03
「申し訳ございませんが、既に”銀瑠璃の遊星”のレイ様はギルドより退会なされております」
「なんでだよ!?大体、退会手続きもしてないだろ!?」
身を乗り出して”王の玉魔”支部の受付で大声を出したアディアの首根っこを掴んで引き摺り下ろす。
正直叫びたいのはこちらの方だと言うのに。
「申し訳ございません、指名手配犯をギルドに所属させる事は規約違反となっておりますので」
「指名手配って……」
「あれは嘘じゃなかったか?」
一哉君の言い分が正しいのであれば嘘だろうけど、一旦指名手配として流されてしまえば後ろ指差される人生が待ってる。
「それは無実でも駄目なのかしら」
「申し訳ございません、ギルドの威信に関わりますので」
淡々とした言葉と表情で告げられた事実。
先程止めたというのにまた受付の女の子に突っ掛かってはミリアに咎められるアディアの口を塞いで椅子から立ち上がった。
「いいの?」
「えぇ、どうでもいいもの」
食い扶持が無いわけじゃないし。
それに、皇子があの聖女の事は任せとけって言ったのだし、名誉毀損とか訴えても悪くないと思うのよ。
まぁ本当は物理的にも精神的にも潰しておきたい所だけど異世界召喚が唯一出来る存在らしいし?
あーぁ、本当苛つくなぁ。
今すぐにでも帰れれば良いのに。
「玲!」
昨日から宿泊しているエレヴァンの首都でもあるサナイフェの城に戻ると、一哉君がこちらを発見するなり走ってきた。
「どこ行ってたの?」
「ギルドに行って来たのよ。それで、何かあったの?」
「あぁ、皇子が呼んでる」
「さっそく仕事?」
「たぶんね」
結構な距離があったというのにまったく汗をかいてないし息も上がってないのはさすが一哉君だとしか言えない。
地理覚えないくせに勘で道分かっちゃうのもなんだかムカつくけどな!
昨日は道案内の意味すらなくなってしまいにはフェルマーに頼んだけど、今日は何故かすんなりと皇子の私室に着いた。
これ、ミリアとアディアが昨日わざと間違えたんじゃないかって思っていないと良いんだけど。
涼しい顔で軽いノックだけをして相手の返事も聞かずに一哉君は扉を開けた。
「お、今日は早く来たな」
おいこら失礼だろ、と思ったが当の本人がそんなこと考えていないようだったので良いんだろう。
……本当、この国大丈夫なのかな。
「俺達呼んだのってなにか手がかりでも見つかったのか?」
「手がかりって?」
「魔王を倒す為の、だよ」
「あぁ……。本当に倒すの?」
「なんだよ。俺が魔王を倒せないと思っているのか?」
そんな面倒事を私達に任せる人間なんて放置しておけばいいのに、とは思っている。
元の場所に帰すだなんて聞いてないもの。
だったら帰る方法を探した方が意義を感じてしまうのはひねくれているからだろうか。
「そうじゃない」
「じゃあなんだっていうんだよ?」
「って言われちゃうと私にも分からないもの」
「なんだそれ」
思えばこういうやり取りをするのは久しぶりかもしれない。
懐かしいと思ったのか、無意識に笑みを零していた。
「話の腰を折ってしまいまして申し訳ございません」
「構わん。久しぶりに会ったとは聞いているからな」
「ありがとうございます」
なんだ、意外にもこの皇子なかなか良い奴じゃないか。
少し私の中での彼の印象が変わった……気がする。
「お前達を呼んだ理由だがな、各地で異常な力が発生していると聞いた」
「それは……」
「あぁ。四宝の可能性が高い」
『四宝?』
『火水地風の四精霊の力を宿した宝具です。彼らの力の象徴なので、世界に影響を与えるのも無理がありません』
『その四宝が魔王を倒す手がかりになるっていうのね』
『……神さえ屠る事もできると、言われていますから』
解決の糸口が見えてきたじゃないですか。
それよりもフェルマーの様子が気になるな。
神さえ屠ると言った時、躊躇った感じがしたのだけど、もしかしてディレンタはその四宝で何かされたのかしら?
「具体的な場所は分かっているのか?」
「一つは把握したところだ。他は我が国が誇る術師達に場所の特定を急がせている」
「っていう事は、随分と長旅になりそうだな。なんせ端から端だろ?」
「あぁ。なに、最速の足を用意してあるから問題ないだろう」
それはどんなものか気になるところだ。
このエレヴァンは魔術で栄えた国のようだから、それを用いた技術とかかな。
「あと”銀瑠璃の遊星”に個人的な依頼をしたい。明日”王の玉魔”へ向かってくれ」
「え?お、俺達もレイと一緒に行くつもりだったんですが……」
「報酬はたんまりと用意させてもらう。それでも嫌か?」
「金で釣られると思っているのか?」
「レイがメンバーじゃなくなっても、それでも俺達の仲間なんです。俺達に依頼を出すってんなら彼女も連れて行きます」
……なんっだこの青春漫画みたいなノリ。
恥ずかしいというかなんというか……複雑な感じでもにょってしまうのはなんでだろうか。
嬉しいのか?まぁここまで自分を慕ってくれると確かに嬉しいけど。
面と向かって言われた皇子は一瞬だけきょとんとさせて、そして大笑いしだした。
「あっは、あははは!お前ら面白いな!真面目かっ!」
「お、おも……面白いってなんだよ!」
笑われたと分かったアディアは思わず叫んでいた。
一通り笑って落ち着いたのか、クレイは一息吐かせるべくそばにあったティーカップに口をつけると鋭い眼光でアディアを見つめた。
「行ってみれば分かる」
どうせお前らも一緒に行って四宝集めるの手伝ってやれ、とかそんなんでしょ。