閑話 本当の騎士の記憶
今回も過去の話です。終盤にグロが少しあるので嫌な人は読み飛ばしてください。
※加筆修正をしました。
俺様の名前はダリフ。歳は10歳で夢は「かっこいい騎士」だ!だけどそんな夢は多分叶わないと思う。なぜなら。
「お前ら、とりかかれ」
「「「はーい」」」
俺は戦争で親を失った戦争孤児で、今は5歳の3人の同じような境遇のチビを養いながら廃屋で暮らしているからだ。
俺の合図で、やけに体がでかい(俺よりでかいとかふざけんな)3人のうちの一人が、作戦通りに人で混み合っている商店街の棚をわざとひっくり返す。
「ちょっと!何やってくれんだい!」
「ご、ごめんなさい」
物売りのオバチャンがすげー怖い顔をしてるけど知ったこっちゃない。重要なのは周りの物見客だ。よしよし結構注目されているな。
そこで俺は残りの2人に目配せをし、自らも実行に移すために歩き始める。
そこで止まっている物見客のポケットを順に物色していく。こいつ金持ってそうだな、おまけにポケットから財布が見えてるし。いいカモだな。
俺はすれ違い様にその男のポケットにスッと手を近づけ、財布だけを掠め取った。どうやら他の2人も俺の教育でスリの腕を上げたようだな。
まぁ騎士になれない一番の理由はここだよな。薄汚いスリ上手のガキが「かっこいい騎士」に憧れるなんてのもおかしい話だ。
そこで俺は馬鹿な思考は止めて、チビ3人と住処の廃屋に帰ることにした。
━━━━━━━━━━━━━━
夕暮れ時にスリを終え、賑わう商店街から帰った俺らは今、街灯すらない真っ暗な廃屋で、盗んだ金を使って買った串焼きを夢中で貪っている。
俺が言うのもあれだけど、このチビ達は罪悪感ってないのか?まぁ食欲には勝てないってことか。
「う、うますぎるよなコレ!デハハ!」
「そうだな、これ美味すぎ!カヒヒ!」
「チヒヒ!ヤッホゥ!久しぶりの串焼き最高!ダリフの兄貴はどう?」
「あぁ、こりゃあ美味すぎるな。何本でもいけるわ」
さっきの金を大奮発して買った串焼きがものの数分でなくなってしまった。よし、腹も膨らんだしそろそろ……
「お前ら、静かにしろ」
咄嗟に俺は3人に小声で注意をする。どうやらこの普段人気のない廃屋に誰かが足を踏み入れているようだ。しかもよりによって甲冑から出る金属音も聞こえることから、何者なのか大体の想像ができた。
「確かガキ達の居所はここだったよな?」
「あぁ間違いないぜ、まぁドルトン卿の使いの財布を盗んだんじゃあタダでは済まされねぇよなぁ?」
くそ、ここら辺のクソ貴族が雇ってる騎士か!どうせ捕まえたら金は払うとか言われてんだろうな、「ダサい騎士」にも程がある。こっちはこっちでスリなんてやってるから人の事言えねーけども。
俺はとりあえず3人のチビ達と一緒に、この廃屋の地下に繋がる隠し通路(出口は確か結構遠くにある平原の近くにあるはず)に隠れようと思い、3人を先導しながら足音を消して扉の方へと近づいていく。
そしてでかいヤツ、細いヤツ、赤ちゃん並にチビなヤツの順に床についている扉から下に降ろしていく。よし、それじゃあ俺も……
バタン。どうやら最後の一人の服が扉に引っかかり、勢いよく音を立てて閉まってしまったようだ。こりゃあまずいぞ。とりあえず小声で指示だけ出しとくか。
「おいお前ら!しばらくそこで隠れとけ。そんで朝日が登っても俺がこの扉を開けなかったら道なりに進めよ?そうすれば助かるからな」
「「は、はい」」
「で、でもダリフの兄貴はどうするの?」
5歳のくせにこのチビっちゃいヤツは勘づくのが早いんだよな。
「まぁ心配すんな、物音立てるんじゃねぇぞ?」
そう言って俺はこの廃屋に隠し扉があるのを悟られないようにわざと足音を立てて走る。
「おい!居たぞ!アイツが盗んだガキだな?」
「多分そうだ!追いかけるぞ」
へっ!追いつかれるかっつうの!伊達に戦争孤児やってねぇぞ!
走る走る走る。
俺は隠れているチビ達から出来るだけ離れるように夜の暗い道を全力で駆け抜けていく。そして俺が逃げるごとに貴族に金で雇われた奴らの数も増えていった。金がある貴族様って奴は馬鹿なのか?
「ちっ。前も後ろも隙間すらねぇ」
ついに俺は人気のない路地裏で、前後から挟み撃ちにあってしまった。更に騎士と傭兵崩れのようなやばい奴らが10人ほど集まってきている。
「へっ!たかがガキ一人にこんなに大人が寄って集って、馬鹿じゃねーの?」
俺がそう挑発すると、ドルトン卿とやらに雇われている騎士のリーダーらしき人が甲冑のヘルムを取り、一歩前に出て俺を蔑むように話し始めた。
「ドルトン卿が君のずる賢い所やその逃げ回る小賢しい体力を評して、無事捕まえることが出来たら薄汚れた君を騎士見習いとしてこき使ってやってもいいと伝えるように言われた。良かったなぁガキ?飯には困らないぞ?」
その時の騎士の顔は、そこらの盗っ人なんかより余程クズな意地汚くてゲスい顔をしていた。なんか異様に腹が立つなぁ。
ていうか、どうせそうやって言っておいて痛ぶりながら殺すつもりなんだろ?それならこっちも考えはあるんだぜ?このクズ野郎!
俺は無言でソイツに近づいていく。背後に隠し持った肉を捌く用の短剣を持って。
「どうするんだね?早く決めて……うっ!」
「死ね」
俺は素早く相手との間合いを詰め、首を短剣でぶっ刺した。手の感触が気持ち悪い。倒れる騎士のリーダーに驚いて、周りの反応が少し遅れたことで刃をさらに深く刺し、確実に殺すことが出来た。
そう言えば、今更抵抗したって意味無いのにわざわざコイツを殺したんだろう?そうだ。こいつが俺の嫌いな「ダサい騎士」代表みたいな感じのヤツだからかもな。
「お前らァ!よく聞けよ!騎士ってのは弱い人を意地汚い奴から守って、時には勝ち目の無い勝負にだって臆することなく向かっていく。そんなことを笑ってやり遂げる奴のことを言うんだよ!分かったかアホンダラァ!!」
「何わけわかんねぇこと言ってんだこのクソガキ!簡単には死なさねぇぞ!」
俺は必死に抵抗をしているが、何人かの騎士に囲まれて、足と手を一つずつ切り落とされた。
「おー!血がいっぱい出てるぞぉ?痛いかガキ?」
俺が殺した奴と全く同じ顔をして話しかけてきやがる。どんだけ腐った奴らなんだよもう。
あぁ、なんか熱いな。そんなことはどうでもいいけど俺もついに人殺しか。こりゃあ死んでも天国には行けなさそうだ。しかもあのチビ達も待ってるってのに、情けないな。
「おい!なんか喋れよつまらねぇなぁ!このカスが!」
沢山いた騎士や傭兵崩れの連中が、倒れている俺を蹴り飛ばして遊んでいる。骨も何本か折れているようだ。あー痛い痛い。
そう言えばあのチビ達に名前も教えてもらってないな、1年近く一緒にいたのになんか寂しい。でも、もし名前なんか覚えてないとかだったら、俺が直々に付けてやってもよかったな。今後悔してもどうしようもないのは分かってるけどさ。
どうやら狂った顔をした傭兵崩れが、今丁度俺の首を大剣でちょん切る準備をしているようだ。
なんか死ぬっていざになると怖くないもんなんだな。てか急にあのチビ達が心配になってきた、俺みたいに死ぬのはまだ早いからな。だから雑草みたいに生き残るんだぞ。
遂に大剣が振り下ろされる。
時間の進みが遅くなったような感じがする。ゆっくりとだが、こちらに近づいてくる大剣の薄汚れた刃。そんな中、俺はあることに気づいて思わずニヤッとしてしまう。
へっ、この逃走劇は俺様はの勝ちだな!これでチビ達はこの街から逃げれる。心配事もこれで解決だ。安心して逝けるってもんだぜ!
何故なら、その時に大剣の刃が日の出の光を反射させ、光輝いて見えたからだ。
鈍い音の後、その場にいた下衆な大人達の笑い声が人気のない街中に響き渡っていく。遠く、遠くまで。
そしてその頃、3人の小さな子供たちは無事に逃げ始め、平原の近くに出たところである人との出会いを果たして、助けてもらう事が出来たようだ。
この話は、知らぬ間に良心に従って弱い者を助け、勝ち目の無い敵にも怯まず立ち向かっていく。そんな誰もが持っているわけではない、「騎士道」の心を持ち合わせていた少年のお話。
お分かりかと思いますが、ダリフの言う3人のチビとはデフ、カーリ、ビチルダのことです。
3人の名前はバーバラさんが付けました。




