8話
「ただいま、母さん」
彼女は元気よく扉を開ける
「お帰りなさい」
出迎えた女性は帰ってきた娘と一見同年代。人間でいう20代前半。面影はとてもよく似ている
姉妹でも通りそうだがこれは種族全般若者しかいない。
彼女らはエルフ。一般に寿命が人の4~10倍といわれる。しかも一生を通じほぼ外見年齢は青年期で固定され見目麗しいとしても有名である。
森の民といわれるが広大な森の中に都をかまえ古代エルフを長とし氏族社会を形成し森林に散らばり暮らしている。
「ちょ、ちょっとヴァース! やめなさい!扉が壊れる!」
母が慌てて言うのを振り返ると巨大な鳥が扉から入ろうと頭を突っ込んで引っかかっている
怒られたのが分かったのか鳥はしょげた顔をする。
その顔を見て二人とも微笑みながら鳥を押し出す。
「今日はどうしたの?本当に甘えんぼさんなんだから」
「あら、ラティ。この子今日はずっとこの調子なの?」
「そうなの。一人で餌をとりに放したら戻ってきたときからずっとこの調子なの。何か怖いことでもあったのかしら?」
首を傾げながらぽんぽんと鳥を撫でる。
鳥は気をよくしたのかまたすり寄ってくる。
「貴方のお部屋はあっちでしょ?今日はもうお休みよ」
指した方には家と同じくらいの物置小屋がある。ただし一面に扉はなく中には鳥居のみ。
どうやら自分の場所を思い出したのかすごすごと鳥は戻っていく
それを親子は生暖かく見送った後に家に入っていった。
「それで、どうなの?ちゃんとできそう?」
母は娘に心配そうに聞いてくる
「大丈夫、きっと・・・」
不安そうに口を開くが自身で不安を払しょくしたいのだろう、言い終らぬうちに
「大丈夫よ、絶対大丈夫!」
笑顔で言い切る。
母はそれでも不安なのかただ微笑むだけだ。
「次の青の日までにはきちんとできるって。そりゃ今日は何も狩ってこれなかったけれどヴァースは賢いもの大丈夫よ」
「ヴァースで本当に大丈夫?無理をしなくて次でもいいのよ?」
「次なんていらないわよ。それに大長様もヴァイオレットを使って最強の操獣士って言われてたんでしょ?あたしもヴァースもきっと大丈夫って!」
明るくいう娘にこれ以上を言うこともないかと母は話題を変えていった。
エルフは森の民。農耕を行えないので必然狩りの重要度が増す。中でも獣を使役し狩りを行う操獣はエルフの大長セフィロトが創始し受け継がれている伝統的な狩りである。
狩りにおいて使用する獣は比較的人に馴れやすいタイニーロック、ラッセルオウル、ハウンディハウンド、タイニーピューマなどが多い
ハウンド、ピューマを使役する方が比較的大物を狩りやすいが鳥系は広範囲そして果実など採集も可能と汎用性が高くよく使われている。
年に一度、祭りの日に森の大町の大長の御前で行われる狩りの大祭に出場のために各集落から予選、地方で二次予選が行われるなど。一大イベントとなっている。
そして次の青の日、すなわち五日後にこの集落の予選が行われる。
今年は7組出場、ほとんどが飼いならしやすいハウンドで鳥はヴァースの他はラッセルオウルである。
予選といっても狩るべき目標は鹿かイノシシなど大型の獣を要求される。
しかし、このひと月訓練を行ってきたが飼ってくるのはせいぜい兎程度。
大型の獣など皆無であった。
それゆえ心配されているのだが肝心の主従になぜか焦りがないのが心配な母であった。
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そんなこと言われてもなぁ
隣の建物でそんな会話がなされていたのを聞いてため息を出す
この鳥も頑張ってたんだよ。
記憶を探ってみても間違いない。どうやら魔法がうまく使えないってコンプレックスがあった模様。
狩りのふりで人の入ってこない森の奥まで行って一人魔法の練習していたようだ
記憶では水魔法が全く使えなかったようだし炎もそんなにうまく出せなかった。
タイニーロックとしては小さいし魔法も下手ってのは落ちこぼれだもんなぁ
アレ?乗っ取ったときはアッサリできましたよ?
確かに実践(ストーカー戦)においては活用ってほどもできなかったけどな
ここは訓練でうまく使えるようになってちょっと安心させてあげようか。
せめて本戦には出れなくても村予選くらい一位通過できるようにしてあげなきゃね。
身体を乗っ取ってしまったんだ。それくらいの恩返しくらい吝かではない。
雛から育ててくれた恩義をいつか返したかった、それができなくて悔しいなんていじらしいじゃないか。
魔物設定
ラッセルオウル
使役可能魔獣の一つ、鳥型。翼長2~2.5m 暗視、隠密のスキルを持つ
一般に鳥型魔物は風の魔法力を備えているがこの種は飛行に割り振るよりも
音を出さないという方面に特化した使い方を好む。
夜に音もなく頭上からの襲撃は数ある生物の中でも脅威となっている。
半面飛行時の恩恵として使わないのでさほど大きな獲物を狩ることはできない




