07
『で、結局は本当に普通の拠点地だったと』
『冗談でもあんな事言わない方が身の為よ、フェルマー』
窓から姿を現し、問題ないと伝えてきたアディアに驚いて魔術を放ちそうになったのは言えなかった。
いざ入ってみれば新築なのかリフォームしたてなのか、中は綺麗に整頓され、シンプルにも家具が置いてあるぐらい。
バスとトイレは別、水道は通っているようだが、電気とガスはどうなってるのか分からなかった。
なんかそういう魔法道具でも使ってるんかね。
冷蔵庫みたいなものもあったし。
二階建ての拠点地を一通り見た後には既に夕焼け空が見えていた為、仕事は明日から。
そのため、近くにあった酒場で夕飯を取る事にした。
……というか、アレだ。
「どうして獣耳少女が私の元に来ない」
「知るか!」
「あ、あ、あんな耳とか尻尾とかふっさふさで抱き心地良さそうじゃない!」
「お前さ、会った時よりキャラ崩れてないか?」
「確かに」
「認めんのかい!……つかいきなりだな」
「初めての依頼で獣耳少女に会えますように」
「聞けよ」
その時、遠くの方で瓶が割れる音、床に何かが叩きつけられるような鈍い音がした。
一体何事かと、野次馬達が立ち上がってそっちに目を向け始める。
アディアも気になって立ち上がって見ていた。
どうせ野郎共の下らない喧嘩だろう。
「テメェ……!ふざけた事抜かしてんじゃねぇぞ!!」
「誰がふざけてるって!?アンタがやった事はあいつの威信が掛かってんだよ!!」
「あぁ!?おい、この女やっちまえ!!」
って女かよ。
随分と勝ち気な人ですこと。
……ここ皇帝のお膝元だよね。
ちょっとメインストリートから外れてるとはいえ、首都だしこういうのは酒場を経営する人にとって迷惑なんでない?
と思ったらオーナーらしき人はノリノリで女性を応援してた。
え?あー……実は嫌な客で、排除するのにうってつけだった~とかかも。
だったらあの人はどこかのギルド所属の方で、依頼として受けたからその嫌な客を挑発したとかかな。
こういう妄想とか好きだわー。
「おいレイ、あいつやばいぞ」
「そんなに心配なら助けに行けばいいじゃない」
「うえ?お、俺が?」
「何かダメな理由でもあるの?」
それから立ち上がったきり、あーだのうーだの唸り出したアディアに、何かあったと推測。
大方、街中で暴れたら半壊させたか、怪我人を出しちゃって止めに入るのも苦手になったとか。
もしそうなら、あの時私でもやっつける事ができたごろつきに絡まれてたっていうのもあり得そう。
そんな妄想もとい推測語りをやっていると、女性が段々押される状況になっていた。
人影の隙間から見えた獣耳が――って、ん?あ、アレは……!?
「どうした?」
「一分で決着させるわ」
「は?……えっと、いってらっしゃい?」
「いってくる」
呆然と見ているだけだったアディアを席に付かせ、一人群集の中に割り込んでいく。
微妙に魔力を使って掻き分け着いた先では、開けた空間で女性は果敢にも男五人と暴れていた。
『やっぱりあの人獣耳だわ……!』
『動機が不純すぎやしませんか』
『気にしたら負けよ』
ノースリーブの襟が付いた白色の上着は足元まで裾があり、ひらひらと舞わせながら身軽そうに動いていく。
頭頂部では耳がぴくぴくと動き、それが事前に相手の動きを察知しているようだった。
一人の男がこちらに気付くと、目標をあの女性から切り替えて向かってきた。
あっちじゃ敵わないから、仲間と見たこのひ弱そうな女をやっちまおうって考えかな。
あは、安直ー。
「うらぁぁぁ!――がぁっ!?」
下から急速に現れた闇の腕(魔力を込めれば結構怪力になる魔術)がアッパーするように男の顎にクリーンヒットした。
結構な一撃を喰らった男は白目を向いて背中から倒れ込む。
はい一人撃破。
「なんだ?テメェもあの仲間か?」
「げへへへ……結構イイ女じゃねぇか」
「アンタ!危ないから下がってな!!」
「余所見してんじゃねぇ、よっ!!」
「ちっ」
二手に別れた辺りで、女性がこちらの存在に気付いた。
こちらを見向きする程余裕はありそうだが、まぁこのまま暴れられちゃゆっくりご飯も食べられないんだし。
注文したすぐ後にこんな事になるんだから、迷惑だっつの。
「準備は良い――げふっ!」
「おいお前な――あぶっ!」
さっきと同じ手法でっていうのは少し物足りない為、足を引っ掛けて背中から倒れるように仕向ける。
二人とも背中を打って痛みに悶えてる間、最近よく使う機会の多い拘束魔術で蓑虫のようになってもらった。
続けて魔力でエアーガンを創造し、少し威力を強めて、女性に向かっていく男に放つ。
良い具合に当たって倒れ込んだ男を見た、もう一人の男がそこで初めて自分だけだという事に気付いた。
露出されていた肩を狙ったが、血は出てない筈だ。
エアーガンを男に向けながら近付き、確認すれば青くなってたから問題ないだろう。
「出ていきなさい」
「ご、ごごごごめんなさい!!い、今すぐ出ていきます!!」
仲間を見捨てるような事はせず、肩を負傷した男を支えるように出口へと向かっていく。
蓑虫状態の男達も解放し、気絶した男を連れて五人は酒場から出て行った。
乱闘が終われば、呆気なく席に戻っていく野次馬達をオーナーは引きとめ、片付けさせる。
常連だからこそ出来る事なんだろうけど。
創造させたエアーガンを霧散させ、片付ける事なく席へと戻れば、アディアが目を輝かせていた。
「やっぱレイはすごいな!」
「そりゃどうも」
「アンタ、レイって言うのか?」
「えぇ。あなたは?」
「私はミリア。ミリア・ローマコンさ」
いつの間にか近くにいたミリアは、そのまま流れるように同じ席に着いた。
『ついにキターーー!!この際成人女性でも良い!獣耳キターーー!!』
『珍しくテンション高いですね……』
フェルマーも珍しくドン引きしていた。
これでポーカーフェイスだというのだから驚きである。
「さっきはどうしてあんな事になったんだ?」
「実はアイツら、知り合いのギルドの奴だったんだけど」
「あぁ、それで。なにかやらかしたのね?」
「私じゃない!……いきなり怒鳴ってごめん」
「構わないわよ」
護送の依頼をやってたんだけど、依頼人が寝ている間にこっそりと運搬品を盗んだんだと。
それが金品だったが依頼人にバレて自棄酒して愚痴程度に零してたら、リーダーと知り合いのミリアはたまたま酒場にいて、つい聞こえてしまった言葉に反応して血が昇ってあんな乱闘になった、と。
まぁあれだよな、馬鹿だよな。
ミリアはミリアで沸点が低い。
美人さんなのに惜しいわー。
「ミリアはどこかのギルドに所属してないのか?」
「してない」
「じゃあウチに来ないか?お前強そうだし」
「えっ?」
『あ、なんかフラグ立った』
『天然タラシと勘違い、ですか』
『異種交配っていけんのかな』
『いけるのではないでしょうか』
アディアの交渉により、結果ミリアは我ら”銀瑠璃の遊星”に加入しました。
ひゃっほーいもふもふだー。
「ミリアは接近戦が得意なのか?」
「あぁ。大剣を使う」
「すごいな、俺は細剣だから尊敬するよ」
うふふあはは、と良い雰囲気の二人を見てたら、私の腹から甘い砂が逆戻りしてきそうだ。
『なんてことなの……私はぼっちになる運命らしいわ』
『御主人、私がいつまでもお傍におります故、お気を確かに!』
なんか虚しくなってきたわ。
そろそろ日付跨ぐんだけど、風呂入りたい寝たい。
え?フラグ?圧し折るよ?
だって空気読むとか、面倒だしそれで精神すり減らせるのは無駄だし。
「ほらお二人さん、帰るわよー」
一部修正しました。