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第115話「家庭訪問」

 レッドが吉田先生を連れて来ちゃいました。

 なんでも髭ジョリが気に入ったんだって。

 吉田先生は「しょうがなく」家庭訪問なんだって。

 いまどき「家庭訪問」なんてあるのかな?

 って、吉田先生、それって家庭訪問なんですか!


『なんでレジに立つんですか!』

 お店はガランとしてます。

 わたしはレジに立ってるんですが、コンちゃん隣にいるの。

『なんでレジに立つんですか!』

『いいではないかの』

『気持ち悪いんですよ』

『わらわがレジに立ったらいかんのかの』

『どーして今だけ立つんですか!』

『ポンだってわかっておるであろう』

 そりゃあ……ね。

 実はお店にお客という人はいません。

 でも、吉田先生がいるんですよ。

 さっきからコンちゃんの定位置のテーブルでお茶してます。

 その膝にはレッドが乗っているの。

「ひげひげ~」

 レッド、吉田先生の髭が気に入ってるようです。

 吉田先生はレッドが離してくれないから困っている顔。

 って、お茶がなくなったのか、わたしに目をくれます。

 しょうがないですね、行くとしますか。

 湯呑にお茶を注ぎながら……

『先生、どうしたんですか?』

『それがよう……』

 吉田先生、語ります。


 俺が授業やってるってのに、ポン吉の野郎、眠ってやがったんだ。

 そんなわけで鉄拳制裁よ。

「ゴラァ、テメ、何寝てるっ!」

 拳がうなるぜ。

 でも力加減は忘れない。

「痛い」加減は外さないぜ。

 ゴン!

「うっ……なにすんだっ!」

「テメーが寝てるからだろうがっ!」

「だって勉強つまらないもん」

 それはわかるよ。

 俺だってなんで小学生に勉強教えないといけないんだ。

 せっかく田舎の小学校に赴任したのに、こんなつまらん事を。

「俺さまが勉強教えてやってるっつーのに、貴様っ、何さまだっ!」

「オレ、今だけタヌキでいい」

「卑怯だぞ、許さん、ゲンコツだ」


「先生……ポン吉しか出てませんよ」

「おうよ、あいつ、いつも授業中に眠りやがる、頭に来る」

「はぁ……」

「それなのに、休み時間になると大活躍だ」

「で、先生、レッドはどうしてこうなったんです?」

「おお、そーだったな」


「わーん、暴力教師ーっ!」

「タヌキだからいいだろが!」

「じゃ、今だけオレ、人間」

 って、ポン吉が余裕の顔しやがった。

 ニヤニヤしやがって……なにかあるな!

 ポン吉の視線の先には……

 うげ! 

 村長(校長)じゃねーか!

『ホラ、髭、かかってこいよ』

『ぐぐ……』

『ゲンコツはどーした、オラオラ』

『ぐぐぐぐぐ……』

『村長(校長)さん見てるぞ、ゲンコツできないよな~』

 この生意気仔タヌキが!

 こうなったら最終兵器だ。

「おらぁ!」


「先生、最終兵器ってなんです?」

「髭ジョリ」

「は?」

「髭ジョリ、髭でジョリジョリするの、やってやろうか?」

「イ・ヤ・デ・ス!」

 わたし、背筋ゾクゾク。

 なんておぞましい攻撃なんでしょう。

「ポン吉、死んだでしょ」

「ああ、もちろんな」

「で……さっきからレッド出てこないんですけど」

「それをレッドが見てたわけよ」

「……」

「やってほしそうな顔で、な」

「で、レッドにもやっちゃったんですね」

「ああ……なんかあの目で見られたら拒否できない」

 あー、たまにそんな目しますね、レッド。

 まっすぐな瞳は強烈だもん。

「で、こんな感じ」

 吉田先生、レッドを抱っこして、

「ほら、レッド、ジョリジョリー!」

「きゃー!」

「おらおらー!」

「うきゃー!」

「どうだー!」

「すきすきー!」

 わたし、髭ジョリ攻撃に真っ青。

 レッド、大喜び。

 吉田先生嫌そうな顔。

『せ、先生、おぞましい攻撃、やめてください』

『こわいだろー』

『寒イボが止まりませんっ!』

『でもなー、レッド大喜び』

 もう、レッド、喜びのあまり耳がキツネになってますよ。

『普通嫌がるもんなんだけどな』

『レッド、変なんでしょうか?』

『何でも「すきすき~」だもんなぁ』

 わたしと吉田先生、ついつい笑っちゃいます。

「間が持ちませんね、ちょっとゲームでもしましょうか」

 わたし、トランプを出すの。

 どうせお客さんはいないんです。

 これで時間つぶし、レッドの興味がそれるのを待ちましょう。

「おお、トランプかの、わらわもやるのじゃ」

 レジに立ってたコンちゃんもやって来ます。

 レッドも目を輝かせて、

「とらんぷー! やるやるー!」


 レッド、今日はしぶとい!

 トランプやっても全然吉田先生から離れないの。

 吉田先生はトランプにはまってて忘れちゃってるみたいだけど……

「おお、もうこんな時間か!」

 そうです、結局閉店の5時までしっかりトランプやったんです。

「さて、帰るとするかな」

「いやー! ひげすきー!」

「ああ、そうだった、レッドに懐かれてるんだった」

「せ、先生……」

「なんだよ、ポンちゃん」

「今の今まで、レッドの事すっかり忘れてなかったです?」

「あ、ああ……ほら、トランプやってたし」

「なんでトランプやってたんでしょうね?」

「いや、そりゃ、ポンちゃんの言うとおりだが……」

 吉田先生、ポリポリ頭を掻きながら、

「ほら、勝負事になるとついつい……な」

 トランプってババ抜きとか神経衰弱とかセブンブリッジとか大富豪。

 持ち点制で遊んだんですよ。

 1位は吉田先生で24点。

 次がわたしで8点

 3位がレッドで7点

 ドベがコンちゃんで1点なの。

 もう、コンちゃんはテーブルで崩れ落ちています。

 レッドに負けたのが相当ショックみたい。

 うーん、わたしがセブンブリッジと大富豪ですごく邪魔したのが原因なんだけど。

「俺、ギャンブルじゃ負けたくないんだよ」

「ギャンブルだったんですか……」

「だって点数かかってるじゃんか」

「まぁ、そう言われるとそうなんですけどね……」

 しかし、レッドはまだ吉田先生にべったり。

 って、吉田先生の頭上に裸電球が光ります。

「まぁ、しょうがない、ここはこのまま『家庭訪問』するか」

「か、家庭訪問! それ、なんですか? 家庭崩壊の親戚?」

「学校の先生が生徒の家庭の様子を見るの」

「?」

「おおざっぱにお宅拝見」

「はぁ……」

「俺が子供の頃は逃げてたもんだよ」

「どうして?」

「俺、成績悪かったもん」

「はぁ……」

 吉田先生、レッドを抱っこして、

「ほら、今から家庭訪問だ~」

「わーい、なにごと?」

「レッドの悪さをご家庭に報告」

「わるさしてないゆえ」

「野菜食べないゆえ」

「いまはたべるゆえ」

「本当か~?」

「……」

「本当に~?」

 あ、レッド、吉田先生から逃げちゃいました。

「先生、レッドが放してくれましたよ」

「ああ、最初からこうすればよかった」

「レッド、学校で悪さしてるんですか?」

「さぁ? 知らないかな?」

「えー! 今のは騙したんですか!」

「レッドは生徒じゃないから、別に寝てても遊んでてもどーでもいいんだよ」

「はぁ……」

 レッドは行っちゃいました。

「先生、帰らないんですか」

「なんだよ、家庭訪問しちゃいけないのかよ」

「レッドは生徒じゃないんですよね?」

「くそ~!」

 なんだか嫌~な予感しかしないんだもん。

 吉田先生早く帰ってくれないかなぁ。

 そこに今度はみどりと千代ちゃんが帰って来ました。

 吉田先生、早速みどりをつかまえて、

「よーし、今からみどりの家庭訪問だ!」

「ちょっとアンタ、なによー!」

「今からみどりの家庭訪問なんだよ、嬉しくないのか!」

「かかか家庭訪問? なによ? それっ?」

「優秀な生徒の家庭を訪問して保護者の方とお話するんだよ」

 なんかさっきと違ってませんか。

「みどりは優秀だから、いろいろお話しないとな」

「優秀」って辺りでみどりがパッと笑顔になりますよ。

「しょうがないわね、家庭訪問していいわよ」

 みどり、ツンツンしながら嬉しそう。

 って、奥からレッドに手を引かれたミコちゃん出てきます。

「ひげせんせー、かていほうもんゆえー」

「はいはい、わかりましたよ」

 ミコちゃん、微笑みながら吉田先生を見て、わたしに視線をくれます。

『面倒くさい事になっていそうね』

『もう、そんなニオイがプンプンします』

 吉田先生、レッドとみどりを抱っこして上がりこんじゃいました。

 居間のソファに座ってテレビをON。

「ごはんまだー? ビールはー?」

『家庭訪問ってごはんとかビールを出すんでしょうか?』

『きっと昭和スタイルなのよ』

 わたしがミコちゃん見てると、眉をひそめて、

『面倒くさいから、食べさせて帰しちゃいましょう』

『ミコちゃんさすが、下手に逆らうとめんどうくさいもんね』

 ミコちゃん、壊れているコンちゃんをゆすって、

『コンちゃん起きて! ビールをお酌する!』

『な、何故わらわがそんな事をせねばならんのじゃ!』

『早く帰って欲しいでしょ』

『た、確かに!』

 ミコちゃん、今度はわたしを見て、

『ポンちゃんは料理をどんどん持って行って、私作るから』

『わかった!』

 女三人が心を一つにしたら無敵です。

 コンちゃんは吉田先生にお酌しながら、

「いつもレッドが世話になっておるのじゃ」

「どういたしまして」

 吉田先生、喉を鳴らしながらビールを飲むの。

「はい、酒の肴で~す」

「おお、から揚げ、揚げたてだな!」

 吉田先生もだけど、みどりとレッドもつまんでいるの。

 ミコちゃんの揚げたてはほっぺ落ちちゃう美味しさです。

 柱の陰で見ているミコちゃんに、わたし、親指立てて合図。

 これなら吉田先生もすぐに満腹&酔っぱらって帰っちゃいますよ。

「それ、もっと飲むのじゃ!」

 コンちゃんナイスお酌。

 吉田先生飲み干して、

「明日も家庭訪問するかな~」

 バキッ!

 すごい音に、わたしもコンちゃんも吉田先生も音の方を見ます。

 柱の陰に立っているミコちゃんの髪がすごいうねってるの。

 手には折れた菜箸が握られてます。


 そして次の日。

「今日は吉田先生、来ませんよね」

 わたし、お店のドアに「おわりましました」の札を下げながら言います。

「そうじゃの、レッドとみどりに言って聞かせたのじゃ」

 そう、あの後「吉田先生」を連れて帰ってきたらダメって教えてました。

 レッドもみどりも首を傾げてたけど、話は聞いていましたよ。

 それを信じて……

「あー……」

 レッドとみどりが帰って来ます。

 保健の先生が一緒なの。

 すごく嫌~な予感がします。

 お店のドアが開いて、カウベルが鳴って、

「家庭訪問に来たわよ~、ビールとから揚げね~」

 わたしとコンちゃんがっくり。

 台所の方からミコちゃんのズッコケる音も聞こえてきました。


「ポンちゃんポンちゃん、お布団敷いてある?」

「ええー! ててて店長さんまさかっ!」

「何か勘違いしてない?」

「だってコンちゃんとお布団ですよ」

「だってコンちゃん寝ちゃったじゃん」


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