第107話「お泊り会と温泉の神さま」
学校でお泊り会があるそうです。
レッドとみどりにも来てほしいんだって。
でもでも、予定には「温泉」が!
温泉には温泉の神さまがいるんですよ。
村長さん本気で行くつもりでしょうか?
レッドが帰って来ましたよ。
ふふ、今日は村長さんと一緒みたい。
「ただいま~」
「おかえり~、おやつの前に手を洗って~」
「はーい!」
レッドは奥に行っちゃいました。
村長さんニコニコしながら、
「ポンちゃん、ちょっといいかしら」
なにかな?
「今度、学校でお泊り会をするんだけど……」
「はぁ」
「レッドとみどりちゃんもだけど、ポンちゃんとシロちゃんにも来てほしいかなって」
「わたしとシロちゃんですか?」
「ええ……お泊り会は何をするかわかる?」
村長さん、わたしにプリントを見せてくれます。
えーっと、つまり、学校でみんなでお泊りするってイベントですね。
「村長さん、学校の生徒は大抵、寄宿舎暮らしなんですよね?」
「ええ、ポンちゃん知ってるのよね?」
「はい……千代ちゃんから聞きました」
「千代ちゃんは村の子だけど……千代ちゃんもお泊り会参加するわよ」
「そうなんですか……でもでも、なんでわたしとシロちゃんなんです?」
「?」
「ミコちゃんが行けばいいような……」
「ミコちゃんにもお願いしたけど、レッドちゃんとベトベトになるからって辞退されちゃったの」
「そうなんですか……」
「コンちゃんは何もしないし」
あー、ですね、106話もそんな話でした。
「ポンちゃんシロちゃんには、見守りもしてほしいの」
「じゃあ、無理言ってもミコちゃんがよさそう」
「ポンちゃんもそう思う? ポンちゃんからもお願いしてもらえないかしら」
「あのー……コンちゃんもいたほうがいいかも」
「え、コンちゃんも?」
「コンちゃん、なにもしないけど、見守りくらいできるかも」
「そ、そうね」
わたし、プリントを見てて……ちょっと気になりました。
「あの、村長さんっ!」
「何かしら?」
「ココ! ココ!」
「?」
スケジュールに「温泉利用」ってあるの。
「村長さん、温泉使った事ありますか?」
「ええ、あるわ、出来た時、一番に使った気がするし、今でもたまにね」
「そうなんですか……」
わたし、視線を泳がせてから、
「あ、村長さん、大人ですもんね」
「何の事かしら?」
「村長さんは温泉の神さまを知らないんですよね?」
「……」
「知らない……見た事ないんですよね?」
「神さまの事はポン太くんからも聞いてるけど……」
「出るんですよ、神さまが、子供がいると、子煩悩な神さまが!」
「神さまって、どんな神さま?」
「龍の姿をしてるんです」
「……」
「お泊り会で温泉、使わない方がよくないですか?」
村長さん、困った顔になりました。
ミコちゃんとレッドが奥から出てきました。
「村長さんいらっしゃい、一緒にどうですか?」
「そんちょーもいっしょしよー!」
村長さん、ミコちゃんをじっと見て、
「ねぇ、ミコちゃん」
「はい?」
「温泉に神さま出るって本当?」
「ええ……」
「ミコちゃん、何とかできない?」
「村長さん……温泉の神をやっつける事はできますけど、温泉止まっちゃいますよ」
「うう……」
ミコちゃんの返事に村長さん唸ってます。
わたし、ちょっと考えてから、
「あのー、村長さん」
「何、ポンちゃん」
「寄宿舎の子供達は、いつも寄宿舎のお風呂に入ってるんですよね?」
「そうね……寄宿舎って言っても、老人ホームの一番上の階なのよ」
「大きなお風呂、あるんですよね?」
「そうね、あるわ」
「それじゃダメなんですか?」
「来てくれる親御さんには、村の良さを知って欲しいの」
「あー! でも、温泉、どうなんでしょ?」
「ダメかしら」
「テレビで他の温泉を見た事あるけど、ここの温泉はおおざっぱで」
「お湯はすごくいい感じと思うんだけど」
「それは神さまがいますから、泉質はいいと思います」
「その……神さまってどんな人」
「だから、龍の姿です」
「こわい?」
「お湯を、熱湯を噴き出しますね」
「あぶない?」
「うーん、今までやられたのはたまおちゃんと配達人くらい?」
「人間攻撃するの?」
「マナーにうるさいですね」
「あれ?」
「どうしました?」
「ポン太くんとポン吉くんから、ちょっと聞いた事はあったの」
ああ、ポン太とポン吉、温泉の神に会った事ありますね。
「ポン吉くん、神さまと遊んだって言ってたわよ」
「ですね、遊んでました」
「マナーにうるさいんじゃないの?」
「子供は別みたいです……レッド連れて行くと、子煩悩発動するから」
村長さん、難しい顔をして、
「子供がいると、現れるのかしら?」
「ですね」
「話、わかる人かしら?」
「どうでしょ?」
村長さん、ミコちゃんの方を見て、
「あの、ミコちゃん、ポンちゃんとレッドちゃんを貸してくれる?」
「え、ポンちゃんとレッドちゃんを?」
「ええ……温泉の神さまに会ってみたいから」
「いいですけど……ポンちゃん大丈夫?」
まぁ、掃除ついでに行くとしましょうか。
でもでも、ちょっと気になる事が……
「あのあの、村長さん……」
「何? ポンちゃん?」
「何でミコちゃんじゃなくて、わたしが一緒なんです?」
「ポン吉くんが、ポンちゃんが強いって言ってたから」
今度会ったら、ポン吉は「しっぽぶらーんの刑」です。
で、温泉に到着なの。
「そんちょーさんといっしょー!」
レッドは嬉しそう。
村長さん、わたしを見ながら、
「ポンちゃん、いつも水着着て入ってるの?」
そう、わたしは「まず水着」なんです。
「最初掃除をする時は水着なんです」
「裸じゃだめなの?」
「裸で掃除してると、なんだかメリハリ付かないから嫌なんです」
「そうなんだ」
村長さんとレッドが浴室へ……わたし、村長さんを捕まえます。
「村長さん、いつも神さまに会ってないんですよね」
「ええ」
「心の準備はいいですか?」
「え、ええ……そんなにいきなり現れるの?」
「レッドがいますから」
わたし、先頭に立って引き戸をカラカラいわせます。
ほーらいました、温泉の神さま。
「レッド、待っておったのじゃ!」
「わーい、かみさまー!」
レッドはダッシュです。
村長さんは固まってるけど。
「ほら、村長さん、心の準備全然じゃないですか」
「ほ、本当に龍の姿をしてるのね」
一度戸、閉めちゃいましょう。
「感想は?」
「びっくりしたわ」
「大人にはマナーにうるさいから、注意してください」
「そうなんだ」
わたしと村長さん、細めに開けた戸から中を見ます。
レッドが頭を洗ってますね。
洗い終わったら、神さまが口からお湯を出して流しています。
わたしがお湯をザブンってしたら泣くのに、神さまならOKってどーゆこと?
あとでレッドに問い詰めましょう。
レッド、この後体を洗って、神さま流すの手伝って、お湯に浸かります。
「よさそうな神さまじゃない」
「神さまは普通よいキャラでは?」
「まぁ、そうね」
村長さん、ほっとした表情で、
「これなら子供達を連れて来てもいいかしら」
村長さんがつぶやいた時です。
中から聞こえていたカウントが「10」になったんです。
レッドがザブンと立ち上がるの。
「あたたまりましたゆえ~」
「うむうむ、よく10数えられたのう」
「べんきょーしてるゆえ~」
「うむうむ、では遊ぶとするかの」
「やったー!」
って、中から楽しそうな声と音がするんです。
村長さんの笑みが固まっちゃいました。
「ねぇ、ポンちゃん、この音、何かしら?」
「えーっと、村長さんのご想像通りと思います」
「すっごい弾けてる感じがするんだけど」
「村長さんが卒倒しないのを祈ります」
わたしの言葉に村長さん、一度ゴクリと唾を飲みました。
「では、拝見」
言ってから中を覗きます。
って、背中見てるだけで「どんより」してるのわかっちゃうの。
でもでも、すぐに「どんより」から「怒り」に変わりました。
一度わたしの方に向き直ると、
「そ、想像を絶する遊びっぷりなんだけど」
「えっと、わたし、ジェットコースターごっご見た事あります」
「ええ、日本昔話みたいな事やってるわ」
「レッド、よろこんでますよね」
「ええ、レッドちゃん、とっても楽しそう」
村長さん、これでもかって笑顔になった……のは一瞬。
すぐに真顔に、怒った顔になりました。
戸を開けてすぐに、
「コラーっ!」
「!!」
温泉の神さまフリーズ。
ゆっくり村長さんの方にやって来ると、
「何じゃ、いきなり大きな声で!」
「はじめまして、温泉の神さま」
「ふむ……おぬしは何者じゃ?」
「この村の村長」
「むう、今は女子でも村長になれるのか……世も末じゃ」
あー、神さまは昔のキャラだから男尊女卑なんですね。
「で、村長、何用じゃ? なぜ怒っておるのじゃ」
「温泉で遊んじゃダメでしょ!」
「はぁ?」
「泳いだり、ジェットコースターしたらダメでしょ!」
あー、大きなお風呂、泳ぎたくなりますよね。
まぁ、ジェットコースターするのは神さまくらいでしょうけど。
村長さん怒っているのに、神さまは首を傾げて、
「レッドはちゃんと10数えたのじゃ」
「……」
「体もしっかり洗ったのじゃ」
「……」
「全部ちゃんと出来たゆえ、遊ぶのを許可し……」
「神さまが遊びたいだけでしょ!」
村長さん大きな怒りマークを浮かべて神さまをチョップ。
「神さまが一緒になって遊んじゃダメでしょ!」
チョップチョップ!
もっとやって、村長さん。
って、温泉の神さまから湯気が上がってます。
「村長、この神をもおそれぬたわけ者がっ!」
神さま、一度村長さんの足元にお湯発射。
すごい熱そうなお湯です。
しぶきがあたって、村長さん一歩引きましたよ。
でもでも村長さんも負けてません。
「神さまがこんなじゃ、子供達を連れてこれませんっ!」
「何っ! 子供が温泉に来んのは村長の仕業かっ!」
ああ、二人の視線が火花散らしてるの。
また神さまから湯気が上がるようになりました。
「ふふ、儂は神、そしてここは儂のテリトリー」
「!!」
「村長の負けは必至!」
村長さん冷や汗。
むう、村長さん、負けちゃうのかな?
「村長、敗れたりっ!」
ああ、神さまが体当たりしてきました。
で、でも、村長さん、急にすまし顔。
軽く横にかわすと、大きなハンドル回してます。
なにかな?
か、神さまがしぼんでいきます。
「元栓締めちゃうわよ」
「ううっ! 何たる事をっ!」
「ほらほらー!」
神さま、あっという間にしぼんじゃいましたよ。
今はヘビみたいに細くなっちゃいました。
「子供達の前では、ちょっと大人しくしててほしいのよ」
「えー!」
「えーじゃないっ!」
村長さん元栓を「キュッ」!
「うぉ!」
神さまうめいてます。
なんだか村長さんが悪者に見えてきました。
レッドもそう思ったのか、村長さんの腕につかまって、
「かみさまゆるしてあげてー!」
ああ、元栓締めすぎて神さま痙攣してるの。
大丈夫かな?
あ、村長さん、元栓戻して、
「まぁ、元栓閉めたら温泉出ないから……でも、子供達の前ではしゃがない」
「むう……」
「今度のお泊り会の時だけでいいから、大人しくしてる!」
神さま、体をくねらせて、
「儂、子供と遊びたいのじゃ」
「お泊り会、終わったらいいから」
「やったー!」
神さま、またレッドを乗せて日本昔話状態なの。
また元栓締められちゃうよ。
あれれ、村長さん、微笑んでそんな神さま見てます。
「村長さん村長さん、いいんですか、弾けてますよ」
「いいのよ、ポンちゃん」
「?」
「まぁ、悪い神さまじゃなさそうだしね」
村長さん、お湯に浸かりながら……
でもでも、急に険しい顔。
「どうしてこう、微妙な神さまが多いのかしら?」
そ、そうですね……
子煩悩な温泉の神さま。
なまけ者のコンちゃん。
本当に神さまなのかな?
そうそう、今回のお泊り会、結局パン屋さん全員参加してるの。
見守りっていうのが一番の理由みたいだけど……
親御さんが来ない子供達の相手をするのが理由かな。
わたし、コンちゃん、ミコちゃん、シロちゃんにたまおちゃん。
店長さんだっているんです。