第113話「釣りキチ・ポン吉」
わたし、レッドとみどりと一緒に魚釣り。
むー、めんどうですね。
ふふ、釣りならポン吉を一緒すればわたしはフリー。
弟とか妹とかめんどうくさいだけですよ。
ふう…コンちゃんも大きな妹みたいかな??
「ねー!」
「……」
「ねー!」
「……」
「ねーったらねー!」
わたし、さっきからお仕事の準備なの。
そんなわたしのしっぽをレッドがつかんでいます。
まさにしっぽをつかまれ状態。
普段ならチョップなところですが、パンを並べている最中で手がふさがってます。
「ポン姉ーったら!」
「レッド、わたし、仕事の準備中なんですけど」
「ほらほらー!」
レッド、抱いていたぬいぐるみをみせびらかしながら、
「いるかさん」
「はいはい、イルカさんですね、よかったですねー」
「すいぞくかん、たのしみー!」
「ミコちゃんにお話しした?」
「おお!」
レッド、奥に行っちゃいました。
とりあえず仕事に専念できます。
「ちょっとアンター!」
今度はみどり……今日はなんだかモウって感じです。
「ちょっとアンター!」
「なんですか? みどり?」
見ればみどりもイルカのぬいぐるみを抱いてます。
レッドは青でみどりはピンク色。
「ほら!」
「?」
「ほら、抱っこしていいわよ!」
「あ、ありがとう……」
わたし、みどりが抱いていたぬいぐるみを受け取ります。
枕よりちょっと小さいくらいのぬいぐるみ、抱き心地はすごいいいの。
「ねぇねぇ、みどり」
「なによー! あげないわよー!」
「いや……抱っこさせてくれてありがとう」
「ふん、どういたしまして!」
「で、みどり……」
「なによっ!」
わたし、ぬいぐるみをモニュモニュしながら、
「レッドもこれを持ってるけど、どうしたの?」
「配達人からもらったのよー!」
「そうなんだ」
「今度の遠足、水族館って言うじゃない!」
「うん、知ってるよ、わたしも行きた~い」
って、言っちゃってますが、実はわたしが行くの、決定なんです。
遠足、全員参加なの。
チケットがタダで手に入るから……ってのもあるんですが……
一番は子供達の見張りで人手がいるからなんだって。
それと、一番重要なのは「しっぽ」。
遠足はみんな、しっぽを付けて行くんですよ。
レッドとみどり、ポン太・ポン吉にあわせてなんです。
みんなしっぽを付けてたら変かな?
でもでも、コスプレって言えばへっちゃらかな?
みどり、わたしをじっと見て、
「わわわワタシがお願いしてあげようか!」
「そうですね、お願いします」
「ふん、ワタシにおまかせなんだから、モウ」
「ぬいぐるみ、ミコちゃんにも見せてあげたら?」
「そ、そうね」
わたしがぬいぐるみを返すと、みどりも奥に行っちゃいました。
これでようやく仕事に専念できます。
って、コンちゃんが姿を現しましたよ。
今までステルスの術で姿を消していたみたい。
「レッドとみどりがせわしないのう」
「コンちゃん、隠れてないで助けてください」
「今日は日曜ゆえ、相手をすればずっとなのじゃ」
「そうだ、日曜でした、あの二人学校に行かないや」
「ずっと張り付かれてはたまらん」
「ですねー」
コンちゃん、真剣な顔で、
「しかし……」
「どうしたの、コンちゃん」
「わらわも水族館に行くのじゃ」
「うん、そうだね、見張りだよね」
「ふう、面倒じゃのう」
「じゃぁ、サボればいいじゃない」
「フン!」
コンちゃん、そっぽをむいちゃいました。
でも、モジモジしながら、
「わらわ、タダで働くのは嫌なのじゃ」
「?」
「一緒に行くのはいいのじゃ」
「なにが言いたいんですか?」
「わらわ、アルバイト料を要求するのじゃ!」
「はぁ! なに言ってるんですかっ!」
「わらわはタダ働きせん」
「じゃあ、行かなければ……」
「しょうがないので、イルカのぬいぐるみで働いてやるのじゃ」
「……」
「早く配達人来んかのう、わらわ、イルカのぬいぐるみでOKなのじゃ」
イルカのぬいぐるみが欲しいだけなんですね、はいはい。
そこに「のこのこ」配達人です。
お店に入って来た途端にコンちゃんにつかまってるの。
さーて、とりあえず開店準備は完了。
お店の前の札を「営業中」にします。
お店の奥からメイド姿のシロちゃん登場。
「あれ、どうしたの? 今日はパン屋さんモード?」
「はい、ポンちゃんと交代するように言われたであります」
「え? なんの事?」
「台所でミコちゃんに言われたでありますよ?」
シロちゃん、壁に貼ってあるカレンダーを指でなぞりながら、
「今日は日曜ですが観光バスはないであります」
「うん、だね」
「ぽんた王国の予約もないであります」
「うん、で?」
「お客さんはいつもの日曜より少ないので、本官がパン屋の娘をやるであります」
「わたしと交代だよね……わたしはどうしたら……」
わたしの頭に、イケメンのラーメン屋さんが浮かび上がりました。
「も、もしかしたら、ラーメン屋さんの手伝いに行かされるとか?」
「いいえ……ポンちゃんの任務は……」
奥から足音が近づいて来ます。
レッド、わたしに飛びついて、
「ポン姉、すきすき~」
「はいはい、なんですか」
「いっしょにさかなつりー!」
「ワタシも一緒に行ってあげるわよっ!」
「はぁ……」
どうやらわたし、レッドとみどりの「おもり」って事みたい。
ミコちゃんも奥から出てきて、
「ポンちゃん、お願いできるかしら」
「お店、大丈夫かな?」
「シロちゃんがいるから大丈夫よ、コンちゃんにも働いてもらうし」
『ミコちゃん、わたしに押しつけてない?』
『ポンちゃんって魚釣り、上手なんでしょ』
『むー!』
ポン吉と勝負して勝った事あるけど、釣りは運だよね。
『あ!』
『何、ポンちゃん!』
『条件がある』
『何かしら?』
『ポン吉を召喚して、ポン吉も魚釣り上手だから』
「それならお安い御用で」
ミコちゃん微笑しながら指を鳴らすと、ごはん食べてる最中のポン吉召喚。
「うわ、どうなってんだ!」
そりゃ、術で呼び出されたらびっくりでしょう。
「ポン吉、今日はわたしに付き合ってもらうんだから!」
「えー、ポン姉とデート、オレ、シロ姉の方がいいな」
チョップです。チョップ。
ポン吉笑いながら、
「だってポン姉は店長が好きなんだろー!」
「ポン吉、なんか嫌そうな顔してなかった?」
「だってポン姉じゃぁ……」
チョップですチョップ。
でも、ポン吉笑ってます。
そんなポン吉にレッドが飛びつくの。
「わーい、ぽんきち、すきすきー!」
「おお、レッド、おはよー」
「おはー!」
もみくちゃにされるポン吉、わたしが、
「今日はわたし達と一緒に魚釣りに行くんですよ」
途端にポン吉の眼が輝きます。
「やったー、仕事さぼれるー!」
わたし、ポン吉にコンちゃんを見たような気がしました。
ポン吉を連れて来たおかげで、わたしの仕事は「見てるだけ」。
「ちょっとアンタ、なにやってんのよー!」
川辺の笹の中に入り込んでいるポン吉にみどりの声。
すぐにポン吉出て来て、
「釣り竿にするんだぜ」
レッドもみどりも感心して声も出ないみたい。
わたしも釣り糸と釣り針くらいしかなかったから、竿はどうするのか心配してたの。
ポン吉手際よく笹の枝を払うと、釣り竿完成。
「アンタすごいわね!」
「ぽんきち、すごーい!」
ポン吉、鼻歌まじりで二人に釣り竿を渡しながら、
「ほらー頑張って昼ごはん釣るんだー!」
「おまかせよっ!」
「らじゃー!」
って、レッドがポン吉をじっと見て、
「ぽんきちのぶんがないですよ?」
「オレの分はないのだ」
「なにゆえ?」
「レッドとみどりのお手伝いだー」
「おお、てつだわれるゆえ~」
みどりがちょっと眉をひそめて、
「アンタが釣らないで大丈夫かしら?」
「やってみてからだー」
「ふむ、アンタの言い分ももっともね」
ふーん、ポン吉、今日は釣る気ないんだ。
ここはテレパシーです。
『ねぇ、お昼ごはん、大丈夫?』
『ミコ姉がおにぎり持ってきてくれるって……釣れればみっけもん』
『あー、なるほど……でも』
『なんだよ、ポン姉』
『ポン吉、釣らないで我慢できる?』
『うーん、大丈夫な気がするー』
って、ポン吉、早速レッドのお手伝い。
餌をうまくつけられないみたいです。
「ぽんきちー、どうしたらー?」
レッド、手先がイマイチ不器用。
ポン吉が針に餌をつけてくれました。
「ほらー、ゆっくり振り込めー」
「らじゃー!」
みどりがおっかなびっくり、餌を触れもしません。
そんなみどりに肩を並べて、
「オレが付けてやるよー」
「あ、ありがとう」
「あの辺を狙って振り込めー」
「釣るのはおまかせよっ!」
みどりが竿を振ります。
って、すぐにヒット!
「きゃっ! ビクビクするっ!」
「ゆっくり竿を上げるんだよー!」
ポン吉、みどりの背後に立って一緒になって竿を持っています。
みどり、最初はびっくりしてたけど、慣れたのか竿も落ち着きました。
「ゆっくり、ゆっくり……」
みどり、一匹目をゲットです。
でも、釣りあげた魚をつかめないで、またポン吉の世話になってますよ。
「おお、なかなかの大きさ」
「あ、ありがとう」
みどり、自分の釣ったのを見て目を輝かせてます。
「もう一人で出来るな~」
「お、おまかせよっ……でもでも」
「?」
「餌はモゾモゾしててこわい……」
「しょうがないな~」
ポン吉、みどりの針に餌を付けて、
「餌はオレがやってやるよー」
「あ、ありがとう……」
みどり、赤くなって釣りを始めました。
今度はレッドがポン吉の服を引っ張ります。
「つれませぬ~」
「おお、レッド、竿をあげる」
「はえ?」
レッドが釣り竿をあげてみると、釣り針がキラリ。
はて、餌はどこ行っちゃったんでしょうね。
「餌、盗られたみたいだな、ほら、付けられるか?」
「やってみる~」
返事はいいんですが、どーもレッド、苦戦してます、ダメです。
「うごくゆえ~」
「不器用だなー」
ポン吉、ササッと餌をつかまえて針に刺します。
「おお、すご!」
「ほら、餌付けたから、さっきのポイントにGO!」
「らじゃー!」
ここからはレッド、なかなか上手なんです。
老人ホームの釣りゴッコで鍛えられてるからかな?
でもですね~
レッドもみどりも釣りは「へたくそ」。
わたしの目から見ても「ちょっと」って思っちゃいます。
みどりは釣ってます。
でも、餌と魚をつかめません。
レッドは釣ってません。
ウキが沈んでからのアワセがなってませんね。
いつもバレちゃってるの。
正直言って、見てられません。
『ねぇねぇ、ポン吉』
『なんだよ、ポン姉』
『退屈じゃないです?』
『は? なんで?』
『だってレッドもみどりも素人でへたくそ』
『あはは、だなー!』
『でもでも、ポン吉楽しそう』
『うーん……』
ポン吉はみどりの釣った魚を外しながら、
『ポン姉はレッドやみどりと一緒で楽しくないのかよー』
『うーん、あんまり楽しくないかも』
『オレって弟も妹もいないだろ』
『お兄ちゃんはいるよね』
『そこなんだよ』
『?』
『オレって今までアニキに頼る事はあっても、弟に頼られる事なんてなかったんだよー』
『そりゃ、弟いませんよね』
『だから、レッドやみどりに頼られると嬉しい~』
『はぁ……』
『オレ、今、お兄ちゃんなんだーってね』
『わたしはお姉ちゃんやってるわけなんですが』
『?』
『プリンとかガマンしないといけないんですよ』
『……』
『お姉さんなんて、損ばっかりです』
『そう?』
『ポン吉、今日は仕事さぼってますよね』
『だって呼び出されたからしょうがないじゃん』
『今頃、ポン太大変ですよ』
『アニキはしっかりしてるから大丈夫』
『それを「お兄ちゃんはしっかりしてるから大丈夫」って言うんですよ』
ポン吉、一瞬黙っちゃいました。
でも、一瞬です。
すぐに笑顔になって、
『でも、お兄ちゃんって頼られるの、かっこいいじゃん!』
ポン吉、レッドに餌をつけてやりながら、
「レッド、レッド」
「なになにー」
「レッド、オレの事『お兄ちゃん』って言ってみて」
「おにいちゃー」
ああ、なんだかポン吉、ほんわかした顔になってます。
今度はみどりの魚を取ってやりながら、
「みどり、オレの事『お兄ちゃん』って言ってみ」
「おおお……お兄ちゃん……なんて事言わすのよーっ!」
ああ、ポン吉、しあわせ、腑抜け顔。
むう……そう言えばわたし、「お姉ちゃん」って言われた事ないかも。
レッドの横にすり寄って、
「ねぇねぇ、レッド、わたしの事『お姉ちゃん』って言って」
「ポン姉~」
「お・ね・え・ち・ゃ・んっ!」
「どうして?」
「どうしても」
と、ミコちゃんがお弁当持ってやってきました。
レッド、釣り竿を置いてミコちゃんにダッシュ。
ミコちゃんに抱きついて、
「ポン姉がいじめるー!」
ああ、ミコちゃんにらんでます。
レッドめー!
一緒にお風呂に入ったら覚えてろー!
わたし、レッドを手招きして、
「どーしたんですか、レッド」
「かんとくしゃん、けがした、ぼくのせい」
「はぁ……」
現場監督さんを見れば、確かに怪我はしてるけど、苦笑いしてますね。