第111話「ニートさんがんばる」
花屋のイケメンのお兄さん…
どうして花屋の娘さんは嫌いなんでしょうね…
って…ちょっと解る気が…
あんなじゃせっかくのイケメンがだいなしって思っちゃうんだけど~
ともかくお兄さん、どっかにやらないと!(どっかにやる!)
「はい、カフェオレです」
わたし、お客さんに飲み物を配ってるところなの。
ちょうどお昼の時間で、神社のお参り帰りの人が何組かいるんです。
みんな神社でひいたおみくじやお守りをテーブルに並べてお話&お食事。
「めんどうくさいのう」
「しょうがないよ、お昼なんだから」
「わらわ、配達に行けばよかったかの」
「ジャンケンで決めたでしょー!」
そう、今日の配達はジャンケンだったんですよ。
わたしとコンちゃん勝ってお店当番だったけど……
こんなにお客さんいるなら配達がよかったのかな?
お店のカウベルがカラカラ鳴って、新しいお客さん。
「!!」
店内のお客さん達が一斉に注目。
入って来たのは花屋のお兄さんです。
イケメンとは思うけど……
『コンちゃんっ!』
『なんじゃ、ポン、テレパシーで』
『花屋のお兄さんです』
『うむ、知っておる、それがどうしたのじゃ』
『お店の空気が変わりましたよ』
『うむ、それはわらわも感じたのじゃ』
お店にいたお客さんは全部女性客なんですよ。
なんたってたまおちゃんの神社のヌシ・白ナマズは美肌になるって噂。
あやかりに来るのは圧倒的に女性なんです。
わたしは胸が大きくなる神さまだったら嬉しいんだけどな~
『コンちゃん、どう思います?』
『は?』
『どう思いますか?』
『何の話かの?』
『花屋のお兄さん、イケメンと思うんですよ』
まぁ、わたしの感想なんですが……
雑誌やテレビで見るような顔です。
『ふむ、確かにそうかのう』
コンちゃんの返事は「YES」だけど、表情を見ると「NO」。
『コンちゃんはときめきませんか?』
途端にコンちゃんため息一つ。
わたしの顔をチラ見してから、
『ポンもときめいておらんではないか』
わたし、ついつい笑っちゃいます。
『お兄さんイケメンかもしれないけど、なんだか……オーラが……』
『わらわもじゃ、あの男は見た目は良いが、微妙なのじゃ』
あ、そんなお兄さんが手を振ってます、注文みたい。
「いらっしゃいませ~」
「あの、あの……食事がしたいんですが……」
「お好きなパンを選んでください、お飲み物は注文してください」
「そ、そうなんですか……アイスコーヒーをおねがいします」
「はい、テーブルはここでいいですね?」
花屋のお兄さん頷くと、すぐにパンを選びに行きました。
わたし、レジに戻って、
「アイスコーヒーだって」
わたしが言うと、コンちゃんすぐに冷蔵庫から出してグラスに注いでます。
『なんだかあの男には「漢」を感じんのじゃ』
『うわ、同感ですね』
って、花屋のお兄さんレジにやって来ました。
メロンパンとアンパンとチーズパンと猫パン……猫パン!
わたし、トレイからお皿に移していると、ついつい猫パンで手が止まっちゃいます。
ちらっと顔を上げてお兄さんを見ると……
お兄さん、ニコニコして、
「このパン、なんだかかわいいですよね~、食べるのちょっとかわいそうかも」
猫パンは猫の顔のパンです。
最近ミコちゃんが作ってるパンなんだけど、お店で人気あるんです。
ネズミやゾウやパンダもあるんですよ。
そりゃ、かわいいと言えばかわいいです。
「そうですね、お店でも大人気なんです」
お兄さん、パンを持って席に行っちゃいました。
わたし、アイスコーヒーをトレイに載せながら、
『コンちゃん、猫パンかわいいって言ってましたよ』
『うむ、わらわもドン引きしたのじゃ……あやつ中は女ではないかの』
『そりゃ、猫パンかわいいけど』
お客さん達、花屋のお兄さんに視線送っているけど、お兄さんはパンを嬉しそうに食べているだけ。
あれだけ美味しそうに食べてくれるのは嬉しいけど……
なんだか食べ方も大人しいというか、女の子っぽい?
『男らしさを感じない人ですね』
『ポン、あの男と配達人ではどっちがマシかの』
『配達人』
そう、目の細いどー見ても「イマイチ」な配達人の方が断然良く感じちゃうの。
アイスコーヒー持って行くと、なんだか本当女の子っぽいオーラを感じます。
でも、イケメンです。
そんなお兄さん、女性客の視線どこ吹く風でパンをたいらげちゃうと、そわそわした顔でやって来ました。
「あのあの~」
「どうしました?」
「お財布持ってきてなくて……」
「あー!」
無銭飲食だそーです。
困った顔でモジモジしている花屋のお兄さん。
コンちゃんが、
「花屋の娘からいただくからよいのじゃ」
「ツケってやつですね」
「その通りじゃ」
「よかった~」
「どうしたのじゃ」
「警察に突き出されるかと思いました」
「普段ならそうするところじゃが、花屋の娘には世話になっておるでのう」
「ありがとうございます~」
ぺこりとお辞儀、顔をあげるとお兄さんは、
「じゃあ、学校に行きますので」
わたし、びっくりです。
「お兄さん、小学生? 中学生?」
「え、まさか~」
「だって学校って、村じゃ小学校と中学校ですよ」
「子供達と遊ぶ約束してるんです……えーっと」
お兄さん考える顔をしてから、
「『毛の色が赤いからレッドー』って、ここの子ですよね?」
言いながらお兄さん、わたしとコンちゃんのしっぽを見ます。
ニコニコしながら、
「タヌキやキツネが化けてる所があるなんて、すごいびっくりです~」
言いながら、手を振って行っちゃいました。
わたしも手を振りながら見送ります。
「なんていうか……男らしくないんですよね」
「おぬしもそう思うかの」
「本当、せっかくのイケメンが台なしですよ」
「どうしてあんなになったものかのう」
窓の外、花屋のお兄さんの姿が小さくなっていきます。
と、カウベルがカラカラ鳴って、今度は「コソコソ」とシロちゃんと花屋の娘さん。
あ、もう一人、帽子男さんもいます。
どうしたのかな?
「シロちゃんおかえり……隠れていたみたいだけど?」
「お店に花屋のお兄さんいたでありますよね?」
「うん……だから隠れていたの?」
これには花屋の娘さんが、
「私、お兄ちゃん嫌いだもん」
すぐに財布からお金を出すと、
「兄がすみません……まったくモウ」
わたしがレジでお金を出し入れしていると、コンちゃんが娘さんに、
「わらわもおぬしの気持ち、わかったかの」
「え、コンちゃんもわかるの!」
「あの女々しい男はどーかならんのかの」
「でしょ、女々しいっていうのか、イライラするんですよね」
「わかるのじゃ」
なんだかこれだけけなされると、ちょっと弁護してあげたくなりますね。
「せせせ……繊細なんじゃないですか?」
「違うっ!」「違うのう」
花屋の娘さん・コンちゃん、すごいはもってます。
「お兄ちゃんずっとあんななんですよ、一人でなんにも決められないし」
「大体男のくせに猫パンかわいいなぞ、アホかの」
「うわ、お兄ちゃん、そんな事言ってたんですか!」
「アイスコーヒー飲むのに小指立てておったのじゃ」
「うわー、気色悪いっ」
なんだか弁護しなきゃよかったかな。
わたしが責められてる空気なんだもん。
「あれくらいのイケメンなのじゃ、ちょっとは男らしくしたらどーかの!」
「ですよね、ですよね、モジモジしてると叩きたくなる」
「配達人の方がマシなのじゃ」
「あー、私もそう思います、マシです、ええ!」
「おいおい」
あ、帽子男さん、割り込んできました。
「自分の身内を悪く言うもんじゃねーよ」
「あんな身内を持った事ないから用務員さんは言えるんですっ!」
花屋の娘さん、帽子男にかみついてます。
こーゆー時は関わらない方がいいのにね。
ああ、花屋の娘さん、帽子男をゆすりまくってます。
「あのお兄ちゃんのどこがいいって言うんですかっ!」
「っても……子供達と仲良く遊んでるぜ、なかなかいいヤツじゃねーか!」
「そんなのシロちゃんもポンちゃんもやってますよね!」
わたし、シロちゃん、コクリ。
「私だってお兄ちゃんいない時は遊んでたし、用務員さんも遊んでますよね」
「でもな~、あの歳の男で子供受けいいってのは」
「配達人も遊んでますよね」
「まぁ、そうなんだが……」
帽子男さん、ちょっと視線を泳がせてから、
「じゃあ、花屋の娘はあの兄貴をどうして欲しいんだよ?」
「死んでほしい」
「おいおい」
「じゃあ、用務員さんなんとかしてください」
「!」
「私は……会わなければケンカしなくて済むんです」
「会わなければ……か」
「お兄ちゃん、夜には私の家に帰って来るんですよ」
「今は花屋に居候……ってわけだな」
「わたしは早くどっかに行って欲しい、消えて欲しい」
「……」
「お兄ちゃん寝てるの見ると、殺意がみなぎってくるの」
ぶ、物騒ですね。
でもでも、本当に花屋の娘さん、あのイケメンお兄ちゃんが嫌いみたい。
まぁ、ずっと一緒だと、イライラが募るの、わかる気もしますね。
って、帽子男さん、わたしを見ながら裸電球が点灯しましたよ。
「さっきポンちゃん、繊細って言ってなかったっけ?」
「ええ……言いましたけど」
「何か理由っていうか、そんなの見た事あるのか?」
「え、えっと……別にそんなふうには……」
「細かい所とか、見たり感じた事ないのか?」
これにはすぐに花屋の娘さんが、
「細かいの! この間、お昼ごはん作ってくれたんですよ」
「へぇ、優しいところ、あるじゃないですか」
「ポンちゃん、どっちの味方?」
「だ、だって、ごはん作ってくれたんですよね」
「ごはんはいいから、さっさと出て行けばいいのに!」
わーん、援護するとすぐに責められます~
ここは話題を元に戻して、
「で、ごはんがどうかしたんですか?」
「やきめし作るのにいちいち調味料計量するの!」
「べつによくないですか?」
「やきめしくらい、適当でいいのよ、素で味付けするんだから!」
あー、もう、花屋の娘さんはカッカして頭から湯気たててますよ。
顔も真っ赤で怒ってる怒ってる!
「よーし、お前の兄貴、俺がもらった」
「え!」
みんなびっくりではもっちゃいました。
帽子男さん、ニヤニヤしながら、
「今のやきめしの話、俺の思った通りだ」
「帽子男さん、何か作戦あるんですか?」
「あの男、料理の才能があるかもしれん」
帽子男さんが目をやると、花屋の娘さんもコクコク頷きます。
「お兄ちゃん、料理はいいかもしれません」
「ラーメン屋で雇ってやるからよ」
「!!」
イケメンラーメン店、開店です!
お昼なのに、お店はガラーンとしてるの。
駐車場には車が三台とまっています。
「ふわわ……お客さんさっぱりですね」
わたしがつぶやくと、いつもの席でテレビを見ていたコンちゃんが、
「ふわわ……あくびが移ってしまったではないか」
「わたしもそっちでテレビしようかな~」
「どうせ客もおらん、一緒にダラダラするのじゃ」
わたし、お茶を持ってコンちゃんの斜め隣に座ります。
コンちゃん、早速湯呑に手を出しながら、
「ポン、ちょっと聞くがの」
「なに、コンちゃん」
「駐車場に車がおる……降りるのも見たがの」
「うん、わたしも見たよ」
「全部で十人くらいおったのじゃ」
「うん、知ってる」
「別に、細かい事は言わぬが……なぜ客がおらんのじゃ」
「さぁ」
わたし「さぁ」って言ったけど、確かにどうしてでしょうね。
別に村に用事がある人なら駐車場に車をとめたっていいんです。
でもでも、わたし、参拝終わったら食事かお茶で寄るって思ってたもん。
それが全然お客さんいないんです。
「参拝に行った人達はどうしちゃったんでしょ?」
なんて言ってたら窓の外に人影です、二人。
でも、お客さんじゃないの、シロちゃんと帽子男さん。
ドアが開いてカウベルがカラカラ鳴るの。
「おかえりシロちゃん、いらっしゃい帽子男さん」
「ただいまであります」
「おう、ポンちゃん、暇そうだな」
「そうなんですよ、参拝に行った人はどこに行っちゃったんでしょ?」
あ、また人影です、今度もお客さんじゃなくて、村長さんに花屋の娘さん。
「いらっしゃいませ~」
村長さんも花屋の娘さんもニコニコしてます。
なにかいい事あったんでしょうか?
わたしが聞きたそうな顔してお茶を出していると、帽子男さんが、
「ポンちゃん、客、全然だな」
「そーなんですよ、どうしてでしょ?」
「みんなラーメン屋に行ってるんだよ」
「はぁ? ラーメン屋さん?」
別にお食事なら、ラーメンでもいいですよ。
でもでも、なんでしょ、わたし、パン屋さんの方がおしゃれと思うんだけど?
「ラーメン屋さんに全部行っちゃったんです?」
「ああ、まぁ、な」
「どうして?」
「あのニート兄貴を引き取ったんだよ」
「?」
「やきめしに計量する細かいヤツだったろ」
「ああ、そんな事、言ってましたね」
「作り方教えたら、すぐにメニューをマスターしやがった」
「へぇ、料理の素質、あったんですね」
「ポンちゃん、解ってないなぁ~」
「??」
「ニート兄貴、イケメンだったろ、二枚目」
「!!」
わかりました。
参拝に行った女性客がどーしてパン屋さんに来なくなったか。
あのイケメンにとられちゃったんです。
村長さん、ニコニコしながら、
「名物が増えてよかったわ、また村おこしね」
花屋の娘さんも笑顔で、
「お兄ちゃん、学校に住み込む事になって、私も一人暮らし満喫」
シロちゃんも頷きながら、
「黙ってネギを刻んでいたであります、案外合っているようでありました」
帽子男さん、ニヤニヤしながら、
「これでラーメン屋、ニート兄貴に押しつけて俺も用務員ゆっくりできるわ」
花屋のお兄さん、みんな思惑にはまっちゃってるみたい。
でもでも、それはそれで花屋のお兄さんにもよさそうです。
しかし……パン屋さんのお客さんは減っちゃいました。
「コンちゃんコンちゃん、お客さん盗られちゃったらお店がつぶれちゃいます」
コンちゃん、お茶をすすりながら、
「むう、確かにすっからかんじゃの」
「こっちもイケメンです、イケメン」
「しかし……あのイケメンに店長ではのう」
店長さんも格好いいと思うけど、花屋のお兄さんのイケメン度にはかなわないような。
「コンちゃん、なにかいい手はないですか?」
普段はグダグダしているコンちゃん。
コンちゃんも石の上に三年。
三年寝たコンちゃん。
さぁ、妙案をどうぞ!
「話を聞けば、ラーメンおいしそうなのじゃ」
「ですね」
「出前を頼むのじゃ」
「はぁ! なにラーメン屋さんの売上に協力してどーするんですかっ!」
「わらわが払う訳がなかろうが、ツケて、未払い踏み倒しなのじゃ!」
途端にシロちゃん・帽子男さん・村長さん・花屋の娘さんが立ち上がりました。
四人同時にコンちゃんにチョップ!
うわ、コンちゃん、チョップの勢いでテーブルに頭ぶつけてます。
「ゴン」なんていって、★四つのダメージなの。
「無銭飲食は犯罪であります」
「こら、今までのツケも払わないつもりじゃねーだろうな?」
「まさかラーメン屋をつぶす気?」
「お兄ちゃん家に帰ってきちゃうでしょーっ!」
四人の怒りのオーラに、コンちゃん小さくなってますよ。
花屋のお兄さんの再就職が決まっておめでとうございます。
でもでも、パン屋さんには危機到来かもしれません。
「はい、コーヒーです、村長さんどうしたんです?」
「あ、ありがとう……ちょっとね」
むう、村長さん、テレビからマグカップに視線を移して、
「ちょっと……ね」
物憂げ……どうしたんでしょ?