表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/18

ストーカーさん、呼び出して反撃?

 まあ、とにかく、雅紀と君花もこのストーカー騒ぎでちょっぴり接近することができた。もしかすると、君花とあの謎の男はなんでもないのかもしれない。あのキスの反応で、君花はそれほど遊んでいないと判断できる。


 もし、その男のことが好きなら、ちょっとしたキスの時に抵抗するはずだ。それを受け入れていた。それは雅紀のことを決して嫌っているわけではないという証拠。けど、その先の濃厚キスはだめだった。それは、急にそんなには受け入れないという意思表示だろう。そういうことに慣れている女子なら、それほど抵抗することなく、受け入れていると思う。

 雅紀は、君花が自分の部屋に戻ってから、それもゲームの中に打ち込んでいた。


 松本と大場からも尾崎に関する情報がたくさん入ってきていた。もしかすると、この二、三日で決着がつけられるかもしれない。


 それでも雅紀はもう一週間、様子を見ていた。君花と登下校を一緒にし、絶対に一人にさせないでいた。学校内でもなるべく君花のクラスに入り浸り、何気ないふりをして、なんの異常もないことを確かめたりした。校内でももう君花とのことをとやかく言うやつはいなくなった。君花も雅紀が寄り添ってきてもあたりまえのようにしている。

 ううん、慣れってやつは恐ろしい。こんなこと、誕生日前には想像もつかなかったことなのだ。


 家の中でももう君花は、ずっと以前から住んでいたみたいな存在になっていた。章子さんと一緒に夕食を作ってくれたり、時々、とんでもない失敗ハンバーグを作って驚かせてくれたりした。おもしろかった。そんな君花もかわいかった。

 純は部活動もそこそこに学校が終わるとすぐに帰ってくる。お姉ちゃんとまとわりついていた。まるで忠実な犬の如く。


 きっかけはどうであれ、君花の存在が大きくなっていた。これでストーカー尾崎が改心したら、君花は再びあのアパートへ戻っていくんだろうか。そして、あの場所で雅紀の知らない君花になり、あの男を受け入れるのか。


 一瞬だが、君花をここに止めるために、ストーカー尾崎、このままでもいいのかもしれないなんて考えていた。尾崎はたぶん、これ以上の悪さはしてこない。もっと愛憎が激しい理由があれば、だが、君花はただの面白半分のターゲット。里奈の代りでしかなかった。怖がってくれれば、それで鬱憤うっぷんがはらせるのだろう。


 いや、君花はまだ怯えていた。それを保護することが兄に課せられた任務。それにストーカー尾崎にやられてばかりいては、オタクの名が廃る。

 段々と尾崎という男の姿が見えてきていた。実行日を今夜にすることにした。



 雅紀は尾崎に丁寧な文章のメールを送った。一度、きちんと話をしてみたいという内容だ。


 場所は雅紀の家の近くにある二十四時間営業のファミレス。時間は夜の十時に来てくれと。

 奴は絶対に現れる。そう確信していた。尾崎もなにかの変化が欲しいはずだ。あのアプリを入れていたことを暴露してから一週間がたっていた。雅紀たちは情報収集に全力を尽くしていた。だから、なにも行動を移していない。尾崎も雅紀たちは何をするだろうと思っているはずだ。期待していたかもしれない。一週間、待ってくれていた。しびれを切らす頃だろう。


 雅紀はそのファミレスの一番奥に陣取っていた。一応、そのすぐ手前の席には大場と松本もいる。他の客のような顔をして座っていた。

 十時半を周る。まあ、時間通りにはやってこないとわかっていた。でもたぶん、十時前にはこのファミレスの周りをうろうろしていたに違いない。それも雅紀が来る前からだろう。奴は大場と松下の存在も知っているはず。だから、雅紀たちは一緒に堂々と入ってきた。


 十時四十分を過ぎたころ、やっと尾崎が姿を現せた。入り口付近には数組のカップルや、学生が座っていた。雅紀たちがいる奥には誰もいない。それ確認して、入ってきたんだろう。

 雅紀はすっくと立ち上がり、手を振る。

「こんばんは、尾崎さん」

 長年の友人のように、そして年上ということを考慮して、丁重に挨拶をした。向こうは当然、戸惑っていた。すぐにストーカー行為を責められるんだとばかり思っていたらしい。


 雅紀は、どこかのセールスマンの如く、偽物のスマイルを浮かべる。本心で笑う必要はない。だって、雅紀は尾崎と面識があったのは、君花が転ばされた時、ほうきを持って立ち向かったときだけだ。そんなことがあって、どうして親しみのある笑顔を向けられるのか。

 ただ、雅紀がケンカ腰ではない、ということがわかってくれればいいのだ。


「寒い中、呼び出したりしてすみませんでした。こんなところまでご足労いただきまして、ありがとうございます。すぐにわかりましたか? あ、ここは確か常連さんでしたよね」

 にこやかに言いながらもちくりとやる。


 ここのファミレスのサーバーに、すでに確認を取ってあった。尾崎の写真をみせ、ここに来たことがある客かどうか聞いていた。するとすぐにYESの返事。

やはり、尾崎は時々雅紀の家を見張っていた。その度にここにきて暖を取っていたのだろう。君花がもし外出するようなら、尾崎は姿を見せて怖がらせようとしていた。


 雅紀はサーバーのお姉さんにドリンクバーとケーキのセットを頼んだ。尾崎はちょっと考えていたが、雅紀と同じものにした。よかったと思う。まあ、食事を注文されてもよかったが、ここは話をするのに、両手を動かすようなステーキなどの食事は、気がそれる場合がある。ちょっとした暖かくて甘いモノが最適だった。人間は、空腹と寒さ、眠さに苛立つというから。


 雅紀が再び、にっこりと尾崎に笑顔をむけた。向こうは落ち着かない様子で、ちらちらと雅紀を見ては目をそらす。

 こうした明るい所で面と向き合うと、尾崎の性格がよく見える。雅紀をまともに見られないのだ。キョトキョトとやたらに目が泳いだりしている。


 尾崎は神経質で、甘やかされた一人息子だった。欲しいモノは割となんでもすぐに買ってもらえた。金持ちの家に生まれ、親はその地位と金を自慢している。父親は事業に夢中で、その母親も自分のことに時間と金を掛けていた。自分が磨かれることが、旦那にも息子にもいいことなんだと勘違いしている、子供を産んだだけの女。きっとそういうたぐいは、母親とは言わないのかもしれない。そんな何不自由のない生活だったが、親たちからかまってもらえなかった。愛情不足だったのだろう。


 一人息子だから、自分の周りには大人しかいなかった。比べられる人がいないということはいいことのようだが、幼いころからの子供なりの掟に触れず、世の中を知らないことになる。子供はいろいろと嫌なこと、損な役割りを押し付けられて、少しづつ経験し、それを乗り越えて初めて大人に成長していく。他人のいいところを見たり、悪い所も参考にしてもらって、ある程度の知恵がつくのだ。そんなことを体験できなかったり、回避していたら、たぶん、突発的なストレスに弱くなってしまうだろう。

 

 そういうやつは、変なところに自信はある。子供のころから自分は褒められてきていた。たぶん、尾崎の場合、使用人とかだろうけど、お世辞なんだか、本気何だかわからないだろうな。自分に不利なことを言うやつは、たとえそれが正しくても敵になる。

 だから、今回は、女性から悪口雑言を吐きつけられた。そんな里奈はかわいさ余って憎さ百倍だろう。里奈は押してはいけない禁断のボタンをバシバシと足で踏みつけるような真似をしたのだと思う。


 情報によると、尾崎は中学、高校でもトラブルを起こしていた。

 女性教師が見せる優しさを自分だけへの愛情と勘違いしていた。そしてその笑顔を独占したくなっていた。だから、教師に対して自分だけを見てくれるようにお願いしていた。それだけなら、まだかわいい生徒として終わる。けど、奴はその教師が他の生徒に自分に向ける笑顔を向けた時、その生徒に嫌がらせをはじめたのだ。その生徒の持ち物を隠したり、靴を捨てたりした。ここからも尾崎の性格がわかる。嫌がらせをするくらい陰湿なのだが、度胸がない。あからさまに人を傷つけることまではできないのだ。だから、学校で父親が呼び出され、注意を受けるくらいの処分で終わっていた。


 高校でも保健室の先生に入れあげ、結局その先生が学校をやめている。愛情を注ぐことに全力をつくしていた。けど、それが一方的すぎて、相手に受け入れられないのだ。たぶん、自分と同じように、相手からも愛情をもらいたかったのかもしれない。そんなことができるのは、親しかいない。思えばかわいそうなやつ。


 大学へ行っても同じだった。ルックスはいいから割と女の子も心を許す。金回りもいい。けど、みんな一か月もつきあうと根をあげた。その性格が陰湿だからだ。いずれも里奈のように、男と話をするだけで嫉妬をし、その一日の行動を調べていた。相手のスマホにアプリを入れることなどお手のものだった。

 一度、それで警察沙汰になった。それでも証拠不十分として注意だけで済んでいた。だから、尾崎はその手のプロだった。ここまでやっても罪に問われないというその線を知っていたのだ。プチ・ストーカーのプロともいえる。

 

 尾崎が、雅紀を不安そうに見るたびに、すべてを知ってますよ的な意味の笑顔を向けていた。雅紀は優男だ。体力もないし、武道にも疎い。でも、傲慢そうな顔でもないし、まあ、いざとなったら力づくで勝てるかもしれないというタイプ。だから、尾崎が油断してくれることを祈る。油断させることで、心を開いてもらいたいのだ。そうしないと、この尾崎の心はほぐれないから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ