど訓練を受けることになったんだよ。だから安心して行ってきて!」
──デフとカーリはそう言って恥ずかしそうに涙を拭う。
「「多分俺達はそこら中でブラブラしてると思うから、会った時はなんか話そうぜ!絶対だぞ?」」
──スパナとバールは相変わらず能天気にそう言う。
「そうですか……僕はこれから商人になる予定ですので、何か力になれることがあるのなら相談してくださいよ。どこだって駆けつけてやりますから!」
──スコラはそう言って自分に喝を入れて意気込む。
「よく言った……よく言ったさね。ルクス!ここは、ずーっとアンタの家さね。だから何時でも帰って来るだわさ……」
──バーバラさんはそう言って、俺と同じぐらい号泣する。嗚咽が酷くて話ずらそうだ。
「そっか。もう行くんだね、ルクス……私も強くなって待ってるから。ずっとね」
──イーサ姉ちゃんが涙も拭わずにそう言って、強い決意の瞳で俺を見つめてくる。
みんなの温もりが暖かい。
たとえ血が繋がっていなくとも、この温もりはそんなことの意味を超えるものだと勝手に思った。
「みんな、俺、頑張るよ。強くなったらみんなに会いに行くから、さ……」
そうして俺が想いを伝えた出発前夜は幕を閉じた。当然、明日への期待と興奮で、この日はなかなか眠れなかったのは言うまでもない。
────恐らくこの日の思い出は、一生忘れることのないんだろうな。
俺は子供ながらもそんなことを思って、ようやく訪れた浅い眠りに身を任せた。




