08
まずは手ごろな依頼を個々で受けていこうという話になり、まぁさくっと三つ纏めて終わらせてきた。
支部の中の依頼受付窓口(なんか市役所みたい)でさくっと完了の手続きを終わらせても二人はまだ戻ってこなさそうだった。
受付の人にオススメの場所はどこかないかと聞けば、帝立図書館と言ってきた。
まさか言葉に被せて答えてくるとは思わなかったけど。
なんでも様々な文化が合わさった帝国だから色んな蔵書が収められていて世界一を誇る図書館なんだと。
それはそれは良いヒントが落ちてそうで。
ついでに二人が依頼から戻ってきた時の為に、伝言の手紙を渡してほしいと頼んでおいたから問題ない。
外観はパルテノン神殿のような建物でとても立派。
扉も日本人な私からしてみればとても大きく身長の倍以上の物だが、この世界では寧ろ普通と言って良い。
大きな扉を抜けて中に入っていけば、まず目に入るのは背の高い本棚。
二階建てのようだが、天井の高さを強調する為に二階部分は壁に沿うように、中心部を開けて設計されていた。
その一階中心部、私の目の前には真ん中が抜けた円卓があり、本の貸し出しをここでやっているようだ。
ざっと見回しても圧倒的な景観には驚きを隠せない。
魔術関連の本を大体抜いて、近くの椅子に腰を掛けた。
「レイ様とミリア様から伝言のお手紙が」
「あの二人もう終わらせたのか?」
「えぇ。レイ様は確か昼過ぎに、ミリア様がそれから少し後でしょうか」
「あー……」
なんとも気の抜けた声が自分から出た。
受付嬢から二通の手紙を受け取る。
本当に伝言のためだけらしく、二つとも簡単に折りたたまれているだけだった。
すぐに受付から離れて中身を読む。
「レイは図書館だって?ミリアは拠点地、と……」
なんだって図書館にいるんだろうか。
とりあえず、ミリアは既に今日の夕飯分を買っておくという事も書いてあるので助かる。
酒場で食べてたら勿体無いし、どうせキッチンがあるのなら、と朝そう決めたからである。
作るの俺らしいけど。
「そういや最近じゃ夜になると盗賊が出るんだって?」
「あぁ、オレもやられたよ。いつの間にか財布をスられてるんだからな」
盗賊……?
既に辺りは薄暗い。
レイは一応俺を助けてくれた少女だけど、まだまだいたいけな少女でもある。
ミリアは既に拠点地にいるから、とりあえずレイを迎えに行くべきだろう。
今度は柄の悪い奴に捕まらないよう、気をつけながら図書館のある方へ急いで向かった。
すれ違いになるかもしれないから余計だった。
本を読みながらフェルマーの書の空白ページに彼と共に、ああでもないこうでもないと言いながら術式を書いていく。
基本的に時間の概念を忘れるほどの集中力を持ち合わせていない為、自然と書の隅には術式とは違う落書きも混じっていく。
ついでに言うと魔導書だけでなく、この世界で大人気の英雄伝を読んだり、料理本に手を付けたり。
完全に日が暮れた頃には殆ど人がいなかった。
お迎えが来ない辺り、どうも伝言のアレは無意味だったようだ。
まぁ夕飯を食べるのに会話する機会はあるだろうからその時で良いか。
全ての本を片付けるのはさすがに無理があったので受付の人に任せるとする。
蒼い制服に身を包む金髪の美人なお姉さんは眼福モノだと思います。
そんな人に任せるなら自力でやった方が、と思っていたら。
「便利な魔法具があるので大丈夫ですよ」
おぉ……さすが首都。
首都で何があるかなんて分からないけどとりあえず凄い魔法具があるからお姉さんの手は煩わせないで済むらしい。
「こちらに通う予定でしたら図書カードを作りますか?」
「じゃあお願いします」
「はい、ではこの魔珠に触れてください」
出た、魔力測定時にそんな名前を聞いたぞ。
と思ったらこれは魔力の波長で個人を特定して管理しているらしい。
この波長というのは一人一人違うらしく、まぁDNAと一緒で少し似ていても僅かに違う場所があって、それで判断できると。
まぁ一々波長なんて調べてたら利用者の負担は大きいらしく、この時だけ触れさせて特殊なカードを作るんだと。
「レイ様のご登録、完了致しました!ではまたのご利用をお待ちしております」
手渡されたのは元の世界でも使っていたキャッシュカードと同じぐらいのサイズ。
半透明でありながらしっかりとした材質で、とても魔珠の中から出てきたとは思えない。
本当、あれどういう仕組みなんだ?
早速フェルマーの書の適当なページに挟み、フェルマーの部屋(という名の異次元空間)に保管してもらう。
「レイ!……あぁ良かった、無事?」
いきなりの事でいまいち状況が理解できないが、とりあえずアディアが迎えに来たという事は分かった。
なんで肩とか腕とか触って怪我していないかの確認を取るのかまでは分からなかったけど。
「どうしたの?」
「最近盗賊が出るって聞いて迎えに来た」
盗賊って変質者の類?
あぁでもそういうのってどこにでもいるんだね。
「それはどうも」
「うん、本当間に合ってよかった」
なんというかさ、アディアってへたれキャラだと思ってたわけよ。
ごろつきの件で思い切り先入観抱いてて悪いんだけど。
こう、ね。
だらしないって言ったら失礼だけど、にへらって笑う顔が更にへたれ感アップっていうか。
腹を出したデザインの服を着ているおかげで立派な腹筋を拝められているからか、中性的な顔とはいえ女だと思わないけど。
かと言って男にも見えないんだけどね、さすが中性。
肌寒い空気に鳥肌が出てきた。
「その服で寒くないの?」
「そうか?まぁ竜人族は基本的に体温が高いから」
え、じゃあエルフの耳はどうなんの?