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第109話「花屋のお兄さん」

「昨日、雨降ってたでしょ?」

「はい、結構すごかったですよね、雷鳴ってたし」

 花屋さんの近所で土砂崩れなんだって。

 朝から花屋の娘さん、パン屋さんに来てるんです。

 そこに配達人やって来るんですが…


 雨が降ってるんです。

 こんな日の配達はちょっと大変。

 バスケットが濡れないように重武装で配達するの。

 そんな配達も終わって帰るわけなんですが……

 学校で雨宿りしていると、

「ポン姉~、ごいっしょ~」

 レッドにつかまっちゃいました。

「そうですね、一緒に帰りますか」

「やったー!」

 レッド、うれしそうにピョンピョン跳ねてます。

 すると奥から保健の先生出てきて、

「あら、ポンちゃん」

「保健の先生、こんにちわ~」

「雨の日の配達、大変ね」

「そうですね……でも、たまには雨も降りますよね」

「そうね~」

 保健の先生、レッドをつかまえてカッパを着せます。

「子供は雨の日も元気よね~」

「ですね~」

「私なんか雨ってだけなんだか暗くなっちゃうけど……」

 保健の先生、レッドの体を確認したらポンポンお尻を叩いて、

「はい、ちゃんと着れてる、帰ってよし」

「わーい!」

「本当、子供達は雨だと余計に濡れたりしたがるわよね」

「レッド、はしゃいでました?」

「運動場に出たがるのよ~」

「ふふ……先生は子供の頃、どうでした?」

 途端に保健の先生、固まっちゃいました。

 でも、すぐにクスクス笑うと、

「そうね、私も子供の頃はそんなだったかしら」

「そうなんだ」

「ポンちゃんはどうだったの?」

 保健の先生、急に真顔になって、

「ポンちゃんって子供の頃はタヌキだったのよね」

「そうですね、つい最近までタヌキだったんですよ、今は人間ですけど」

「どんな暮らしをしていたの?」

「毎日お母さんと一緒に『なわばり』を回って、千代ちゃんの家でごはんしてました」

「な、なんで千代ちゃんが出てくるの?」

「わたし、野良で、千代ちゃんの家に行くとゴハンが出てきたんです」

「そ、そうなんだ」

 さーて、わたし、レッドの手をひいて出発です。

 こらこら、レッドさん、水たまりでジャブジャブしない!

 もう、一歩出ただけでこうです。

 保健の先生もわたしもあきれて笑っちゃうの。

「!!」

 空がゴロゴロ言ってます。

 雷さまかな?

「先生、今の、聞きました?」

「うん、ゴロゴロ言ってたわね」

「早く帰った方がよさそうですね」

「ポンちゃん、ダッシュダッシュ!」

 ですね、わたし、はしゃいでいるレッドを抱えて走ります。

 おへそ、取られたらお腹ツルンツルンになっちゃうもん。


 朝です、昨日の雨がうそのように青空。

 祠の掃除をして、花壇の花に水やりして、朝ごはんって時です。

 お店のカウベルが鳴って、開店前なのにお客さんみたい。

「いらっしゃいませ~、まだお店は……」

「おはようございま~す」

「花屋さん! どうしたんです?」

 花屋の娘さんですよ。

 どうしたんでしょ?

 今日はレッド、ひまわり泥棒してないと思います、朝一番だし。

「わーい、はなやしゃん!」

 レッドやって来て抱きついてます。

「すきすきー!」

 もう花屋の娘さんにキスしまくりです。

「ちょっとアンター!」

 みどりもやって来て、花屋の娘さんの服を引っ張ってます。

「なんで朝からここに来てるのよー!」

 あ、そこはわたしも聞きたいところです、ナイスみどり!

「本当、花屋さん、朝からなんです?」

「えへへ……桃をあげるから朝ごはんいただける?」

「はぁ……」

 花屋の娘さん、風呂敷包みを開いて桃を見せてくれます。

 甘~い匂いがします、おいしそう~

 レッドとみどり、風呂敷を持って奥に行っちゃいました。

「桃、ありがとうございます」

「痛んでいるのもあるから……それはジャムにでもして」

「はい……あれ、これは?」

 風呂敷とは別に、箱詰めの桃があるんです。

「これは売り物」

「はぁ……」

「綱取興業さんに買ってもらってるんだけど」

 花屋の娘さん、力なく笑いながら、

「昨日、雨降ってたでしょ?」

「はい、結構すごかったですよね、雷鳴ってたし」

「あー!」

「なんです?」

「雷って……聞いてたんだ」

「ゴロゴロいってましたよ……レッドを抱えて帰って来ました」

「あれ、土砂崩れ」

「はぁ!」

「花屋のすぐ下が土砂崩れで、道がね」

「大丈夫です?」

「今日、配達人さんが来る予定だったけど、通行止めなの……だからここで受け渡し」

「そうなんだ」

 奥からミコちゃん出て来て、

「花屋さん、桃、ありがとうございます、朝ごはん一緒にどうぞ~」

「どうもです~」

 ミコちゃん、心配そうな顔で、

「花屋さんは村からちょっと離れているけど大丈夫?」

「お店や畑は平らな所だから、結構へっちゃらなんです」


「いってきま~す!」

 レッド、ピョンピョン跳ねて言います。

「行ってくるわよ」

 みどり、そんなレッドの手を握ってるの。

「行ってきます」

 たまおちゃん、静々、いつもこんなならいいのに。

「任務につくであります」

 シロちゃん敬礼。

「では、行って来るかの」

 めんどうくさそうなコンちゃん。

「じゃ、ポンちゃん、お店、お願いね」

 ミコちゃん、コンちゃんにチョップをしながら出発です。

 わたしと花屋の娘さん、店長さんで手を振ってお見送りなの。

 みんなが行っちゃってお店に入りながら、

「花屋さんは忙しいんですか?」

「うーん、本当は朝、早くないといけないんだけど」

「?」

「そこまで忙しくないかな……うん」

 花屋の娘さん、コンちゃんの定位置に陣取ると、

「私、大学で農学部だったの」

「農学部……お花好きだったんです?」

「最初は一番簡単だったから……でも、そう、植物とか好きになったかな」

 わたし、パンを並べながら、

「それで花屋さんになったんですね」

「そこなのよ……ポンちゃんってタヌキだからわかるかな?」

「なにがです?」

「花屋さんのイメージ、わく?」

「花屋さん……漫画やドラマで見てるからちょっとは想像できますよ」

「私の花屋さんのイメージは……小さなお店でお花がいっぱいで」

「ふふ、乙女チック~」

「私、女の子だもん」

 って、わたし、手が止まっちゃいます。

「小さなお店でお花がいっぱいって……今と真逆じゃないです?」

「そ、そこなのよ……」

 花屋の娘さん、苦笑いを浮かべて、

「学生の時にアルバイトしてお金を稼いでいたのよ」

「それって花屋さんの開店資金なんです?」

「うん、そのつもり」

「すごいしっかりした計画だったんですね」

「ありがと、ポンちゃん……でも……」

「?」

「山の中の花屋さんなの……イメージと正反対」

「ですね……どうしたんです」

 花屋の娘さん、ため息をつきながら、

「貯まったお金でなんとかなりそうな物件があったのよ!」

「それが『あそこ』なんですね」

「うん」

「あのー!」

 わたし、正直あきれちゃいました。

 どーして山の中の物件買っちゃうんです? ええ!

「おかしいって思わなかったんです?」

「駅のすぐ前って書いてあったの」

「駅……そんなのあるわけないじゃないですか、こんな山の中にっ!」

「ポンちゃん、村の事、わかるよね?」

「?」

「ほら、あちこちにスロープカーあるでしょ、あのミカンとか運ぶの」

 あります! あります!

「え……まさかあれが駅とでも!」

 花屋の娘さん、外を見てため息をついてます。

「だまされたの」

「えっと……どれだけボケてるのか……」

「タヌキのポンちゃんに言われるなんて……私もそう思う」

 どんよりした空気。

 でも、花屋の娘さん、顔を上げると、

「お金も使いきっちゃったし、ローンもあるから大変だと思ったけど、この村楽しいし」

「あ、なんだかすごくポジティブですよ、いいですよ!」

「綱取興業さんが買ってくれるから、営業しなくてもいいしね」

「へぇ、あの目の細い配達人も役に立ってるんですね」

「それに……」

 花屋の娘さん、わたしを手招き。

 なにかな?

 ちょ、ちょっとー!

「なんでしっぽモフモフするんですかっ!」

「いや……ポンちゃんタヌキなんだよね?」

「今は人間なんですっ!」

「いやいや、しっぽあるし」

「今は人間なんですっっっ!!!」

 わたしがしっぽを振ったら放してくれました。

 真面目な顔でわたしをじっと見て、

「いや……初めてレッドちゃんのひまわり泥棒を捕まえた時にもびっくりだったけど……」

「レッドのひまわり泥棒はすみません」

「キツネのレッドにコンちゃんに……」

「それがどうかしましたか?」

「漫画やゲームみたいなファンタジーな村に本当に住めるなんてびっくりよ」

「よろこんでいただけましたか」

「うん……借金とかだまされたの、ふっとんじゃってるわ」

 花屋の娘さん、ニコニコ顔で、

「ふふ、今はすごく楽しいって思ってる……それにね……」

「?」

「わたし、大学生活で……逃げたい男がいたの」

「え、男の話!」

「最初はその逃げたいのがあったかな」

 むー!

 花屋の娘さんはすごい美人さんかどーかと言われるとですね……

 わたしはコンちゃんやミコちゃん、シロちゃんを毎日見てるんです。

 たまおちゃんだってかなりポイント高いですきっと。

 だから花屋の娘さんはちょっと霞んじゃうかな?

 でも、いい感じの人です。

 きっとモテたんだろうな~って思うんです。

「そうなんだ……悪い男にひっかかってたんだ」

「そう……絶対逃げられない……関係で……」

「ににに肉奴隷とかっ!」

「あのー、ポンちゃん、そーゆー台詞はポンちゃんのイメージ、ブチ壊しなんだけど」

「だって逃げられない関係って……」

 あ、途端に表情が暗くなっちゃいます。

「うん、絶対逃げられない、切れない関係なの」

「ままままさか子供がいるとか?」

 って、花屋の娘さん、吹き出してます。

 立ってわたしの頭をグリグリしながら、

「ポンちゃん、たまにすごい事言うね」

「痛いいたいイタイITAIっ!」

「痛くしてるの」

 なんだかわたしがレッドにしてるのをやられちゃってます。

 攻撃が終わると、

「あそこに住み始めた時は、そりゃだまされたってショックだったわ」

「今は違うんですね」

「うん……そいつから離れる事が出来てすごくしあわせ」

 花屋の娘さん、ニコニコ顔で言います。

 その笑顔にウソはないって思うんですが……

 一度は逃げられない関係だったわけですよ。

 それも「絶対」逃げられない関係。

 その辺を思うと、ニコニコ顔もどこか影があるように思えたり。

「ちょっと懐かしく思ってませんか?」

「思ってない!」

 あ、こわい顔でこっち見てます。

 ほんとうに、よっぽど、すごく、とっても別れたかったみたい。

 むー、早く配達人来ないかな。

 あれこれ聞いちゃったから、ちょっと気まずい空気になっちゃいました。

 って、思ったら来ましたよ、配達人。

 車を降りて……あれ、今日はもう一人います。

 それもすっごい美形男子。

 配達人と並ぶと、配達人が消えてしまいそうなの。

 そう、この美形男子をネタにこの気まずい空気を変えちゃいましょう。

「ねぇねぇ、花屋さん、かっこいい男ですよ!」

「……」

「ねぇねぇ!」

 わたし、肘でツンツン。

 でも、花屋の娘さん、ピクリともしません。

「ねぇ……ねぇ……えっと……」

 花屋の娘さん、真っ青。

 カウベルがカラカラ鳴って、配達人と男の人、入って来ました。

 って、美男子さん、パッと明るい顔になって手を振ってるの。

 笑顔の美形さん。

 真っ青花屋の娘さん。

「!!」

 わかりました!

 これが花屋の娘さんが逃げていた男なんです。

 でもでも、全然悪い男には見えません。

 さわやか美形さんなの。

「おーい、探したよー!」

 笑顔で近付いて来る美形さん。

 花屋の娘さん、周囲を見回してフランスパンを構えました。

「お兄ちゃん、来ないでって言ったでしょ!」

 え!

 お兄ちゃんなんですか!

 わたし、花屋の娘さんをジッと見つめます。

「ポンちゃん、こいつがさっき話したヤツよ!」

「お兄ちゃんなんですよね?」

「そーよ!」

「どこが逃げられないんです?」

「兄妹じゃ、縁切れないでしょ」

「そ、そーゆー意味ですか~」

 花屋の娘さん、フランスパンで攻撃してます。

 パンの代金は後ほど頂くとして……

 お兄さんはそんなに悪い人には見えませんよ?

 こ、これからどうなっちゃうんでしょう~


「わらわ、お散歩なのじゃ」

「コラー!」

「うむ、なんじゃ、ポン!」

「お散歩ってなに! 今から遠足が来るんですよ!」

「知っておるのじゃ、遠足は『ぽんた王国』に来るのじゃ」


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