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第112話「動物園はNG」

「遠足の行き先に悩んでるんですね」

「そう」

「村長さんはどこに行ったんです? 定番は?」

「動物園」

「じゃぁ、そこに……」


 ラーメン屋さんにお客を盗られて、パン屋さんはガランとしてるの。

 コンちゃんがぼんやりと眺めているテレビの音声。

 風がそよいで、木の葉っぱをこする音。

 そしてわたしが沸かしているお湯の音とか。

 店長さんやミコちゃんは配達に行ってます。

 シロちゃんはパトロールだし、たまおちゃんは神社。

 レッドとみどりも学校ですよ。

 そんなパン屋さんですが……めずらしく村長さんがいるんです。

 コンちゃんのテーブルでテレビを見つめているの。

 どうかしたんでしょうか?

 沸いたお湯でコーヒーいれて、持って行くついでに聞いちゃうんです。

「はい、コーヒーです、村長さんどうしたんです?」

「あ、ありがとう……ちょっとね」

 むう、村長さん、テレビからマグカップに視線を移して、

「ちょっと……ね」

 物憂げ……どうしたんでしょ?

「遠足……なんだけど」

 村長さん、マグカップを見ながらポツリと言います。

「遠足……またですか!」

「え?」

「また遠足でニンジャ屋敷やるんですか! わたし、子供恐怖症になったかも!」

 そうです、この間、幼稚園の遠足がぽんた王国に来たんです。

 わたし、手伝った上に最後はプロレスまでやったんですよ。

「もうプロレスしないですよっ!」

 そうそう、最後の女子プロレス、わたしには全然話が来なかったんだから!

 プロレスする度に、なんだかいろいろ伝説出来てるみたいだし。

 って、村長さんに笑顔が戻りました。

 コーヒーを一口飲んでから、

「遠足は遠足でも、村の小学校の遠足」

「ああ、村の学校の遠足ですか」

「ちょっと……ね」

「?」

 村長さん、窓の外に目をやりながら、

「私も子供の頃、遠足行ったわ」

「村長さん……どうしたんです?」

「私も行ったの……」

「はぁ?」

 わたし、村長さんが物憂げだったり悩んでいそうなの、さっぱりわかりません。

 めんどうくさいから直球ですよ。

「どうしたんです?」

「私も行ったの」

「それはわかりましたから……なにを悩んでいるのかな~って」

「遠足の行き先」

「遠足の行き先に悩んでるんですね」

「そう」

「村長さんはどこに行ったんです? 定番は?」

「動物園」

「じゃぁ、そこに……」

 って、言った途端に村長さんわたしのしっぽをモフモフするの。

「ちょっ! なんでしっぽを触るんですかっ!」

「私は動物園に行ったの……多分遠足の定番よ」

「動物園に行けばいいじゃないですかっ!」

 村長さん、ムッとした顔でわたしのしっぽをモフモフ。

 すごい怒ってるの。

 モフモフされて怒るのはこっちって思うんだけどなぁ。

 村長さんの顔を見てたら、とてもかみつけません。

「な、なんでしっぽをモフモフするんですかっ! 怒ってるしっ!」

「そりゃ、怒るでしょ」

「どうして! モフモフやめて!」

 村長さん、モフモフをやめてくれました。

 でも、ムッとした顔のままコーヒーを一口飲んでから、

「ポンちゃんはお姉さんって思ってたけど、全然思いやりがないのね」

「??」

「動物園に行くのよっ!」

「それが?」

「レッドちゃんとみどりちゃんはどう思うかしら?」

「!!」

 って、コンちゃん薄ら笑いを浮かべて、

「大丈夫なのじゃ、レッドなぞ『いまはにんげんゆえ』とか言うのじゃ」

 途端に村長さんから「ゴン」なんて重いゲンコがコンちゃんに投下。

 ★三つのダメージと首が引っ込んじゃってますよ。

「ををを……」

 コンちゃん頭を押さえてうめいています。

 いつも思うけど、余計な事言わないといいのに。

 でもでも、レッドはきっとそう言うと思いますよ。

「特にみどりちゃんは動物園から誘拐して来たって話じゃない」

「あ、そうです、長老から聞いた事あります」

「動物園、トラウマかもしれないし」

「で、村長さんは遠足に行く場所に困ってるんですね」

「そう……年に一度は動物園行っておけばってね」

「そ、それはそれで手抜きじゃないです?」

「しょうがないじゃない、動物園は定番なんだから」

「そうかもしれないけど」

「動物園もあちこち変えてたのよ、よその県の動物園とか」

「そうなんだ」

「変に公園とかに行っても、ほら、ここ、山の中よね」

「ええ」

「公園なんか退屈なのよ」

「あー!」

 わたし、考え付きません。

「じゃあ、どうしたら?」

「だから困ってるんじゃない」

「むう……名案、誰か……」

 わたし、コンちゃんを見ます。

 まだ頭を抱えてるの。

「ねぇねぇ、コンちゃん、なにか名案ないですか?」

「ふん、何故わらわが名案を出さねばならんのじゃ、叩かれたのに」

「余計な事言うからでしょ~」

「フンじゃ」

 村長さん、不思議そうな顔で、

「ねぇ、ポンちゃん、なんでコンちゃんなの?」

「だってコンちゃん、若く見えても平家の落ち武者時代の歴史があるんです」

「?」

「だから、行楽の生き字引に違いないですよ」

「昔からの行楽を知ってるって事ね」

 わたしと村長さん、コンちゃんにジッと視線を向けます。

 コンちゃんプイッとそっぽ向いて、

「わらわ、さっき叩かれた、知らんのじゃ」

 しっぽ、ブンブン振ってます。

 嫌がらせして悦に入ってるのを示してますね、このしっぽの振りは。

「最近村長はわらわの事を『コンちゃん』と言う、昔は『コン……ちゃん』だったのじゃ」

 もう……駄々っ娘がいます。

 すごいご長寿だけど。

 村長さん真顔で、

「いなり寿しとか食べたくない?」

「きゃーん、すぐ考えるのじゃ、待つのじゃ」

 すごい簡単に攻略されちゃってます。

 小難しい顔して考えてますよ。

「村長さん、コンんちゃん使うのうまいですね」

「誰だって好物を目の前にしたらあんなもんよ」

 コンちゃん、ウキウキ顔で、

「お座敷遊びとか、鷹狩とか、湯治とか……」

 ブツブツ言ってるのが聞こえてきます。

 村長さんため息ついてから、

「検索ばりに件数だけ出そうね」

「そ、それを言っちゃあ……」

「でも、100出たら2~3個は使えるでしょ」

「じゃあ、出待ちですね」

「そうね」

 すると窓の外に白衣が見えます。

 保健の先生がレッドと一緒にご帰還なの。

「こんちは~」「ただいま~」

 二人の声、レッドはダッシュで村長さんのもとへ、

「そんちょ~、すきすき~」

「お帰りなさい、手を洗って来てね~」

「らじゃー!」

 レッド、奥に行っちゃいました。

 わたし、おやつって思ったけど、

「あの、保健の先生」

「何、ポンちゃん?」

「学校終わるにはまだ早いですよ?」

「退屈だから、校外学習なのよ」

「サボってますね?」

「いいじゃない、早くおやつ出してよ」

「はーい」

 ここで変に逆らったり絡んだりしたら、めんどうくさいだけです。

 コーヒーと残り物のパンでやりすごすの。

 村長さん、そんな保健の先生に、

「ねぇ、長崎先生(保健の先生)、名案ないかしら?」

「村長、何の話です?」

「遠足の行き先のね」

「動物園でよくないです?」

 わたし、コーヒーを保健の先生に出しながら、

「動物園はレッドとみどりがダメなんですよ」

「ああ、それで」

 保健の先生、視線を泳がせてから、

「水族館!」「水族館どーかの!」

 なんと保健と先生・コンちゃん同時です。

 保健の先生、コンちゃんを見ながら、

「水族館なら、ほかの動物を見る事もないでしょ」

「そうなのじゃ、いてもペンギンくらいのものなのじゃ」

 村長さんも一瞬は表情、明るくなったんです。

 でも、すぐに難しい顔になって、

「水族館は高いのよね……」

 パンフレットを出してきました。

 一応水族館、調べていたみたいです。

 保健の先生、そんなパンフレットを見ながら、

「団体割引とか、社員割引を使えばいいのよ」

「!!」

 またそこに、都合よく配達人の車がやって来たんです。

「ちわー、綱取興業っす」

 わたし、見ちゃったんです。

 村長さんの目がキラン。

 コンちゃんのくちびるがニヤリ。

 保健の先生もメガネがピカッ。

 3人の女が、今、まさに狩る者の目になった瞬間なの。

「あ、みなさんそろってどーしたんです?」

 ああ、配達人、ネギ背負ったカモです。

 真っ先に村長さんが、

「綱取興業さんで入場券安く入らないかしら?」

 水族館のチラシを見せながら村長さん語ります。

「かしら?」って言ってますが、きっと「安く仕入れて」の意味でしょね。

 コンちゃん、配達人の腕をゆすって、

「わらわも水族館行きたいのじゃ!」

「いきなり何で水族館なんか……」

「遠足なのじゃ、遠足なのじゃ」

「あー!」

 配達人、チラシを見ながらうなずいていますよ。

 保健の先生、配達人の肩をつかまえて、

「タダで手に入れてきないさいよ、ほら」

 って言いながら、白衣の中からポワワ銃を出しました。

 銃身で配達人の頭をコツコツしながら、

「ほら、ハイって言いなさいよ、ほら」

 って、保健の先生、一度ポワワ銃をお店に向けて発砲!

 ああ、メロンパンに光線が当たっちゃいました。

 黒くなって、チョコパンになっちゃいましたよ。

 試し撃ちの損失は、この際だから配達人のツケにしましょう。

 わたしも女だから、村長さんチームに入っておくんです。

 だってこの3人に逆らう方が無理ってもんですよ。

「むー、チケット屋さんに聞いてみます」

 みんなにゆすられながら、配達人困った顔で言いました。

 なんだかちょっとかわいそう。

 トボトボお店を出て行く配達人。

 タダでチケット出来ないで、もしかしたら自殺しちゃうかもしれません。

 後をついていっちゃいましょう。

 ああ、ポケットから携帯出しましたよ。

 なにかお話して、すぐに携帯閉じちゃいました。

「あのー」

「うわ、びっくり、ポンちゃんどうしたの!」

「いや、みんなにやーやー言われてしょぼんとしてるように見えたから」

「って、ポンちゃんもあっち組だよね」

「あの3人に逆らえと?」

「賢明な事で」

「で、電話はどーだったんです?」

「あ、チケット、なんとかなりそう」

「え……なんかすごく簡単に片付きましたね」

「水族館にも出入りしてるからね」

「綱取興業ってなに屋さんです?」

「なんでも屋さんかな……食材卸かな? どうかな?」

 配達人さん笑ってます。

「チケットはタダだけど、額面が1000円だから500円くらいで売るかな」

 なんだか配達人さん、ぼってませんか?

 わたし、面白い方に味方するんですよ。

「おーい、水族館のチケット、タダだけど500円だってー!」

「!!」

 大声で叫ぶの。

 青ざめる配達人。

 お店から飛び出してくる3人。

 村長さん、配達人をゆすりまくり。

「ちょっと、タダを500円ってどういう事かしら?」

 コンちゃん、配達人の首に腕を巻きつけて……「決めて」

「悪いヤツなのじゃー!」

 保健の先生、配達人のレバーをボスボスと叩きながら、

「あんた、いつからそんな商売するようになったのよ」

 みんなにフクロにされる配達人、ちらっとわたしの方を見て、

「ポンちゃんの裏切り者ー!」

「だって面白くなりそうだったんだもん」

「悪魔ー!」

「わたし、タヌキ」

 って、配達人、本当にボロボロになってます。

 ちょ、ちょっとは助けないといけないかな?

 あ、奥に行ってたレッドが戻って来ましたよ。

「みんなでたのしそー!」

 レッドも配達人の服を引っ張って笑顔えがお。

「ねぇねぇ、レッド」

「なに、ポン姉~」

「遠足、知ってますか?」

「このあいだ、ともだちたくさんでした~」

「ふふ、幼稚園の遠足でしたね」

「ですでーす」

「あの時はよそから遠足に来てたんですよ」

「??」

「レッドは遠足に行きたくないですか?」

「はわわ! いきたーい!」

 わたし、即、テレパシーto配達人。

『ほら、レッドを抱っこして逃げるっ!』

『おお、ポンちゃんが助け舟!』

『わたしがきっかけだったし』

『そうだよね』

 配達人、すぐにレッドを抱っこして、

「遠足、水族館だぞ~」

「わーい、すいぞくかんってなに?」

 配達人がレッドを抱っこしたら、みんな攻撃できなくなりました。

 レッドを高いたかいしながら村長さん達から距離をとる配達人。

 とりあえず、逃げるのに成功したみたいです。

「すいぞくかんとはなにごと?」

「お魚がたくさんいるの」

 レッド、ポカンとして、

「たくさんとは?」

「めだかの学校風味かな」

「おお!」

 よくわからない配達人とレッドの会話。

 でも、レッドは理解したみたいで、

「ちょうみたーい!」

 レッドさん、配達人をゆすりまくりなの。

 水族館……わたしも漫画で見ただけかな。

 わたしも遠足行きた~い。


「ねー!」

「……」

「ねー!」

「……」

「ねーったらねー!」


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