第114話「監督さんの大けが」
『で?』
『避けて転んで腕折れた』
『お、折れたんです~!!』
『俺もびっくり』
『いい体してるのに、もろいもんですね』
「ポンちゃん、ありがとうね」
老人ホームの配達&お手伝いも終わりました。
お昼もごちそうになったし、今から帰るところ。
村長さんや職員さん、おじいちゃんおばあちゃんに手を振って老人ホームを後にします。
でも……老人ホームと学校はすぐ近く。
帰る時に注意しないと、子供達に捕まっちゃいます。
そしたらドッチを一緒させられてめんどうくさいの。
ちらっと校舎の陰から運動場を見ます。
もう誰もいませんね、午後の授業に入ったんでしょ。
捕まる事もないので、普通に……
「ちょっとポンちゃん!」
「!!」
保健の先生の声……見ればわたしを手招きしてるの。
うーん、保健の先生もめんどうくさいけど、逃げると後がこわいので行くとしますか。
「どうしたんです?」
「ちょっと助けて」
「?」
窓から保健室を見てみると、現場監督さんがいます。
腕を吊ってますね、どうしたんでしょ。
「現場監督さん、怪我したんです?」
って、現場監督さんの隣にはレッドがいるの。
目を真っ赤にして座ってます。
「保健の先生、どうしたんです?」
「昼休みにドッチをしてたらしいんだけど」
「いつもの事ですよね」
「監督さんが転んで、腕を痛めちゃったのよ」
そうです、現場の人たちは学校に遊びに来たりしてくれるんです。
子供達、大喜びなんですよ。
「レッドが関係してるんですね?」
「そう、レッドを避けようとして、監督さん転んだらしいのよ」
「はぁ……」
わたし、レッドを手招きして、
「どーしたんですか、レッド」
「かんとくしゃん、けがした、ぼくのせい」
「はぁ……」
現場監督さんを見れば、確かに怪我はしてるけど、苦笑いしてますね。
ここはテレパシーですよええ。
『現場監督さん、本当にどうしたんです?』
『いや、ボールを取ったらレッドとぶつかりそうになって』
『で?』
『避けて転んで腕折れた』
『お、折れたんです~!!』
『俺もびっくり』
『いい体してるのに、もろいもんですね』
『俺もびっくり』
今度は保健の先生に目を向けます。
『本当に折れてるんです?』
『綺麗にポッキリいってるわね~』
『先生はヤブじゃないんです?』
途端に先生、懐のポワワ銃をチラつかせます。
もう、すぐに武力をチラつかせるんだから。
『あ、でも!』
『どうしたの、ポンちゃん?』
『なんでわたしの助けがいるんです?』
『レッドよ~』
レッド、グスグス言って現場監督さんから離れません。
『レッド、責任感じてるんですね~』
『なのよ~』
『いい事じゃないんですか?』
『めんどうくさいじゃない』
現場監督さんも無事な方の手で頭をかきながら、
『俺も現場に戻れないし』
そーゆーのはダイレクトに言っちゃいましょう。
「ほら、レッド、もう手を放して」
「ほえ?」
「現場監督さん、仕事に戻れないでしょ~」
「だってだって、けがしてるゆえ」
「レッドどうしようもないでしょ~」
「おてつだいするゆえ~」
「あー!」
めんどうくさいですね。
レッドに現場監督さんのお手伝いは無理でしょムリ。
「って、現場監督さんが現場に戻るのも無理じゃないです?」
「!!」
「とりあえずレッドが原因みたいだから、お店でお詫びの一つもしますから」
わたし、現場監督さんの腕を引っ張りながら、
『いいからお店に来てください!』
『ええ~!』
『レッドが寝たら、逃げられるでしょ!』
『おお!』
『ミコちゃんやコンちゃんが名案出してくれるかもしれないし』
『そ、そうだな、ここはポンちゃんに従うとするか』
そんなこんなで現場監督さんと一緒にお店です。
コンちゃんの所に座ってもらって、
「それはレッドちゃんが申し訳ありません」
さっきからミコちゃん頭を下げまくり。
「しかしもろい体よのう」
コンちゃんは吊ってある腕をツンツンしながらぼやいてます。
パトロールから戻って来たシロちゃんが、
「被害届を出すでありますか?」
「それは大げさだろ」
「でも、レッドが原因で怪我でありますよね?」
「一緒に遊んでただけだし……」
現場監督さん、シロちゃんに目で、
『子供と遊んでて骨折なんて格好つかねーだろ』
『なるほどであります……しかし……』
シロちゃん、どこからともなく携帯を出して、
「工事現場には連絡しておくであります」
電話をしながらお店の外に出ちゃいました。
問題のレッドですが、現場監督さんの膝の上で舟を漕いでいます。
シロちゃん戻って来て、
「迎えに来るそうでありますよ」
「現場監督さん、よかったですね、ちょうどいい感じでレッドも寝ちゃってますよ」
「ああ、そうだな」
現場監督さん、レッドをコンちゃんに渡しながら、
「ああも泣かれると、なんだか悪い事した気分になっちまったぜ」
「いい体してるのに、ポキっと折れちゃうからですよ」
「俺も歳かな」
店先に軽トラックがやって来ました。
二人の職人さんがやって来ると、
「監督~、大丈夫っすか?」
「折れてるって話っすけど?」
二人の職人さん、現場監督さんの腕が吊ってあるのを見て、
「ああ、こりゃ大変だ!」
「レッドが折ったって聞いてますぜ」
二人の職人さん、一瞬はレッドを見たけど、すぐに何故かミコちゃんを見て、
「ミコちゃん困るな~」
「これじゃ現場に立てねーじゃねーかよ」
職人さん、ミコちゃんに顔を寄せると、
『監督いなくても仕事出来るから、こっちで預かってください』
『いるとガミガミうるさいんです』
多分、その囁きはみんなに聞こえてますよ。
「じゃ、軽トラには二人しか乗れないので」
「ミコちゃん、監督治るまで頼みます」
二人の職人さん、ダッシュで逃げ帰っちゃいました。
現場監督さんの頭には「怒りマーク」がピクピクしてます。
小さくなる軽トラックを見てコンちゃんが、
「行ってしまったのう」
シロちゃん、頭をかきながら、
「監督さん、どうするでありますか?」
現場監督さん、苦笑いしながら、
「あの二人、後でコロス」
でも、すぐに自分の腕を見て、
「監督が腕吊ってるんじゃ士気にかかわるのも本当だしなぁ」
「じゃあ、現場監督さん、どうするんです?」
って、わたしの言葉に現場監督さん、ミコちゃんを見ます。
「術でなんとか出来ないかなぁ」
「え、えーっと……」
「コンちゃんはどうなんだよ」
「わらわも専らは攻撃系かお色気系なのじゃ」
お稲荷さまなのにご利益はその辺だそーです。
「山やダムぶっ壊したから期待したんだけどなぁ」
「すまぬのう」
現場監督さん、わたしを見て、
「ポンちゃんはタヌキだから術はないよな」
「まぁ……ですね」
でも、そんなわたしに裸電球点灯。
「温泉、温泉はどーですか?」
「は?」
「村の温泉には行った事ないんですか?」
「うーん、宿舎の風呂で済ませちゃってるからなぁ」
ミコちゃんが考える顔で、
「温泉の神さまは治癒の術があるかもしれないわね」
って、すぐさま温泉セットが出てきます。
ミコちゃんの出してきた温泉セットは3つなの。
「ねぇミコちゃん、どうして3つ?」
「現場監督さんとポンちゃんとレッドちゃん」
「レッド……」
「レッドちゃんいないと、温泉の神さま出てこないでしょ」
『ねぇねぇミコちゃん』
『何、テレパシーで?』
『温泉の神さまの姿ヌキでご利益ゲットできないかな?』
『ど、どうして?』
『だって、あの神さま見たら、現場監督さんびっくりしないかな?』
ミコちゃんの視線が考えてる風。
『でも、ポンちゃん……』
『なに?』
『あの神さま見た方が、きっと効能アップすると思うの』
『そりゃ、まぁ、見ればびっくり効能アップかも……』
と、レッドを抱いたコンちゃんが、
「では、行くとするのじゃ」
「って、コンちゃんも行く気?」
見ればコンちゃん、タオルを肩に掛けているの。
「おもしろそうだからの」
「現場監督さんのびっくりするのを見たいんだ」
「わかっておるのう、それ、レッド、起きるのじゃ」
コンちゃん、抱いていたレッドをゆすります。
最初はぽやぽやしていたレッドですが、目をこすりながら、
「ほわわ、おはようございまする~」
「レッド、起きましたか」
「おめざめのきっす?」
って、いきなりわたしに顔を寄せます。
そんなレッドをブロックして、
「現場監督さんと一緒に温泉行きますよ~」
「なぜに?」
「温泉の神さまに怪我を治してもらうんですよ」
「おお! ではではごいっしょしま~す」
レッド、ニコニコしてます。
一方現場監督さん、わたしに顔を寄せて、
『温泉の神さまって何?』
『行けばわかりますよ』
そう、行ってのお楽しみです。
わたしも現場監督さんのおどろくの、すごく見たいし。
温泉の脱衣所……@男湯。
コンちゃんはレッドの脱いだ服をかごに入れたりしてます。
わたしはお掃除の準備です。
って、タオルを腰に巻いた現場監督さんが、
『ポンちゃん達、どこまでついて来るんだよっ!』
「なに小声になってるんです?」
「だ、だって……こっち男湯だぜ」
「美少女と一緒で嬉しいですか?」
「えー!」
もうチョップです、チョップ。
「でも、お風呂に入るの、お手伝いしないとダメかなって思ってたんですよ」
「風呂くらい一人でも入れ……」
「それ」
わたし、現場監督さんの吊っている腕をツンツン。
「ああ、そうだ、怪我してるんだった」
「シャツ、前が開きますもんね、でもボタン一人で外せたんだ」
「手先は器用かな~」
わたし達が話していると、レッドがタオルをフリフリやって来ました。
「かんとくー、はやくいこー!」
「おお、レッド」
「かみさまおまちかね」
「おお、わかった」
現場監督さん、レッドに手をひかれて戸の方へ。
わたしの方をチラ見して、
『ポンちゃん、温泉の神さまって何っ!』
ひきつった顔がちょっと面白いです。
わたしもコンちゃんも、微笑んで返すだけなの。
でも、心の中じゃ大爆笑してたり。
先行してたレッドがカラカラと戸を滑らせます。
「かみさまー、きたゆえー!」
「レッド、何故毎日来ぬのだ」
温泉の神さま、早速登場です。
現場監督さん、固まってますよ。
わたしもコンちゃんも耐えられずに、うずくまって大笑い。
ちらっと見たら、現場監督さんは真っ白。
すごいびびってるみたいです。
レッド、温泉の神さまと現場監督さんを何度も見返してから、
「かみさまー、なにかした?」
「さて……この男は現場監督ではないかの」
「ごぞんじで?」
「ここを造っておったでのう」
温泉の神さま、舐めるように現場監督さんを見てから、
「ふむ、腕を折っておるようじゃの」
レッド、ピョンピョン跳ねながら、
「ぼくがけがさせちゃったの」
「ふむ、レッドが原因かの」
「かみさま、なおしてあげてー」
「ふむ……」
まだ真っ白な現場監督さん。
そりゃ当然なんですが……レッドがそんな現場監督さんをゆすります。
「かんとく、かんとくー!」
と、ようやく現場監督さんに色が戻りました。
我に返った現場監督さん、レッドを抱っこ。
「な、何、レッド?」
「おめざめ?」
「あ、ああ……」
「こちらはかみさま、おんせんのかみさま」
レッドが温泉の神さまを紹介。おじぎする神さま。
「かんとくもあいさつしましょー」
「お、おおっ!」
レッドに言われるままに、現場監督さんも一礼して、
「ここで道路工事をさせていただいてます」
「うむ、御苦労、ここを造ったのもおぬしらじゃの」
「は、はぁ……」
「今日は湯治に来たのであろう、ゆっくりしていくとよいのじゃ」
神さまは普通なんですが、現場監督さんはさっきから汗だく。
レッドは神さまの体をゆすりながら、
「ねぇねぇ、かみさまー!」
「うむ、レッド、どうしたのじゃ」
「けがをなおしてー」
「……」
神さま、現場監督さんの吊った腕に顔を寄せて、
「うむ……術をかけるゆえ、こっちに一人で来るのじゃ」
現場監督さん、温泉の神さまに言われるままに行きます。
浴室の隅で神さまからオーラが伸びて、吊った腕を包みます。
ぼんやりと光る現場監督さんの怪我。
で、オーラの光がおさまったんですが……神さまレッドの方にやって来て、
「うむ、怪我がひどいので、一週間は通ってもらうのじゃ」
「はーい」
「ではレッド、体を洗うのを手伝ってやるのじゃ」
神さまはレッドと一緒に湯船の近くへ。
わたし、すぐに現場監督さんをつかまえるの。
『ちょっと!』
『うわ、なに、ポンちゃん!』
『怪我治るのに一週間って本当ですかっ!』
『……』
現場監督さん、黙っちゃいましたよ。
わたしとコンちゃんがじっと見ていると、
『いや……実はもう治ってる、びっくり』
現場監督さん、神さまをチラ見しながら、腕をブンブン動かします。
『でも、神さまがレッドと一緒にいたいからって……』
『あー!』
わたしとコンちゃんはもっちゃうの。
「しかし……」
「しかし? なんです、監督さん」
「いや、神さまって本当にいるんだな~って思った」
「そうなんだ」
「人の姿のタヌキやキツネはいるもんなぁ」
「神さまだっているんですよ~」
って、わたしと現場監督さんが笑ってると、どんより暗黒オーラが渦巻いてます。
見ればコンちゃんの髪がうねってるの。
怒ってますね。
なんでかな?
「こーらー!」
コンちゃん、現場監督さんを引き寄せて、
「おぬし、今、何と言いおったかの?」
「は?」
もう、コンちゃんコワイ顔で言うから現場監督さんビビってるの。
「おぬし、今、何とぬかしおったーっ!」
「な、何て言ったっけ?」
「おぬし『神さまっているんだな~』ってぬかしたのじゃ!」
「た、確かに……それが?」
「わらわも神なのじゃーっ!」
コンちゃん「プンプン」。
わたしと現場監督さんは「ポカーン」。
「でした、コンちゃんは神さまですね」
「そうじゃ、ポン、いまさら思い出したのかの!」
現場監督さん、視線を天井に向けて、
「コンちゃんが神さま……」
「そうなのじゃー!」
「なまけ神?」
ぷっ!
現場監督さんナイス。
コンちゃんまさに「なまけ神」ですね。
いつもTV見てお茶してぼんやりしてるんだもん。
「なんじゃとー!」
コンちゃんってなんの神さまでしたっけ?
なまけ神で正解って思うんだけどなぁ~
『なんでレジに立つんですか!』
『いいではないかの』
『気持ち悪いんですよ』
『わらわがレジに立ったらいかんのかの』
『どーして今だけ立つんですか!』