第108話「みどりのお話」
お泊り会の夜はコイバナ?
とおもいきやみどりの昔話なんですよ。
みどり、長老が動物園から連れて来たんです。
動物園のみどりってどんなだったんでしょうね?
ってか、千代ちゃん、わたしの過去は語らないでいいんですよっ!
お泊り会の夜ですよ。
「あの、村長さん……」
「何、ポンちゃん?」
わたし、寄宿舎……老人ホームの中を見て思ったんです。
「わたし、親が全員来るとばかり思ってました」
「ああ、その事」
「違うんですか?」
そう、今回のイベントにやってきた親御さんは3~4人って感じなの。
「うーん、村長さん、わたしですね」
「何? ポンちゃん?」
「子供も親も、会えるの楽しみじゃないんでしょうか?」
「ええ、楽しみなんじゃない?」
「じゃぁ、なんであれだけしか来ないんでしょう……」
「ふふ……ポンちゃんなら解ってるって思ってたんだけど」
「??」
「ポンちゃんだってお仕事忙しいでしょ?」
「まぁ、忙しいと言えば忙しい……かな?」
わたし、こっそり苦笑いなの。
そりゃ、朝にはいつも配達に出てるけど……
パン屋さん、観光バスが来る時以外はのんびりしたもんです。
「親御さんも仕事で忙しいのよ」
「で、来れないと……」
「だから催し物いろいろやるの、運動会とか、学芸会とか」
「ここに来る理由を作ってるわけですね」
「そうね」
一緒しているミコちゃんが、
「最初お泊り会を聞いた時はちょっと心配だったの」
「なに、ミコちゃん、心配って」
「親御さんがたくさん来たら……運動会の時は結構来てたのよ」
「……」
「レッドちゃんやみどりちゃんがどう思うかなって」
レッドとみどり、さっきから他の子とゲームしたりしてますね。
とっても楽しそうですよ。
「今日はちょっとしか来てないから……よろこんでいいかわからないけど、ちょうどよかったかなってね」
ミコちゃん、レッドを見ながら、
「わたし、レッドちゃんがいなかったらさみしいもん」
「ミコちゃんレッドすきーだもんね、みどりも好きだよね」
「子供好き」
女の子がやって来たと思ったら、みどりと千代ちゃんが立ちあがって行っちゃいます。
その女の子、わたしのところにもやって来て、
「ポンちゃんもお風呂どうぞ」
ああ、お風呂のお誘いだったんですね。
途端に村長さんの表情に緊張が!
遊んでいるレッドとポン太・ポン吉を連れて戻って来ます。
「どうしたんですか?」
「ポンちゃん、私、ちょっと外します」
「はぁ?」
「この子達、借りていきますよ」
「借りて……どこに行くんですか?」
「今日はお風呂、ここのにしちゃったでしょ」
「老人ホームのお風呂、大きいから大勢で入れるんですよね」
はて、話が見えません。
「レッド達をどうするんです?」
「温泉に行って来る」
「なにもここにお風呂あるんだか……あー!」
温泉の神さまです、行かなかったらヘソ曲げちゃいますからね。
「この子達は神さま知ってるから、余計な心配なさそうだし」
「はい、行ってらっしゃ~い」
そうそう、今回のお泊り会、結局パン屋さん全員参加してるの。
見守りっていうのが一番の理由みたいだけど……
親御さんが来ない子供達の相手をするのが理由かな。
わたし、コンちゃん、ミコちゃん、シロちゃんにたまおちゃん。
店長さんだっているんです。
みんなで子供達と過ごしているの。
うーん、いつも昼に会ってるはずなんだけど~
今日はいつもとちょっと違う感じかな。
夜にみんなでごはん食べたり、テレビ見たり、ゲームやったり。
あっという間に消灯時間が来ました。
でもでも、みんな、目がランランとしてますね。
「店長さん、まだみんな、寝てくれそうにないですよ」
「俺もお泊り会に来た事あるけど……楽しいからね」
コンちゃんやって来て、
「しかし寝る時間が来たのじゃ」
「コンちゃん、子供達言う事聞かせられますか?」
「わらわ、消灯後はマージャンをするのじゃ」
「はぁ?」
今度は髭教師・吉田先生登場です。
「俺とコンちゃん、シロちゃん、用務員でマージャンするんだよ」
「吉田先生……だから子供達が邪魔なんですね?」
「邪魔とか言ってないだろ……」
あ、でも、ビンゴですよね。
今の吉田先生は何か考えている顔です。
頭にピカーっと裸電球点灯。
「よい子は9時になったらお休みなんだよ」
「いまどきそんな子いるんでしょうか? 深夜アニメやってるご時世ですよ?」
「ポンちゃんは何時に寝るんだよ」
「パン屋は朝が早いから、早くお休みしちゃうんです」
「じゃぁ、協力しろよ」
店長さん笑いながら一歩前に出ると、
「村長さんが来るぞ~」
途端にみんなの表情に緊張が!
大人しく部屋に引っ込んで行きます。
「村長さんっておそれられてるんですね」
「俺も学校行ってる時はしょっちゅう怒られたよ、俺の頃は吉田先生いなかったし」
そんな事を言っている店長さんの背後に、さっきお出かけした村長さんの影。
店長さんにチョップをしながら、
「あら、またお説教されたいのかしら」
「そそそ村長~!」
店長さん縮みあがってますよ。
「ちょっとアンタ!」
いつの間にかみどりがわたしの服を引っ張ってます。
なにかな?
「もう寝る時間でしょ、一緒に寝てあげるわよ」
べ、別に一緒に寝てくれなくてもいいけど……いつもと違って不安なのかな?
千代ちゃんもやって来て、
「ポンちゃん、一緒に寝よう~」
『千代ちゃん千代ちゃん』
『なに? ポンちゃん?』
『千代ちゃんは平気そう』
『うん……たまにお呼ばれでお泊りしてるから』
『そうなんだ~』
『みどりちゃん不安そうだし』
『ですね~』
わたし、みどりと手をつないで一緒に行きます。
実はわたし、不安とかないけど……
いつもと違うから、ちょっと緊張してるかな。
まだまだ眠たくないんですよ~
お布団に入っていると、みどりが枕を抱いて、
「一緒に寝てあげるんだから!」
「はいはい、どーぞ」
みどり、わたしの横に入ってきます。
たまに一緒に寝てるからなんですが……今日は抱きついてきましたよ。
「みどり、今日は楽しかったですか?」
「ふん……楽しかったわよ!」
千代ちゃんもやって来て、
「私も入れて~」
「はいはい、千代ちゃんもお子さまです」
「ふふ……ポンちゃんに言われるなんて」
「は?」
「だってポンちゃんは……家に来てたタヌキなんだよね?」
「い、今は人間なんですっ!」
「だから、家に来てたよね」
むう、昔の事は話したくないのに~
千代ちゃん、わたしの顔を見ながら、
「ポンちゃん、いつもゴハンを食べたら、縁の下で寝てたもんね」
「~!」
「私、つかまえて抱っこしても起きなかったし」
「千代ちゃん、わたしがタヌキだった時の事はやめて~」
「何で? 楽しいのに~」
千代ちゃん、最初は笑ってましたが、途中で真顔になって、
「私よりお姉さんとは!」
「そうです、今は設定で中学生だからお姉さんなんです」
わたしが威張っていると、千代ちゃんクスクス笑ってます。
むー
こう、千代ちゃんの攻撃をかわさないと。
どこか別方向に……
そうです、隣にはみどりがいるんです。
みどりに攻撃の矛先を向けちゃうんです、えいっ!
「みどりは動物園にいたんですよね」
「そうよ、悪い?」
「動物園でなにをやってたんですか?」
千代ちゃんも興味深そうに、
「そうそう、みどりちゃん、動物園でどうだったの?」
みどり、わたしをじっと見ながら、
「動物園……」
もしかしたら嫌な事聞いちゃったんでしょうか?
みどりはしばらく黙っていましたが、
「いつもお散歩してたのよ」
「は?」
「お散歩よ、お散歩!」
「動物園なのに?」
わたし、動物園に行った事ないけど、テレビで見て知ってるつもり。
「動物園って檻の中に入れられてるんじゃないんです?」
「ワワワワタシは子供だから、お散歩してたのよ」
「?」
「みんなに撫でられたりしてたわよ!」
さっきから黙っていた千代ちゃんが、
「ああ、触ったり餌をあげられる動物、いるもんね」
「そうよ、その当番だったのよ!」
「みどりちゃん、お客さんとお散歩してたんだ~」
「だけじゃないわよっ!」
ほかになにやってたんでしょ?
わたしと千代ちゃんがじっと見ていると、
「数字のカードがたくさんあって……」
「で?」
「係員がパネルを見せて……」
ふむふむ。
「計算してその数字のカードを置くのよっ!」
「計算させられるわけですね」
「そうよっ!」
千代ちゃん、パッと明るい顔になって、
「あ、私、テレビて見た事ある!」
「そ、そうっっ!」
「あれってみどりちゃんだったんだ~」
千代ちゃん、ちょっと考えてから、また思い出したみたいで、
「そうそう、みどりって言ってた、うん、思い出した!」
「千代は知ってるんだっっ!」
「賢いタヌキがいるってテレビだったよ~」
「そ、そうよ、ワタシは賢いんだからっっ!」
「だから学校にもすぐに馴染めたんだね~」
「ワタシはすごいんだからっっ!」
でも、千代ちゃん、すぐに邪悪な顔になります。
「くくく……みどりちゃん……」
「ななななによっ!」
「係員さんって、店長さんに似てなかった?」
「!!」
途端にみどり、真っ赤です。
千代ちゃん、さらに悪い目になって、
「みどりちゃん、係員さん、好きだったんだよね~」
「そそそそんな事ないんだからっ!」
「テレビで甘えてたよ~」
「そそそしょんな事ないんだからっ!」
あー、もう、バレバレですよ。
みどりもいろいろあったんですね。
わたし、ちょっとびっくりです。
ずっと一緒に暮らしているのに、知らない事をたくさん聞きました。
千代ちゃん口撃にわたわたしているみどり。
目が合いました。
「ちょっとアンタ、文句あんのっ!」
「なにもないですよ~」
あ、でもでも、ちょっと聞きましょう。
「動物園に帰りたくなりました?」
「!!」
みどり固まっちゃいました。
口撃していた千代ちゃんも黙っちゃいます。
みどり、わたしの腕にしがみついて、
「アンタと一緒にいてあげるわよっ!」
保健の先生、急に真顔になって、
「ポンちゃんって子供の頃はタヌキだったのよね」
「そうですね、つい最近までタヌキだったんですよ、今は人間ですけど」
「どんな暮らしをしていたの?」
「毎日お母さんと一緒に『なわばり』を回って、千代ちゃんの家でごはんしてました」




