『届いた小包』
ジリジリと夏の日差しが強い以外は何1つ変わらない日々。なんの変哲もない平凡な俺の日常。
「暑い・・・」
元々暑いのが好きじゃない俺は、扇風機だけじゃ満足できず、とりあえずアイスを食べようと冷蔵庫を開けた時、ピンポーンと軽快な音を立てて来客を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「はーい」
今家には俺以外誰もいないため、面倒くさいと思いながらも玄関に向かい、扉を開く。だがそこには誰もおらず、1つの小包が置いてあった。暑さで頭が回らなかった俺はそれをなんの疑いもなく家の中に入れた。
ーー誰宛だ?
親のどちらかだろうと思っていたが、そこに書いてあったのは・・・
『玖陣悠真様』
紛れもなく俺の名前だった。
ーー一体誰からだ?
俺は誰かに住所を教えたことは無いはずだ。ましてや、住所を知っている人間は親に送ることはあっても俺に何かを送ることは無い。不審に思い、送り手の名前の書いてある場所を見たが、そこは空白で何1つ書かれてはいなかった。
「開けてみるか・・・」
とりあえず自身の部屋に持って帰り、中身を見ることにした。包装紙を破り、箱を開けてみると一通のメッセージカードが目に入った。
『おめでとうございます。貴方は勇者に選ばれました』
そんな短い文がそこには書いてあった。それに疑問を感じたが、カードを動かしたことで見えた物に意識がいった。
「“世界平和への選択肢”?・・・なんだこれ、ゲームか?」
ゲームソフトらしい物が入っていたが、パッケージにはタイトルと思われるものが書いてあるだけで他は何も書かれていなかった。開けてみると、説明書はなくやはりタイトルしか書かれていないソフトが入っていた。
「とりあえずやってみるか」
元々ゲームが好きな俺は送られてきたソフトが使えるゲーム機を持っていたため、直ぐにゲームを始めることができた。
『世界平和への選択肢』
はじめる← おわる
タイトルが映し出された画面には、とても広い草原が写っていた。
はじめる←
そう選択し、ゲームが始まった。
最初に画面に映ったのは広々とした草原だった。遥か向こうには森があったり川があったりと、画面越しでも自然を感じられるくらいリアルに作られていた。イヤホンをつけて目を瞑れば、まるで本当に草原にいるかのように錯覚までした。パッケージが文字だけしかないということで浮かび上がった俺の思いをいい意味で裏切り、とても綺麗で繊細に作られたゲームは俺のやる気を引き上げた。
「さて、どうすればいいんだ?」
説明書も何もなかったため、操作も世界観もわからない。一体これから何をすればいいのか、どのようなゲームなのか、わかっているのはタイトル名から読み取れた、選択肢が出現するということだけだった。
ーーとりあえず色々押してみよう
ゲーム機のボタンを適当に押して操作を確認しようとしたが、何1つとして動かない。自分が操作するであろうキャラクターも見当たらない。画面には自然しかない。
ーーバグったか?
一度電源を切ろうと思い、電源ボタンをつつこうとした瞬間・・・
「うおっ!」
急に音量が上がって徐々に元の音量に戻っていった。それはまるで俺に電源を切らせないようにしているかのようだった。
暫くすると音楽が変わり、画面が暗くなっていき、そこに映し出されたのは
『貴方の名前は?』
という質問と、五十音が並んだいたって普通の名前選択画面だった。ただそこには、平仮名ではなく片仮名が並んでいた。
「名前か・・・ユ、ウ、マっと」
ゲームでは全て本名を使っていたため、いつも通り本名を記入し、ようやくストーリーが始まった。