06
「はぁっ!」
横薙ぎに振るった剣がブチウルフの体を真っ二つに斬りさく。
すぐさま他の敵に目標を決めて斬りに掛かっていくおかげで私の仕事は殆ど魔術で拘束させるぐらい。
正直ありがたいと言ってしまえばありがたい。
なんせ楽だからね。
五体いたブチウルフをものの数分で片付け終わり、素材を剥ぎ取っていくアディアに近付く。
「これでブチウルフの牙が二十九本、毛皮が十八枚って所か」
「合成に使うの?」
「それもあるけど、大半は売るかなぁ」
地方都市ベルルカから歩き始めて三日が過ぎた。
徒歩で早ければ四日で到着できるらしいのだが、どうにも魔物とのエンカウントを楽しんでる所為で五日は掛かりそうだ。
「なぁ、次から戦闘は任せて良いか?」
「どこか怪我したの?」
「うん、疲れた」
にへら、と笑いながら言っているが、全然疲れているように見えない。
まぁ存分にアディアの剣技は見せてもらったんだし、こっちもお返ししなきゃ悪いよな。
これでも共にギルドをやっていく仲間なんだし。
「良いわよ、後ろで休んでても」
「おう。お前の背中ぐらい守ってやるよ」
「それは結構な事で」
『前方から五体のブチウルフが向かってきます』
『了解』
右手に魔力を溜め込み、ブチウルフが見えてきた辺りで地面に向かって掌を押し付ける。
幾何学模様――紫色の術式陣が光を放ちながら広がる。
二メートル程の大きい黒い狗が二体、術式から飛び出して真っ先にブチウルフへと向かっていく。
あまりに大きな敵が現れた事に、ブチウルフ達は恐れをなして逃げ出した!
……やべ、やりすぎたなこりゃ。
戻ってきた二体の狗はそのまま消える事なく目の前で伏せをしていた。
「クゥン……」
「グルルル……」
「なぁ、そいつらに乗って首都まで行っちゃいけないのか?」
指を指されても全く反応を示さない狗二体。
生物の体を模していても、意志は薄いのだろうか。
ある程度の動き以外は私の命令どおりに動くだけだし。
「素材集まらなくてもいい?」
「やっぱ歩いて行くかー」
ぱん、と手を叩くと風にさらわれる砂のように消えていった。
五日目のたぶん三時のおやつぐらいの時に漸く辿り着いた首都の景色は遠目から見ても美しかった。
中心部から街の隅々まで流れるように行き渡る水と、白い建物が光を反射して輝いているように見える。
眩しいとは思ったが、まぁそのうち慣れるだろうと思って気にせず足を動かす。
アディアと共に人に聞きながら、”王の玉魔”クリスタル・パレス支部まで無事たどり着けた。
「なー名前どうするー?」
「何でも屋で良いんじゃないの?」
「適当にも程があるだろ!」
「シモネッタ」
「何それ下ネタみたいだから却下!」
「メクラチョンゴミムシ」
「名前にゴミとムシを入れない!よって却下!」
「ぬるぽ」
「ガッ――って何の話だよ!!」
おおツッコミすげー。
純粋に感激し、拍手を送っておいた。
「ゼェー……ゼェー……」
「お疲れ」
「お前が悪ノリするからだろ!」
「じゃあ”銀瑠璃の遊星”で」
「お、おぉ……まともなの出てきたな」
「けってーい」
「やっとか」
すぐさまギルド登録用紙とスタインの紹介状を受付嬢に渡す。
スタイン、疑ってごめんなさい。
「スタイン様のご紹介ですね。拠点地を作ることが可能ですが、いかが致しましょう?」
まあ家みたいなものだろう、ホームって読んでるし。
この土地で仕事をしていくんだったら宿屋で泊まるより作ってもらった方が良いだろう。
ふらふらと旅をするんなら、宿屋だけで良いと思うけれど。
「どうする?」
「なぁ……どうしよっか」
「作っておいても損はないですよ。この街は観光都市として有名ですし、皇帝様のお膝元ですし」
「だとよ」
「それに、若いお二人のこれからの生活にぴったりの街かと」
またか、またこの勘違いきたわこれ。
これも利用すべき材料なのかな、とりあえず一芝居売っておこ。
アディアの腕に絡めるように抱きついて、幸せそうな笑顔を貼り付ける。
「あら、何か付けてくださるの?」
「とても良い物件があるんですよ。ちょっと待っていてくださいね」
奥へと引っ込んでいったのを確認すると、アディアが慌てたように小声で話しかけてくる。
「(ちょっ、ちょっとどうしたんだよ?)」
「(ここで恋人の振りをしておけば何か良い事あるかもしれないじゃない)」
「(マジで言ってる?)」
「(言ってる)」
タイミングを読んだかのように颯爽と帰ってきた受付嬢の手には一枚のB5サイズよりもう少し小さい紙があった。
「お待たせしました。街の中心部から少しそれてはいるんですが、メインストリートの近くなので生活には不自由ないかと」
どうやら見取り図ではなく、その拠点地までの道のりが描かれた地図だったようだ。
その近くには食材屋、鍛冶、武器・防具屋、アイテム屋など色々な店舗が構えられている。
確かに生活には不自由ないけど、ここまで良いと何か裏がありそうだ。
「なんでこんな良い所なんだ?」
「あ、それはですね……」
お化けがいるのか、老朽化が進んでるのか。
結局受付嬢は行ってみれば分かります、とだけ言うとそれ以上何も言わなかった。
お金はいらないと言われたから、貸家でもローンを組んで払うものでもないらしい。
「見た目は他の家と変わらないみたいだけど」
「扉を開けると中にはびっしりとゴキ――」
「よし逝ってこい」
「ちょ、まっ!ごめんまじごめん冗談だから止めて!」
「十時間ぐらいお風呂に入った後なら抱きしめてあげるから」
「何それ複雑!」
『びっしりとは居ませんが、巨大なのが居――』
最後の馬鹿力を振り絞り、扉を一気に開けてアディアの背中を魔術で押し込んで閉める。
「そぉぉぉい!!」
「ぎゃぁぁぁーーーっ!!」
せめてもの、バ○サンぐらいは焚いといてやるよ。
こうして私は拠点地に仲間という生贄を捧げた。