16話
残念ながら夜は明ける。
王都に向かって出発だ。数台の馬車で移動らしい。自分含め3匹の獣魔はパートナーとそれぞれ別の馬車へあと荷物用が一台計4つの馬車で移動する。
村の人たちに盛大に見送られ出発。
なぜかグリードはこっちの馬車に乗っている。御者アリス嬢だ。
といっても会話はない。ただ荷馬車の中央に丸まっているソファーに二人がもたれかかっているだけ。何事もなく進む。
一時間ほど進んだころセフィロトがラティに問いかける。
「そういえばラティ、この子の声を聴いたんだって?」
「聞こえたような気がするっていうだけなんです。」
ちらりとこちらを見た後にセフィロトに向かって答える。
「大蜘蛛のときにヴァースに向かって氷弾撃ったら?って言ったんです。そしたら『だめだその隙が無いんだよ』って答えてくれた気がして、それであとの二人に協力をお願いしたんです。」
聞こえてたのか、あの時の一言。あの時はほんとに余裕もなくて気づかなかった。
そうだよな、でないとうまく隙を作れないもんな。
頭を寄せ顔に擦りつける。
ごめん、この姿は今日でお別れだよ。でもきっと帰ってくるからね
目を見開き言葉を失ったような顔をするラティ。
これ以上いたらもう悲しくなるよな。
グリードに目で促す。彼女は頷きいきなりラティを抱きしめる
そのタイミングで大空へはばたく。ただ空へ向かって。地上が見えなくなるくらいに遠くに向かって。
今はそれでいいよね
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「ヴァース、最後ってどういうこと!ヴァース!」
今日ぐらいは泣かせてあげるか
腕の中で愛鳥の名を叫びながら泣きじゃくっている。
ウシャス君はラッセルオウルを飛び立たせようとしてアリスに止められている。
説明は任せよう。今は泣き止むまで抱きしめていてあげなくては。
かつて私の飼っていたあのヴァイオレットも最後の時は何か言ってくれていたのかな。
全く、あいつのせいでこちらも情緒不安定になっちゃう。
【グリード】が降臨してからずっと【セフィロト】は過去の記録としてしか思っていなかったのに
どうしてこうも揺さぶられるのか。思えばあいつとの会話も変だった。自覚があるのかしら?ただ知り合っただけの娘にこれだけ感情移入しているっていうことに。自分のスキルの示す事柄に。
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飛び続けてみました。
といってもさすがにしんどいのでただの滑空で西へと向かう
一人になりたいと気合い入れ過ぎて飛びすぎたかな。
でも流石にこれくらい高いと何も邪魔するものもないし360度風だけって気持ちいいね
ちょっと雲よりはるかに高いところまで来てしまったけれどまあ寒さも魔力で防げるし問題はないかな。
季節はまだまだ春って感じだったから積乱雲もないだろうし危険もなく目的地につけるだろう。
問題はこの身体をどうするかだよな。正直死にたくはないんだけどこのまま野垂れ死にするとまた虫か最悪植物からスタートなんてこともありうる。水死しても魚からとかなってはあり得ないから人里近くに行くしかないんだよね。
愛玩動物だったのであまり人を襲いたくないしかといって喰われなきゃいけないし。
あれ?結構詰んでね?
とか思っていたら妙な気配。なんだ。魔力?
火の玉のようなものが飛んできてるんですけど
結構上空だよ?だいたいすじ雲より高いところ目指してるんだから地球換算7000m以上上空のはずと思うんだけどなんでこんなところ飛ぶ火の玉なんか?
いや、鳥型してる。そうか!あれがいわゆるフェニックスってやつね。かっこいいな。
上空寒くなさそうなのはいいんだけど、気のせいですか?こっちに向かってきてるんだけど
ちょっと速すぎ! ひぃ!
突っ込んでこられたのを危機一髪回避する。
飛行機なら確実にニュースになるくらいのニアミスだよ。
しかもめっちゃくちゃ速い。ほぼ三倍くらいは向こうが速そうなんだけど。まさにプロペラ機とジェット機の差って感じ。
流石にニアミスの感じでマッハにはなっていないだろうけどそれでも歴然としたスピードの差はどうしようもない。まったく迷惑な話だ、ぶつかって死んだらどうするんだ?ってどうなるの?
不死スキルの食物連鎖、これは殺されて食べられることで発動と思うんだけど。こんな上空から死んだら地上に落下と同時に誰にも食べれもらえない細切れな気がする
ちゅーかアレにぶち当てられた瞬間に炭になっている気がするんだけど
え゛!ちょっと何で通り過ぎたフェニックス返ってくるの?
ちょっ当たるってば!
咄嗟に風魔法で防御する。空気の塊をぶつかる面に発生させ相手の勢いではじかれるように。
衝撃と一時的な落下はやむを得ない。直接ぶつかって消し炭になるよりはるかにましだ。
しかし相手もなぜか何度も襲ってくる。あれかな?上空自体が縄張りなのか?制空権主張はやめてほしい
やめろ!ここは友好的に行こうよ君の場所って知らなかったんだからさ。
突如頭の中にウインドウが開く
音声チャット 招待しますか?
To Sloth Y/N
はい?なんでこんなウインドウ?
今言いたいのはこのフェニックスに和解の申し入れなんだよ?
で、この画面
これはつまり? フェニックスお仲間?!
画面でYを選び通話しようとする
砂時計アイコンがしばし回り
【この招待は承認を得られませんでした】
こらー! 会話しろよ!
気づけばかなり落とされていたようだ。下には森が見えてきている。
この世界も森林限界が一緒だとしたらほぼ6000Mも落とされたのか?
まあいい、森に入れはさすがのフェニックスも追ってこれないだろう。
あと数度かわせば何とか逃れられそうだ
でも忘れていた、自分が魔力の使い過ぎだったってことを
風の障壁が当たる瞬間薄くなった。身をひねったが左脇と翼にもろに喰らってしまう
ヤバイ、意識が遠のく、なんとか森に落下まで奴に食われないように。
お仲間ならなおさら食われるわけにいかない。不死スキルの不発動条件に重なる場合がある
落下に最後の魔力を使い加速する。 森に入るかというところで意識が途絶えた。
次回間章を挟みます




