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兄と妹、接近中?

 二人はよほどショックだったのだろう。立ち上がっても茫然としていた。里奈は、頼りにしていた君花が反対に襲われそうになったこともに衝撃を受けていた。

 涙にくれ、震えていた。君花がその肩を支えてようやく立っているようだ。

 仕方がなかった。送っていくことにした。


「待ってろ。家まで送ってやるから。カバン、取ってくる」

 そういうと君花がかすかにうなづいた。

「あ、里奈、私のアパートへ来ることになってる」

「そうか」


 PCルームでは、雅紀が戻ると拍手喝采だった。オタクでも、いざというときは女子を守れるんだ、などと訳のわからないことをいうやつもいたが。

 雅紀は、大場と松本に言った。

「あの男、あれで引き下がると思うか?」

 大場は鼻で笑う。

「ふん、里奈ちゃんにつきまとって、フラれ、その挙句にこんな人目につくところにまで姿を現し、こんな修羅場を晒す奴が、簡単にあきらめるわけないだろっ」


「うん、あの女子二人の反応から、けっこう前からつきまとっているみたいだね。今回はこれでなんとか終わったけど、さて、どうなるかな」

 松本もかなり興味深そうに言った。

「やっぱ、そうか。そうだよな、これで終わらないだろうな」

 そうつぶやいた。


「ここで、兄貴の出番だな。あの男のこと、調べてやろうか」

 大場が目をキラキラさせて言う。

「ん、まず、里奈たちを送っていって、そこで事情を聞いてみる。その様子次第だ。もし、これからもあいつがこんなことをしでかす可能性があるなら、すぐに調べてもらうよ。そして・・・・」

 意味ありげにそこで言葉を切った。

 松本が続ける。

「シミュレーションを作るんだね」

 大場と松本が、にやりと笑う。

「まあね、それがオレ達のやり方だからな」




 雅紀は、まだ、震えている里奈を抱きかかえるようにして、なんとか君花のアパートへたどり着く。君花はすぐに里奈を寝室に連れていった。なだめている声がした。


 その間、雅紀はソファに座り、君花の室内を見ていた。ここへ入るのは初めてだ。玄関を入ってすぐに四畳ほどの台所がある。そしてその奥にリビングと寝室が二つあった。まあまあ広い。リビングの半分以上は、アクセサリーの工房のようだ。

 なんだ、君花だってちょっとしたオタクのように見える。一つのことを追求するように求め、頑張る、それはある種のオタクの条件。

 それらを眺めているとやっと君花が出てきた。


「今、やっと落ち着いた。一人にしてほしいって言うから」

 そう言って、君花は雅紀の向かい側のソファへ座った。君花も笑顔が引きつっている。やはり、君花にとってもショックだったんだろう。


「里奈とあいつ、いつからつきあってんだ?」


「あの人、尾崎っていうの。大学生。去年の夏、里奈が喫茶店でバイトしたときによく通ってくれたお客さんだったんだって。里奈が働いているときは、ずっと店にいて勉強をしていたりしてたみたい」


「それって、もうその時から目をつけられていたってことか」


 いくら客でも里奈の働いているとき、ずっと店に入り浸っていたってことから、執拗な性格がうかがえる。なんでその時におかしいって思わなかったのか。

「そうか、夏からなんだな」


「うん、初めは里奈が夢中だったのよ。他のサーバーの女の子からは絶対に注文しないんだって。それに気前がよくて、いつも一万円札を出して、お釣りはもらわないって言ってた。外国みたいにチップだって言ったそうよ。尾崎がお店に来た時は、里奈、うきうきしちゃって、すぐにいろいろなことを話すようになったらしい。それに、あの人ってさ、ルックスがいいから、連れて歩くのには最適なんだって」


「なんだ、その最適って?」

 連れて歩くっていったいどういうことだ、と思う。まるでペットの散歩みたいだ。

 そう聞き返すと、君花はバツの悪い顔をして言った。

「あ・・・・、女の子たちって、けっこう見栄えのする男の子と一緒にいるとその子の評価も上がるから。こんなにかっこいい男の子を射止めたってことで、周りの女の子から羨望の眼差しで見られるの」


 雅紀は呆れかえっていた。

「なんか、それってさ、ブランド服を着ているみたいな扱いだ。中身はおなじなのに、見栄の張り合いってことだろう。お前たち女子高生は、そんなこと、思って、男子とつきあってたってことか」


 あのかわいい里奈がそんな計算をしながら男を選び、つきあうなんてちょっとショックだ。

「わりとみんな、そうよ。告白されても顔だけがいいんじゃなくて、その男の子が周りからどう思われているかで左右される。まあいわゆる評価ポイントが高くないとYESの第一関門は突破できないの」

「えっ」

 なんだ、それはと思う。


「そして、自分がその人と並んで歩く姿のバランスも考慮してる。理想的な背のバランスとか、そしてもちろん、性格もよくないとね」


 君花は、そんなことを何食わぬ顔で言ってのけた。そんな連れ歩き男子ペット的な考え、まさか女子高校生の間であたりまえになってるんだないだろうな。

 冗談じゃない、そんなこと。


 雅紀の顔が曇ったから、君花はそれを察して口を閉じた。言い過ぎたときづいたらしい。

「あ、今のはみんな冗談半分で言ってるだけで、本当はそんなことでボーイフレンド、選んでいるわけじゃないから」

 いまさらなんだ。言い訳がましい。

「もう遅い、冗談じゃない」


 君花は、話を元に戻す。

「尾崎は、喫茶店のスタッフの間でもけっこう評判はよかったらしいの。そりゃそうよね。チップをはずむっていうだけで、他の客と違うって印象づけていたから。いつも一人で来て、騒がないし、注文は定期的に飲み物とか食事とか、してくれるし、勉強しているように見えたから、理知的にも見えたらしいの。里奈、尾崎からの誘い、即答でイエスだったみたい。あの時、私、母の再婚とかでバタバタしてたから、後日報告だったんだけど」


「ふ~ん、そうやってターゲットの関心を高めるわけか。なるほど」

 つい、ゲーム感覚で物を言ってしまう。


「けど、尾崎とつきあっていくと段々縛られることに気づいたんだって。毎日、会っているのに、いつも質問攻めだったらしい。会っていなかった時間、どう過ごしていたのかって、朝、起きたときからの行動を聞いてきたり、会えなかったときは、今日一日何をしていたかとか、誰と話したのかとか、すごく細かいところまで聞くらしいの。最初はそんなに里奈のことを気にしてくれているって感動していたらしいんだけど・・・・・・」


「そのことの裏を返せば、独占欲と嫉妬の塊だってわかったんだな」

「そう、夏休みの間、ずっと尾崎と会うか、その日の一日の行動レポートを告げるか、どちらかのことをやっていたみたい。もう夏休みの後半なんか、うんざりしてるって言ってた」


「わあ、そんなことになる前に、もっと早く気づけよ」

「そうは言っても最初は好きだったんだから、仕方ないじゃない。そのうちに裸の写真まで撮られそうになったって、それは断固拒否したらしいけど」

 君花がため息交じりでそう言った。

 そう、そこには聞き捨てならない言葉があった。


「今、裸って言ったか?」

 そう、聞き返す。

 それって、もうすでに二人はそういう関係だったってことか? あの清純派で人気の高い里奈が・・・・・・。いや、そんなはずはない。そんなことがあってたまるかと思う。まだ、高校生の分際でだ。他の皆が許しても雅紀は絶対にゆるさないとまでいきり立つ。

 雅紀が一人でそんなことを考え、興奮していると、君花はそこに止めを刺す。


「うん、知り合ったその日に、やっちゃったって」


 やっちゃった、やっちゃった、やっちゃった・・・・・・。そんな木霊が聴こえた。


 その衝撃的な言葉が雅紀の脳裏を、凧の紐が切れたかのように行ったり来たりしている。


 あの里奈が、そんなに簡単に男と寝る女だったなんて、とショックを受けたが、さらに君花が、そのことをたいしたことではないというような口調で言ったことにも驚いていた。


 気を引き締めなければいけない。女は油断ならないと思う。どう見たって里奈の外見からは、手を握るだけでも恥じらい、キスもしたことがない初心な女の子だ。それが会ったその日に・・・・そういうことって、もっと特別なことじゃないのかっ。簡単に許せるものなのか。


 君花のことも信用ならないと思っていた。そんなことを当たり前のようにいうこの女も、実はそうなのかもしれないと。

 意味ありげに、君花をじいっと見た。


「なによ、なにか言いたそう」

「いや、別に」


 今、そんなことを言ったら、怒られそうだったから。また、腕をねじあげられても困る。荒れは非常に痛い。


「里奈はね、あまりにも縛りつけられて嫌気がさしたんだって、それに飽きてきたし。だから、ひと夏の恋ってことで、別れたって言ってた。しばらく連絡してきても無視してたらしいし、学校も始まって、忙しくなったしね。尾崎のこと、忘れてたみたいよ」


 君花はそれが当たり前のように説明していた。その言い方だと、男って、飽きられたら、はい、さようなら、で捨てられるようなイメージを受ける。

 なんだか、雅紀は無性に尾崎ってやつのことがかわいそうになってきた。あんな陰険そうなやつだけど、本気で女の子を好きになったら、そりゃあ、多少はその子とことを独占したいだろう。しかも里奈はかわいい。もてる。心配にもなる。誰かと話していると、ひょっとして、その人の事を好きなんじゃないかとか、誰かに言い寄られて、取られてしまうんじゃないかとか。

 

 尾崎はそれがちょっと度が過ぎただけだったんだ。それはきちんと腹をわって、話し合えばわかってくれると思う。それをもう飽きたって言われて、はいさようならじゃ、ひどすぎる。


 しかし、これで里奈と尾崎との間に何があったのかがわかった。これはたぶん、長引くだろう。あの尾崎が、そう簡単に里奈をあきらめるとは思えなかった。それらを大場と松本に、データとして送るつもりだ。そうすれば、尾崎の顔がもっとわかってくるだろう。あんな相手と立ち向かうなら、こっちも向こうのことを知る必要がある。


「当分、里奈をここへ泊めようって思ってる。里奈の自宅は知られているし、何度も家の周辺で尾崎を見ているんだって。つきまとわれてる。里奈も怖いって言ってる」


「親には言ったのか」

 本当は高校生の君花じゃなくて、きちんとした大人、そう、親などの親身になって心配してくれる大人に相談するのが一番いい。


「尾崎みたいな男につきまとわれているなんて、親に言えるわけないじゃない。それに尾崎との体の関係がばれたら、里奈、お父さんに勘当されちゃうよ。けっこう厳しいらしいの。お父さん、大學の教授だし、一人娘を溺愛しているみたいだし」


「っていうか、それ、自分が蒔いた種だろう。自分の行動にもっと責任もてよ」


 そういうと、君花も自分が叱られているかのようにうつむいた。

 そうだ、今は尾崎が全面的に悪者になっているが、その理由を聞くと里奈にも非がある。こんなふうにこじらせてしまったのも、里奈の浅はかな行動が原因だろう。


「里奈を当分ここへ泊めるっていったけど、じゃあさ、ここはどれだけ安全なんだ? あの男、君花のことも知ってるんだろう。お前たちが仲がいいってこと、知ってたら、君花のことも調べていると思う。里奈が自宅に帰っていないってわかったら、真っ先に君花のことを思い出すんじゃねえのか。ここのアパートだって、すぐにわかることだ。それにここには大人がいない」


 そういうと君花の目に恐怖の色が走った。

 そうか、そんなこと、全く考えていなかったんだ。

 雅紀は思い出していた。このアパートは街燈もついていて、夜でもかなり明るい。遠くからもここの様子がよく見ることができた。

 それって、暗い所に潜んでいても見えるということだろう。もし、尾崎が後をつけてきたとしたら、今もどこかでこのアパートを見ているかもしれない。


「そんなこと、考えてもみなかった。どうしよう。尾崎と別れてからも里奈、けっこううちに来ているの。ここは大丈夫って思ってたから、そんなこと考えてもみなかった」


「そんな重要なこと、考えなかったって。女のくせに単細胞だな。そんなことくらい・・・・」


 そう言いかけて、口をつぐんだ。君花がものすごい目で睨んでいたから。やばい、言いすぎた。


「あ、とにかく、あいつがここを知っている可能性は高い、そう思うだろ」


「うん、どうしよう。怖い」


 今まで君花は自分の技に自信があった。いざとなれば、尾崎程度の男、取り押さえられると自負していたのだろう。けど、今日、予想しなかった行動に出られた。もう今の君花には、尾崎が急にここへ押しかけてきたとしても、もう追い払う勇気はないだろうと思った。このままで二人をここに残して帰ることはできないと思った。

 仕方がない。乗りかかった船だ。ここは用心棒の兄の出番だろう。


「な、オレ、今夜、ここに泊まっていいか」

 そう聞いた。

「えっ、泊まる?」

 君花が目を丸くしていた。とんでもないことを言うと思っているのがわかった。


「一応、用心のため。もし、あの尾崎が見張っているとしたら、今、オレがここにいることもわかってるはずだ。時々、オレがここに来ると思わせるのにもいいし。女だけじゃないって思わせておくんだ」


 君花がどうしようかと考えているようだ。

「とにかく、今夜は里奈もいるんだし、オレはこのソファに寝かせてもらう。明日、一緒に登校すれば尾崎もあきらめるかもしれないし」

 君花が、思いつめたように考えていたが、やがてこっくりとうなづいた。


「わかった、ありがとう。正直言って、このまま雅紀くんが帰っちゃったら、里奈と二人だけってすごく心細かった。本当にこのソファでよかったら・・・・泊まって行って。ご飯も作るね。お腹空いたでしょ」


「オッケー、じゃあ、章子さんにそう電話してくれよ。君花がそう言えば、たぶん、大丈夫だから」

「わかった。母も少し里奈のこと、話してあるの。そういう事情なら分かってくれると思うし」


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