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光と闇  作者: 緋翠
第一章
16/22

幕間 02


あいつはいつでも現状を楽しんでいた。

幼い時から冷静さを兼ね備え、そして自分が最大限楽しめるルートを最短で見つける。

何かを経験していたかのように、あいつは同年代の自分達が見ても大人のようで子供のような人間だった。


「今回は”はちきゅーさん”に追われてるのかしら?」

「! って、玲か……。なんだよ”はちきゅーさん”って。あと、誤解だからな。向こうが勝手に近寄ってきただけだし」


当時高校一年生、花の高校生、青春真っ只中。

裏道に入って迷わせようと、曲がり道の多い場所に入った時にはあいつはもう民家の壁に腰掛けていた。

坂道でもあり、下ろうとしていた時で、あいつは見晴らしのいい場所で見物を決め込もうとしていたんだろう。

意地汚い。

少しは幼馴染を助けてくれたっていいだろう。


「まぁまぁ。一哉君、お茶でもしてく?」

「……そうだな、そうする」


背丈以上あった塀を乗り越え、住んでいるであろう誰かさんに心の中でお邪魔しまーすと声を掛けておく。

意外にも庭から見た塀は高く、静かにしていればやり過ごせそうだった。

縁側に腰掛け、玲から渡された暖かい緑茶を一口飲めば心が落ち着く。


「おい、あのハーフどこ行きやがった」

「それがこの裏道に入ったのは見えたんですが……」

「馬鹿野郎が!!なに見逃してやがる!!」

「すっ、すいやせん!!」

「ここの出口全部塞げ!蜂の巣にしてやる」


誰の家だか知らないが、ここで一泊するのは気が引けるというものだ。

やっぱ蹴散らしてくしかないのだろうか。

緑茶を飲み干し、うんうん唸るように悩んでいた俺に、玲はまたしても救いの手を差し伸べてくれた。


「この家は私の祖父の家でね、玄関は表通りに面しているのよ」


しかしこの幼馴染、無償で俺を助けた事など無い。

何かしらの条件が付いてくるが、それを提示してきた事も無い。

つまり、玄関から出た後に何かがあると。

玲の目が怪しく目を細め、口元が歪む。


「あなたなら簡単でしょう?だって羨ましいぐらい出来る人だもの」



いつか言っていた台詞を思い出す。

今は目の前で文字の勉強をしているようで、一日で一気に単語から長ったらしい文章まで進んでいた。

つくづくこいつは俺よりも頭が良いんじゃないかと思うが、それは断じて俺自身が許さない。

完璧だと、天才だと謳われている俺はこいつに絶対負けてはいけない。

こいつの目標が俺だと分かっているからだ。

主人公が俺ならば、こいつは影の主人公だ。

決して主人公とは行動しない、陰で支える影の主人公。


魔力の測定時、レニアは俺より魔力は低いが炎属性を持っていると言った。

だが俺が手にした聖剣ディアマンテは、玲が幻術を使って誤魔化していると伝えてきた。

オールラウンドに何でもこなせる俺とは違い、膨大な魔力を持ち、且つ既に使いこなせていると言ってきた。

初めて負けたかもしれない。

質も量も桁違いだと。

そして玲は、やはり俺と正反対の闇属性だった。


「そういえば一哉君、お勉強は平気なのかしら?」

「少しぐらいサボったって良いだろ」

「あらあら、無遅刻無欠席な優等生さんがそんなこと言って良いの?」

「はっ。あいつらもどうせ俺の外見しか見えてねぇ。甘い言葉でも一言言ってやるだけであいつらは馬鹿みたいに騒ぐ」


外見だけ見てきゃーきゃー騒ぐ甲高い声が大嫌いだった。

優しく微笑みかければすぐに騙される馬鹿を相手にするのが面倒だった。

そんな俺を分かってて、玲は何も言わずこの図書室に匿ってくれていた。

ディアマンテに言われて分かった事は、図書室全体に幻術を掛けている事。

きっとこいつは、俺がどういう理由でこちらに来るかを分かっていたのだろう。

唯一、友人の中で気を許せる存在でもあった。


「ふぅん……所でさ、聖女様に元の世界に帰れるかどうか聞いた?」

「あ?アレが易々帰してくれると思うか?」

「まさか。で?」

「膨大な魔力を消費するから、二つの月が満ちたりて重なる時に帰せるだとよ」


この世界は月が二つある。

一つは小さく、地球の時のように一ヶ月掛けて満ち欠けを繰り返し、毎晩のように見られる普通の月。

もう一つの月は大きい為、三年を掛けて惑星の周りを一周する。

満月と満月が重なる時、たった数時間だけこの惑星は魔力に満ち溢れるのだが……。

元より呼び寄せるだけで帰すつもりなど毛頭ないだろう。

それにあの女なら、あわよくば俺と結婚する事も考えているはずだ。

純真な乙女も、結局は女だ。


「私達がこの世界で最初に見た部屋、覚えてる?」

「あぁ」

「一昨日行ったら、床には術式が浮かび上がっていたわ。昨日行ったらもうなくなっていたけど」

「さすがに消え――」

「違うわ」


術式は発動されるアクションまで補助するだけのものだ。

つまり発動されたらすぐに消える。

俺自身も魔術の訓練はしているから過程は分かる。

酷く魔力の消費する術だったら、しばらくは残るらしいが。


眉間に皺が寄るのを感じながら、俺はペンを走らせるのを止めた玲を見た。


「術式を解析したら、あれはあちらとこちらの世界を繋ぐ道になっていたわ」

「じゃあ俺達は帰ろうと思えば帰る事が出来るのか……?」

「帰れたわよーそりゃ。でも誰かが意図的に消しちゃったから、私達は自力で帰るしかないの」


指を組んで、顎を乗せながらいつものように目を細め、口元を歪ませて笑った。

その笑い方は酷くイラついていて、この現状を楽しもうとして、そしてその”誰か”を突き止めていてどうしてやろうかと考えている。

あの時もそうだった。

彼女は俺に、あのチンピラどもをどうにかしろと目で語っていた。

全員を縛り上げた後、タイミング良く来た警察はきっと彼女が呼んだものだろう。

そのあと別件で追っていた犯人と一致し、警察署から書状を貰い、また有名になる。

彼女はそれでイライラを解消したというのだろうか?

それは本人しか知らないし知る気もないが。


「残念だけど、私だけでは魔力不足でね……何か魔力を補うものを探し出してきてくれたら帰れるわよ」


そう言って彼女は深紅の色をした本のあるページを開いてこちらに見せながらそう言った。

描かれていたのは術式陣で、細部に亘るまでみっちり記載されている。

これがその帰れる唯一の手段なのだろうか。

それでもすぐに帰れる訳ではない。

浦島太郎のような事になるかもしれない。

最悪その術式すら発動できないまま、俺達はこの世界に閉じ込められるかもしれない。


「あなたなら簡単でしょう?だって羨ましいぐらい出来る人だもの」


だというのに彼女はこの現状を楽しみ、大いに前向きで、そして物凄く他人事だった。



補完のようで補完になってないっていう……。

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