一話 潜伏者と訪問者
2章へ突入です!いつも読んでくださっている方々、本当にありがとうございます。
「ふぅ、この感じ久しぶりだな」
俺は今、黒を基調としたお洒落な部屋の1室で暖かい飲み物を飲みながら、ソファに座ってぼーっとしているところだ。なんかめっちゃ眠い。
周りを見てわかるように、この妙にぼやけた現実っぽい夢はどうせクロナの仕業だろうな。にしても最近は夢の中じゃなくても普通に話せるはずなんだけど。
「我の部屋へよく来たな。ルクス」
何も無い所から突然現れた扉から出てきたのは、前と変わらない真っ黒なワンピースを着ているクロナだ。でもちょっと身長伸びたんじゃないか?
そのクロナは、今は俺の魂にひっついている形で死を免れているらしいが、その正体はかつて神の子に倒された七つの大罪の「暴食」の名を冠する大悪魔らしい。らしいんだけど。
「クロナの部屋ってなんか黒い物が多いけど居心地いいな。他にも部屋とかあるのか?」
「ガハハ!そうであろう!残念ながら部屋はこの一つしかないが、我の暮らす部屋はルクスが気に入ってくれるように考えて作ったのだからな!はっ!嘘だぞ?これは単なる我の趣向であって断じて……」
自覚はないっぽいけど、結構騒がしくて性格もコロコロ変わるしで、案外面白くて良い奴なんだよな。だから時々こんな奴が大悪魔として人を沢山殺してたのか?とか思っちゃうわけだ。
とりあえず眠いので、ここに呼び出した理由を早速聞いてみることにするか。
「なぁクロナ、今日はなんで俺とわざわざ夢の中で会おうと思ったんだ?」
1人で勝手に赤くなっていたクロナは急に真面目な顔で語り出す。
「そうだった。ルクスと何故夢の中で会う必要があるのか。それは直接的にお前に伝えるようにしないと、お前の心の中に潜んでいるある者に聞かれる可能性があったからだ」
━━━━━━━━━━━━━━
クロナからの大体の話を聞いた俺は、驚き過ぎて思わず聞き返してしまった。
「俺の魂をクロナの他に共有してる奴がいるって!?」
「まぁ、そういうことだな、ことと次第によっては早急に調べることもありだと思うぞ。つい最近、お前と我の繋がりが強くなったことで魂の共有度合いのような物が分かるようになったのだが、そこにお前でも我でもない第3の魂があることに気付いたのだ」
第3の魂?なんか言いたいことは分かるけど……あぁもう頭がこんがらがってきた!
「ってことはこの近くにそのなんだ?「第3の魂」の持ち主って奴がいるっていうこともあるんだよな?」
「まぁ、この家は私が管理しているから入ってきたらすぐに分かるが、近くにいる可能性は充分にあると思うぞ。
あと今までずっと言い忘れていたが、この夢の中でもしルクスが殺されたら2番目に共有度が高い「第3の魂」の保持者がお前の精神を乗っ取る事が出来る。注意することだな」
ク、クロナ?それ結構大切なことじゃない?ていうかそれって……
「じゃあクロナが初めて会った時に問答無用で俺をヤっちゃってたら……」
「馬鹿者!我は出会って名も聞かずに殺すことなどした事がないし、そもそも我に名を与えてくれるほどの優しい奴を殺すわけがな……あっ、今のなし今のなし!忘れろ!」
自分で言って自分で恥ずかしがるなよ。それにしても最初にあった時に名前つけてあげなかっただけならまだしも、喧嘩とかしてたらどうなってたんだ?普通に怖いんだけど。
「ま、まぁそういうことだ。夢はもちろんだが現実の方でも嫌なことが起きる雰囲気があるから気を付けるんだな」
この何度か味わった気が遠くなるような不思議な感覚。どうやらそろそろ夢から覚めるようだ。お礼だけはちゃんと言っとこう。
「分かったよクロナ。忠告ありがとな」
俺の意識が途切れる瞬間に、クロナが真っ白なほっぺたを真っ赤にしながら、何かを言っているみたいだ。
「た ん じ ょ う び お め で と う」
最後の口元の動きで何が言いたかったのか分かったのだが、ありがとうと言うことは出来なかった。後で言うのは簡単だけど、どうせなら面と向かって言いたかったな。
━━━━━━━━━━━━━━
俺はゆっくりと瞼を開けてベットから立ち上がる。早速クロナにありがとうと心の中で言い、改めて実感する。そう、今日は記念すべき俺の10歳の誕生日なんだ。実を言うと昨日はドキドキして眠れなかった。
「みんなおはよーう!!」
「もう、うるさいわね……」
サラが寝ぼけながら俺に小さな声で文句を言ってくる。起きてもないのに文句言うなよ。
ていうかまだみんな寝てるっぽいな。時計を見てみるとまだ6時頃だ。みんながバーバラさんにたたき起こされるのは7時頃だから寝ててもおかしくないか。
そう思って俺はバーバラさんが丁度、朝ごはんを作っているであろう1階へと伸びをしながら降りていく。
「おはようございまーす。バーバラさん」
「あんれ、いっつもギリギリまで寝てるルクスがこんな早く起きてくるとは、珍しいこともあるだわさ。もしやアンタもようやく10歳になって大人の意識が芽生えてきたのかい?まぁ、とにかく誕生日おめでとうだわさ!」
バーバラさん、料理作るか笑うか祝うかどれか一つにして欲しいです。
まぁ、事実バーバラさんの言った通りだから文句も言えないところが痛いとこだ。けどもう10歳になったわけだし、いい加減この体質治さないとな。
その時、不意に入口の扉から誰かの訪問を意味するベルが鳴った。こんな朝早くになんの用があるんだろ?
「ったくこんな朝っぱらから来るのは誰さね!ワタシは今手が離せないから、ルクスはとりあえず用件だけでも聞いてくるだわさ」
「はーい」
若干、少し、ほんのすこーしだけめんどくさいと思いつつも扉を開けに行く。
そして、開けた扉の前にいたのは……
「朝早くに申し訳ありません。「烈風のバーバラ」が経営している孤児院というのはここで合っているでしょうか?」
「おはよう」
今までにも孤児院には色んな人が訪問しに来たが、(用件は知らない)少なくとも俺は1度も見たことがない、異様にかっこいい顔をしている無精髭を生やした中年の男と、その人の後ろからこちらを穴が開くほど見つめている銀髪で髪を短めにした女の子?が挨拶をしてきた。
「あっ、おはよう、ございます」
思わず普通に挨拶を返したけど、この人達、誰だろ?
またもや物語の鍵となる人物の登場です。




