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不死の噂  作者: とりふく朗
第一 古屋憧理
12/24

11 まもる君の事情聴取

 両手で顔を覆い、乙女泣きをするゴリラを宥め、「バナナがどうしたの?」と首を傾げる愛樹を皆でスルーし、一旦場が落ち着いた所で本題に戻った。


「ねぇ、聞いてる!?バナナが何!?」

「愛樹。それもういいから」


 しつこく訴える愛樹に、葉流が有無を言わせぬ笑顔で制止する。

 愛樹がいる所で、下ネタはあかんかったなー。

 後で葉流に殺される。

 つか、現在進行形で視殺されそうだ。

 その刃物のような視線やめようか。

 何か痛い。何か心に刺さって痛い。


「……で、他の要件は?」

「何さらっと事情聴取終わらせてんだ?」


 え、まだ聴くの!?という驚愕の表情を浮かべる俺。

 ゴリラの額に青筋が浮かぶ。


「お前が知らねぇのは、もう分かってんだよ。だが、もう一人いるだろう?……まもるを出せ。――数秒で銃弾三発。しかもただの拳銃だぞ?それをぶっ放した後に、被害者の直ぐ近くにいたお前に気付かれる事無く去る。……ははっ。それが本当なら、そいつは神か?不可能なんだよ。だから、お前の記憶が抜けてるとしか思えねぇ」

「……あのさぁ、それも前説明したじゃん?まもるはやってないって。あいつは俺に嘘なんて吐かない。無口だからちょっと怖……、誤解されやすい子だけど、まじ無害ないい子だから。主導権も俺が握ってるから、俺の意識がかなり混濁してない限りは勝手に出てこない子よ?仮にまもるがカイを殺したとしても、拳銃はどう説明つけるんだ?俺はあの時持ってなかったんだぞ?」

「そんなもん、お前が記憶ないだけで、どうとでも隠蔽できるだろ。いいから代われ。別に、まもるを犯人だと決めつけてる訳じゃない。何か知ってるかもしれないだろう?それを聞くだけだ」


 ……うわー。悪人面。

 絶対犯人って決めつけてるわー、この人。

 まぁ、周りに人がいないあの状況じゃ仕方ないけど。


「……はぁ。俺的には代わりたくないんだけどねー。あのキャラをこの身体で体現されると恥ずかしいのなんのって。……まぁ、呼びかけてはみるけど、今回もあんま期待しないでね?」


 身体の主導権は確かに俺が握ってる。

 というか、まもるは引きこもり体質なので、「俺が主人格だぁ!」みたいな、人格のぶつかり合いが起こらない。

 ……というか、呼びかけても表には滅多に出てこない。

 だから、解離性同一性障害といっても、別人格の自己主張がほぼ皆無な為(表に出るのを拒否るという主張は強固ではあるが)、あまり弊害はなかったりする。


 出てきたとしても、どうせしゃべんないと思うんだけどなー。

 俺は深く溜息を吐きつつ、まもるに呼びかけた。


――あのー、まもるさぁん?

――……。

――あ、ですよね。


「うん、ごめん。やっぱ無理だったわ」

「諦めるの早くね!?もう一回頑張れよ!?」


 もぉ、うるさいなぁ。


――ま、まもる君?

――……。

――あ、何度もごめんね?なんかゴリラがまもるに会いたいらしくて、ちょっと出られる?

――……。

――ほら、例の事件について。何か知ってる?

――……、僕は、やってない、よ。


 おお!返事が返ってきた!

 いい加減見つめ合うのもきつかった!

 因みに、容姿はぼやけてよく見えないが、まもるは結構幼い見た目をしている。

 10代半ば、ぐらいだろうか?


――あ、うん。それは分かってる。知らないならそれでいいんだ。でも、まもるから直接言ってやらないと、あのゴリラも納得しなくってさ……。

――……。

――ちょっとでいいから代わってくれない?

――……。


 わずかに眉を顰め、首を振るまもる。

 心底嫌そうだなー。

 てか、表に出るのを譲り合うって、どんな状況よこれ?


「やっぱ無理っすわ。まもるはやってないってさ」

「……チッ」


 ゴリラは舌打ちを一つ打つと、テーブルに視線を落とし、「しゃーないか」と小さく呟く。

 やっと諦めたか、と思ったのも束の間、直ぐにゴリラは俺に向き直った。

 そして、にんまりと口角を吊り上げ、口を開く。


「おいおい、お前が関係してる未解決事件は何もこの件だけじゃないんだぞ?古屋事件、忘れてねーよな?この二つともの不審な事件の中心に、お前はいる。どんな偶然だろうな?なのに肝心のご本人様は、その両方共の事件の記憶がないと言う。……可笑しいよな?」

「……何が言いたいのかなぁ?」


 そんな事言われても知らんもんは知らん。

 というか、その事件まで掘り下げるっつーんならキレるよ?

 

「正直に言おう。俺は、古屋事件の方にもお前……、あるいはまもるが、事件自体に関わってると思ってる。被害者としてではなく、加害者側としてだ。まぁ、直接的にか間接的にかまでは知らねーが」

「……ほう?ここでそれを話すのか?」


 俺は瞳を細め、葉流と愛樹が見守っているソファの方を流し見る。

 だが、俺の意図を察したであろうゴリラは、更に笑みを深めるばかりだった。


「何か問題があるか?」

「いや?まっつんがその気なら、俺は何も言わない。ほら、続けなよ。こいつらだって、ある程度の事は知ってるしな」


 俺は今度は葉流たちの方に顔ごと向け、破顔してやった。

 葉流たちは何か、うん、心配そうな顔でそわそわと俺を見ていた。


「……じゃぁ、言わせてもらおうか。14年前、お前が10歳だった頃に起きた、古屋家の放火と、お前以外の古屋一家が喪失した事件。……というか、この時点で怪しい匂しかしねぇところなんだがな?」




**********


 憧兄の意識が、途切れた。

 突然だった。

 松下さんが古屋事件について話し始めた途端の出来事。

 憧兄が顔を少し俯かせたかと思ったら、次に正面を向き直った時にはまもる君だった。

 向き直った、というか、視線は相変わらず空を見つめてはいるけれど。


「……やっと出てきたか。……いや、やっぱり出てきたか、と言うべきか?ここで出てきたという事は、古屋事件の方に関与してるって事でいいんだよなぁ、まもるちゃん?」

「……」

「おいおい、無視はないだろう?何か憧理に聞かれたくない事でもあったんじゃないのか?」

「……」

「……まぁ、いい。どっちにしろ、もう時効だ。それよりも羽田灰斗についてだ。この事件について、お前は何か知っているはずだ。あの時何があった?お前は何を見たんだ。それかお前自身が何かをしたのか?」

「……」


 ……相変わらず無言で、ぼんやりとした無表情を浮かべるまもる君。

 これ、事情聴取とか無理だろ。


「おい、何か応えろ。やっと出てきたんだ。楽しくお話ししようじゃないか。なぁ?」

「……」

「聞いてんのか、おい!!」

 

 松下さんは青筋を浮かべ、テーブルに拳を叩き付けた。

 キレるの早くない?


「お前が話さねぇんなら、古屋事件の話の続き、何度でもあいつに聞かせるぞ」


 鼻息を荒くしつつも、怒鳴らないように声量を抑え脅し技を披露する松下さん。

 そこで漸くまもる君は顔を上げて松下さんに向けた。

 ……目線は多分合ってないけど。

 あ、松下さん、若干ビクッてなった。


「……」

「……」


 数秒見つめ合う二人。

 桐先さんのスマホからシャッター音が鳴る。

 そしてまもる君は、ゆっくりと――顔を下げ、真正面よりやや下向きの定位置へと顔を戻した。


「――何もしゃべらんのかい!!」


 松下さんの怒声が木霊する。

 だから、無理だってば……。

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