第二話 『家族の食卓』
「夜月様ッ!起きて下さい!」
朝一いきなり大きな声で起こされる。
「まったく、今日から貴方は高校生になるというのに、だらしない…。」
「はいはい、起きてますよ母さん。」
「・・・誰が母さんですか。」
「違ったか?じゃあ俺の嫁。」
「・・・ふざけるのもいい加減にしてください。ほら、腹が減っては戦はできませんよ。」
メルは呆れたように、部屋から出て行った。
「はは、照れてるんだな。」
夜月はニヤけながら部屋を出る。
今日から高校生。普通は心を切り替えて新たに頑張るべきなどだろうが、
夜月は心を切り替えるなど出来なかった。
親父から授かったナイフ。そして親父からの手紙。
俺は誰かを守ることなど出来るのだろうか…。
「おはようございます。朝食出来てますよ。」
もう一人のメイド、メイが台所で料理をしていた。
「うは〜さわやかな朝だな。いつもすまないな。」
「何ニヤニヤしてるんですか。私の妹に手を出したらどうなるか」
「すいません。ジョークです。」
メルは怒らすと怖い。怖すぎる。でもついからかってしまうんだよな。
「あの〜。朝食どうですか?」
メイはモジモジしながら言う。
「ん、おいしいぜ!メイの作る料理は最高だな!ハハ」
「本当ですか!?嬉しいです!」
「それに比べ、メルの料理は…。」
「・・・はい?何かおっしゃいましたか?」
「…何でもないです。」
いつもの楽しい食卓をすませ、夜月は学校に出る支度をした。
「ん、待てよ。誰かを守れということは、恋をしろというのか?」
まったく、誰がこんなこと決めたんだよ。かなり面倒だぜ。
家を出ようとしたとき、メルが呼び止めた。
「お待ち下さい、夜月様。言われた通りナイフを磨いておきました。」
「おお、ありがとう。メルはいつも頼りにになるな。」
「い、いえ。主人の命令に従うのが私たちの役目ですから…。」
「ふーん、そうなの?」
「そ、そうです!」
メルは顔が真っ赤になっていた。まったく、素直じゃないんだから。
「そうそう、メルとメイってここに仕える前ってどうだったんだ?」
「・・・もう。はい、我々は元々修道院で育てられて来ました。その後朱月様に雇われて…。」
「修道院って、光月と蘭月がいるところか?」
「はい。光月様と妹様も確かいましたね。」
そういえば、メルとメイは仕事で忙しくてなかなか帰れない親父が俺の為に雇ったんだっけな。
ひとりぼっちだった俺と一緒に遊んでくれたんだよな…。
「…本当にありがとう。俺をここまで育ててくれて。」
「い、いきなりなんですか!?」
「いやさ、昔のことを思い出しただけだよ。一緒に遊んでくれてたんだな…って。」
「な、なんだ、そんなことですか。と、早く出ないと遅れますよ!」
「ははっじゃあ行ってくるわ。」
「行ってらっしゃいませ。」
夜月は走って出て行った。
「メイ、あの子は成長したのね…。」
「はい、そうですね。昔は甘えん坊だったのに・・・。ちょっぴり寂しいな。」
「ふふ、懐かしいわね。本当に…。」
「ですね…。」