第一話 『呪縛の短刀』
「夜月、お前もとうとう高校生になるのか。」
中学を卒業した春休み・・・親父はそう言ってたな。
「そうだ夜月。これをお前に託そう。」
親父は引き出しから、汚れた変な模様のナイフを差し出した。
「親父、これは…。」
「いいか、このナイフは人を殺すものではない。自分を、そして人を守るためにつかう物だ。それだけを約束して欲しい。」
「分かったよ。親父。」
「おっと。あともう一つ約束して欲しいことがあるんだ。」
「何?」
「このナイフは決して他人に渡さないことだ。家内の者には別に構わないが、赤の他人には決して触れさせないように。そして手放す事も駄目だ。」
「え、どうしてなんだ?」
「それは言えない。言ってしまうと受け取ってくれないと思うからな。」
「ふ〜ん…。どうしてそんな物を俺に?」
「このナイフは代々引き継がれてきたからな。今度はお前の番だ。さっきの約束を守って、大切に扱ってくれよ。」
「そっかぁ・・・よくわからないけど、引き継ぐことにするよ。」
「ああ、頼むぞ。」
この一週間後、親父は行方不明になった。
仕事に行ったきり、帰ってこなかったのだ。
親父…どうして…。
俺はナイフのせいだと思い、親父の残していた資料からナイフの秘密を探ろうとしていた。
なんせ手放すわけにはいかなかったしな。
色々考えている時に、コンコン、とドアノックの音。
「入っていいぞ。」
うちに仕えているメイドだった。
「夜月様、朱月様から手紙が届きました。」
「親父から!?」
この手紙が届いているころは、行方不明と騒いでる頃だろう。
夜月、一週間前はあの汚い物を押し付けてすまなかったな。
だが私が行方不明になったのは決してナイフのせいではない。
ナイフに秘められた他の謎を解明しようと黄泉の旅へと出たのだ。
そのナイフに秘められた謎は沢山ある。私が知っていた謎はどれも残酷だった。
創造主も全く不明なのだ。何故受け継がれてきたかも分からん。
だからといって、約束通りナイフは手放すなよ。私の祖父は掟を破ったせいで亡くなってしまった。
夜月…精一杯生きろ。そして守るべき物の為にナイフを振れ。
魅夜を…頼む…。
「…親父。」
「朱月様も、守るべき物の為にナイフを振ったのでしょうか。いやそうでしょうね。だから夜月様がここにいるのですから…。」
「……メル、このナイフを預かってくれ。」
「はい、了解いたしました。」
「あと磨いておいてくれよ。 ・・・親父、俺、精一杯生きるよ。」
生きる・・・それを決意し、俺は高校生になった。