17話
いつよりであろう。我が生まれてよりヒトという種族との関係が変わっていったのは
かつて簡素な狩猟民族であったヒトたちは我を恐れ崇めた。
我にとってはただの動物の群れの一つという認識。
ただいつしかヒトは変わっていった。いつの頃より我の生き血こそが不老不死の妙薬との信仰を得て
討伐に来るようになった。もっともそれは我だけにとどまらず。海原を守護せし者リヴィアタン、地を守護せし者龍皇ファフニール、空を総べる者風帝テンペスタス、そして我、炎のフェネクス。
ヒトはいつより不老不死を望むようになったのか。
なにより無駄となぜ気づかないのか。我らの力は神より与えられた、惑星を管理する力
不死などではなく人には敵わぬ力なだけということに
神でなくては我らを滅ぼすことなどできない。
だがヒトはあきらめはしない。
また嫌な時期が来た。
星の並びか我ら四元の王の力が衰える減衰期だ。
弱るといってもヒトには決して負けぬ。
だがヒト達は好機とみるのかこの時期押し寄せてくる。
下らぬが相手をするよりあるまい。静かに再生の時を過ごすためには掃除が必要だ。
************
山の奥まで進んでくると全く魔物の出現が無くなった。
「魔物がいないのはいいが、この熱さだけは勘弁してほしいな」
「まあそういうなよ、ここはまだ涼しい方なんだぜ」
愚痴を言う男にリーダーらしい男が答える。
五人ほどのパーティでが火山のふもとを進む。
ここはフェネクスネスタと呼ばれる火山。目的は聖獣といわれるフェネクスの羽を手に入れること。
「すまないな、みんなには迷惑をかける」
先頭を歩く男が振り返り皆に言う。
金髪碧眼、着飾れば十分社交界で通用するその容姿。しかし男は冒険者の装備を違和感なく着こなしている。無駄な肉のない引き締まった肉体、貴族というよりは熟練の冒険者の風格を備えている。
彼はジョン・クロウリー。クロウリー伯爵家三男である。高位貴族出身ではあるが騎士の身分を捨て冒険者になった男である。
「いいってことよ、俺たちゃパーティだぜ。それにこれはお前だけじゃなくみんなにとっての千載一遇のチャンス。賭けるしかないだろ?」
リーダー風の男ディックがニヤリとして言う。それは皆も同じ思いなのか頷いている。
「そもそも、お前さんが初めて惚れた女の為ってんだ。それが俺達の利にもなるんだ。乗らない手はないんだからな」
ありがとう、そういい再び歩き出す。
彼らは冒険者パーティ【エスターフの湖】 Sランクパーティとして名高いチームだ。
冒険者はS,A,B,C,D,Eとランク分けされており上位に行くほど品格、実力を求められる。
世界にSランクパーティはぜんぶで五つ。そのほとんどが貴族子息で構成されたチームだ。
いかに貴族と言えども第二子、三子以降など家を継げずに騎士になるなどしか身を立てる術がない。
それとは別に魔獣の脅威にさらされるこの世界。人とは別に魔物に対する戦闘術なども仕込まなければいけない。
騎士であっても配属研修は冒険者のクエストと同じように魔獣退治などもしなければいけないのだ。
故に練度は上がるのだが、中には人を守るため、そして功績を得るため、そのまま冒険者への道につく者もあらわれる。冒険者である以上そこには身分は建前上存在しない。ただし平民出身よりは装備、技術、ともにスタートラインが違うというアドバンテージは存在する。それはAランク以上パーティに貴族出身者がいないパーティは存在しない現状からも分かることであった。
そして彼ら、エスターフの湖 6人パーティ中Sランク4人 Aランク2人という編成である。
金髪の男、
前方から一人が合流する。
「やはり巣に戻っているようだ。動く気配はないな」
斥候として一人離れていた男、アドルフが戻り報告する。
「案外、姫さんの情報も確かじゃないか?やっぱお前さんに気があるんじゃないか?」
「だとありがたいんだがね。他の条件でも難易度は変わらないよ」
ディックの言葉にジョンが肩をすくめて言う。そう、難しいことは変わらないのだ。なにせ報酬が破格すぎる。
人族の王国として最も古く最も大きな国、リヒタール王国。
彼の国の第一王女リリーナ姫が結婚相手を探しているというのは世界中にひろまった。
何せ条件が異質。貴族限定ではあるがもっとも強い男というのが条件である。
この世界にはランク制度がありSランク貴族こそがその条件に合致する
もちろんすべてのSランクパーティがリヒタール王国に集う。
名乗りを上げたのはジョン以外に同じ国出身の公爵子息グラント・テイラー。リヒタールの隣の国ガルテアの貴族アルバート・トラスモアの3人である。
そして王女に示された条件こそがこれ。四元聖獣に勝利すること。
不死の聖獣ばかりなので殺すことはできない。それゆえに証拠の部位を確保してくることがクリア条件となっていた。ジョンに示されたのはフェネクスの尾羽である。テイラー卿にはファフニールの爪か角。トラスモア卿にはリヴィアタンの鱗。
どれをとっても同じなのか王女にはくじ引きで決めたようだ。
全員がSランクの冒険者。難しいが無理とは言えない条件である
命がけの報酬こそリヒタールの王族に名を連ねられるということ。3人とも身分は高いが国の品位という面ではやはり劣る。しかし、ジョンにおいては理由が違った。彼は謁見の場で恋に落ちたのだ。
まさかのひとめぼれであった。ゆえに最速でのクリアこそが至上命題。決して先を越されるわけにいかないのであった。
仲間も堅物であったこの貴族の初めての恋を応援すべく準備をしわずか二週間という期間でフェネクスの喉元に至るのであった。
もう一話フェネクス話続きます
************
リヒタールを公国→王国に変更。字面だけてやってました(^^;




