04
強引に出て来た所為なのか、肉体へと戻ってきたら体がふらついてしまった。
一哉君に支えてもらったおかげで怪我もなかったが、あの女性の視線は痛かった。
彼はもう既に選び終わっていたが、何故か一個しかもらえない筈なのにガントレットも貰っていた。
何だと。
勇者様だから?酷くね。
武器は白光に輝く剣らしく、寧ろ白光というより、ガラスのように透明で向こう側が透けて見える。
それが光に当てられて輝いて見えるけど、どこか腹黒い彼には性に合わない気がしてきた。
けど幼馴染が選んだものだし、口出しもしない。
そうそう、タイトルに書かれている『フェルマーの書』という文字は誰も読めないらしい。
あの聖女様でも読めなかった。
フェルマーっていうのはさっきの黒髪の美青年の事だ。
そして物凄い展開があった。
なんとこの国の言語がいきなり理解できるようになったのだ!
フェルマー曰く、この世界の何らかの力……つまり魔力が宿った物に触れれば理解できるらしい。
じゃあ何で私にあの指輪をくれなかった。
『従者扱いされたからではないでしょうか?』
こいつさっきの事恨んでるわ。
口調が柔らかくない。
「では、早速魔力値の測定へと参りましょう、カズヤ様」
あぁはいはい、私は無視ですか。
女の嫉妬なんぞに付き合ってられっかという心情にフェルマーが同情してきた。
余計なお世話だっつの。
「玲、行こうぜ。次は魔力と属性の測定だってさ!」
さっき聞いた、と返したが聖女様の御声とやらでそれは掻き消えた。
そういえばさっきフェルマーに言われた単語が気になって仕方ない。
測定を行う場所まで向かう間にフェルマーに聞く事にした。
『さっきの私がディレンタって、どういう事かしら?』
『記憶が欠落していらっしゃるならば、もしかすると御主人はディレンタ様の因子を継いだ存在なのかもしれません』
異世界出身なんですが、と言いたくなるのを抑えて疑問に思っていた事を聞く。
『その、ディレンタの因子を継いでいたら何か起こるのかしら?』
『属性は闇でしょうね。魔力も神と言われても可笑しくないほど保有しています。この量は人間だと死んでしまいますから』
いつの間にか人外になってました。
母よ、父よ。
私が一体何をしたというのでしょうか。
『やはりあなたはディレンタ様なのです』
違う、私は影宮玲よ。
愛すべき母と父の子だ。
ディレンタなんて知らない。
私はそんな存在じゃない。
「では、これから魔力と属性の測定を行います」
「これはどうすれば良いんだ?」
「はい、手でこの魔珠に触れて頂くだけでよろしいですわ」
「へぇ……」
魔珠と呼ばれた球体は透明な水晶体のようだった。
一哉君が魔珠に触れた瞬間、一気に輝きが増す。
辺りを飲み込む程に輝く柔らかな白い光に周囲にいる人達が呆然と見つめた。
「素晴らしいですわカズヤ様!光の属性だけでなく、基本属性もその身に宿す貴方はやはり勇者の素質があるのでしょう」
「ありがとう、レニア」
あれ、初めて聖女様の名前を聞いた気がするんだけど……そうだよね、自己紹介すらされなかったし。
それって人間として失礼だと思うんだけど、高貴な方は何考えてんのかワカンネ。
「ほら、玲もやってもらえよ」
正直言って、闇だってバレて迫害されるの嫌なんだよね。
勝手に召喚した挙句、何でそんな事されなきゃいけないのよ?って話になるじゃない。
何その理不尽な話。
巻き込まれて来たんだから、私だけ帰してくれないの?
まー今帰しちゃったら幼馴染くんにも帰られて困るだろうし、仕方ないよねぇ。
『幻術などもお使えになられます』
ふぅん……?それはいい事を聞いた。
世界の情勢が分からない今、闇属性なんて怪しさ満載のこれをヒミツにしておくのは悪い事ではないと言えるだろう。
『フェルマー、私の属性を火にしなさい』
『生物の属性を変える事は出来ないのを承知で?』
『お前は黙って幻術を使い、私の魔力の偽装と属性を火に変えなさい』
『な、なんて傍若無人っぷり……』
フェルマーとの会話をしながらも、水晶に手を翳す。
文句は言いながらも、フェルマーって本当に良い奴。
おっと、赤く煌々とゆらめく炎に思わず口角が上がってしまうのを抑えなくては。
「まぁ!これほどまでの炎を……でもカズヤ様の方が魔力は上のようでございますわね」
当たり前でしょう、ウチのフェルマーが本来の魔力を偽装しているんですから。
という心の声なんて聖女様は全く知らないのに、彼女は自分のように鼻を高くしていた。
あの後ぐったりした様子の幼馴染くんを見た聖女様は、もう夜も近いと言って彼の背中を支えながら豪華な部屋から出て行った。
出て行く際、嘲笑っていたのを私は見ていなかったけど知っているんだぞ。
侍女さんに頼もうと思ったんだけど、面倒だからフェルマーに任せて部屋に戻った。
本っ当失礼な人間だよねーあの聖女様。
早速部屋に入ってやった事といえば、フェルマーに頼んで幻術で偽装工作。
よく小説とかである監視とか本当にやられたら気色悪くて嫌だし。
『さてフェルマー、此処はなんていう国か分かる?』
『此処はヘレーネ教団総本山であるヘルラント。まぁ国じゃないです』
『中立国?いや、自治区かしら?しかしまぁ教団が此処まで資金があるとは……』
『この大陸は資源が豊富ですから』
フェルマーの話曰く、資源が豊富なだけでなく国同士の諍いが全く無く、この教団は大陸一でかい国とそれなりにパイプもあるらしい。
『君はあんな所いたにもかかわらず今の世界情勢を知っているというのか』
『私が知らない事があると思っているのですか、御主人』
……こいつ、自分が知ってないと気が済まない性格じゃだろうか。
とりあえず知識があって困る事はないが、こいつから教わるのは少し嫌だな。
自分で学ぼう。