02
私達はどうやら異世界に迷い込んだらしい。
らしいというのも、もしかしたらこれは何処かの宗教団体がこいつを崇めたてようとして誘拐したのかもしれないからだ。
そして私は口封じの為に殺されそうだ。
ほんっと面倒だわ、この幼馴染。
目の前には濃紺の裾が足首まであるマント、というよりローブを着た人達が五人いた。
その中で一際目立つ服を着た人が指輪を一哉君(幼馴染の名前)の指に付けると、一歩下がって何かを言った。
指輪の効果なのだろうか、一哉君が何を言われたのか分からなかったが(英語じゃなかった)彼は二つ返事で何かを引き受けたみたいだ。
きっとようこそいらっしゃいました勇者様、だったら引き受けた一哉君アホなんじゃないの。
その部屋は広く内装が凝られていた。
調度品といった物は無かったが、足元に目を見遣ると床にあの幾何学模様がかすかに残っていた。興味本位ですっとなぞってみると、触れた箇所だけが光を帯びる。
慌てて手を引っ込めればすぐに元に戻ったけど……あーびっくりした。
タイミング良く立ち上がると幼馴染が通訳してくれた。
「部屋に案内してくれるみたいだぜ」
「……急な出来事ね」
「大丈夫、害は無いよ。俺と玲が勇者な限り」
「は?」
勇者?え、何これ……やっぱりテンプレ的展開なの?
しかし何よりの通訳(という名の幼馴染)がいないと困る私は、さっさと例の代表者と共に先を行く幼馴染の後ろを付いていく事にした。
幼馴染と仲が良さそうに話すのは、先程の代表者だ。
テンプレだと巫女、かなぁ。
その女性はたまに頬を赤く染めながら幼馴染と会話していく。
無論、何を喋っているのかなんて私には聞こえない。
だけど分かる、私には分かるわ……――あの女性は幼馴染に落とされたと。
とりあえず当分の目的は異世界の言語と文字の習得になりそうだと思いながら、目の前で幼馴染にやられたこの女性が、私に被害をもたらすことがないよう祈るだけだ。
恭しくお辞儀をして出て行った侍女のような綺麗な人たちが何かを言って出て行くと、しんと静かになる。
はぁ、という溜め息を吐いた彼女は倒れ込むように豪奢なベッドに寝転がる。
ふかふかのベッドに優しく包まれると、すぐに寝てしまいそうだ。
しかし、元の世界に戻れるのか?と思考を巡らせ始めれば、意識がはっきりとしてくる。
あぁ本当にファンタジーなんだなーとか、此処何処だろう?と考えもあったけど、何より自分が異世界にいるという認識を不思議に思った。
どうして異世界にいると分かるのだろう?よくある小説みたいな展開で幼馴染に巻き込まれて尚且つ魔方陣を見て、言葉が分からなかったからだろうか。
なんかこう…最初から分かっていました、と言い切れちゃいそうな感覚。
でも食べ物は美味しかったし、帰れなかったら勝手に探せば良いだけだものね。
そういえばなんで召喚されたんだろ。
いや完全に私のは巻き込まれただけなんだろうけどさ。
魔王の軍勢が襲い掛かってきそうだから、ここは勇者を召喚するしかないと踏んで、あの幼馴染を召喚したのかな。
それじゃあ、私が規格外の行動をすれば監視でも付けてくるのかな。
あー……それはちょっと勘弁願いたいわ。
よし、目先の目標としては此処の世界の事なんて知らないから、とりあえず幼馴染と自分の安全の確保。
……というかあの幼馴染の様子なら、安全の確保なんて自分だけで良いんじゃないかと思えてきた。
「うん、寝よう」