03
翌朝。
起こしにやってきた侍女(みたいな人)にやっぱり何を言われたのか理解できなかったが、服を着替えさせられて扉を開けられた所、外へ出ろと言う事だろう。
勇者が召喚されたという事は王様に会うのか。
とりあえず翻訳者がいないと私は何もできない。
謁見の間に到着する前に幼馴染と半日振りの再会をした。
「おはよう、玲」
「おはよう」
「これから王様と謁見の間で会うんだってさ。緊張するよなー」
「へー」
幼馴染が何か言葉を返そうとした時、幼馴染が後ろから声を掛けられて会話が中途半端に終わる。
侍女が何やら恨めしそうな、憎悪が篭もった目でこちらを見てきたけどいつもの事だった。
ただ自分は無関係だと、空気のようにしていれば良いのだから。
謁見の間への扉が重々しく開いた。
あの後謁見で何を言ってるのか分からないからスルーしていたら、金魚のフン扱いされた。
酷くね?元はといえば幼馴染が私を巻き込んでくれた所為なんだけど。
「倉庫に行って好きなものを持っていって良い」という幼馴染の口からその言葉を聞いた時、売りさばけば良いのにと思った。
……そうだ、選ぶなら地味なものを選ぶとしよう。
そしたら帰る方法を探しながら観光しよう。
昨日私達を召喚した女性は聖女と言われる人らしく、父親が先程謁見した人らしい。
幼馴染に落とされた聖女様は嬉しそうに幼馴染の横を歩いて私に牽制のようなものを仕掛けてる。
それに気付きながらも放置する幼馴染はやはり黒い。
今の所害がないから放置しているのだ、こいつは。
対してこちらはそのような牽制など慣れたもので……なんか段々この長い回廊に飽きてきた。
聖女様が何か言えば、どでかい豪奢な扉がそこにあった。
こちらに来る前に見たような幾何学模様の魔方陣とは別のものが扉の前で現れると静かに開いていく。
中には目を瞑りたい程明るく灯された武器庫のような場所だった。
勝手なイメージではあるが、無造作に置かれているかと思っていたけど、剣や盾は壁に乱れなく立て掛けられていたり、手が触れる範囲内に横に置かれていたりしている。
灯りに反射する程綺麗に磨き上げられている武器の中に、装飾品もあった。
宝石店のようにショーケースに入れられている訳でなく、埃など知らぬかのようにとても綺麗だ。
きっと手入れをきちんとやっているんだろうな、結構大事にする人達なのね。
ぐるりと視界を巡らせていくと、金属などがあるこの空間の中に五、六cm程の厚さもある深紅の本が置いてあるに気付いた。
意匠に凝ったような装丁だが、タイトルが何処にも書かれてない本に段々惹かれていく。
本に触れたらきっと精神世界へと連れ去られて契約するまで抜け出せないのかな、と頭で考えていたが、やっぱ人間てのは欲求には勝てないわよ。
「あ、」
一瞬の内に風景が変わる。
ぐにゃりと曲がった感覚がして、軽く酔った玲は立ち眩みのように足取りが覚束なかった。
しかしそんな今の彼女の目に映った風景はどこか趣のある場所だった。
たくさんの本が積み上げられた本のタイトルを見ていく内に、玲はハッとして気付く。
「この本読んだ事がある……?」
何千という本の中には絵本や文庫本など、これまで玲が読んだ本がずらりと積み上げられていた。
懐かしい感覚になってきた玲は、他にもないかと辺りを探り始める。
ふと視界に入った見覚えのある本を手にしようとした時、ぶわっと光が溢れる。
余りに突然な出来事に驚いた玲は尻餅をついてしまった。
痛みにうろたえていると、長い黒髪をさらりと流しながら青年が恭しくお辞儀をしてきた。
「ご帰還なされた事を心より嬉しく思います、ディレンタ様」
「……は?」
どういう事だ。
というかディレンタって何。
私にはちゃんと名前があるんだけれど。
「ディレンタ様?もしかして記憶が……」
「ごめんなさい、私にはきっちり十八年間の記憶があるわ」
「しかしこの中に入ってくるにはディレンタ様のみあり得ないはず」
とは言われても、こんな美青年見たの初めて。
艶のある黒髪を後ろで束ね、異国の衣装を身に着けるもそれは彼に着る事を許されたかのようで、とても似合っている。
髪と同じ色の瞳が困惑したように開かれる。
こんだけ美人なら一発で覚えられそうだけど。
「とりあえず、名前名乗ったらここから出して頂戴」
「えっ?もう行かれてしまうのですか!?あなたと二千年振りの再会なのですから少しは」
えぇい黙れ!!