03
雷が轟き、黒雲による嵐が視界を遮る中、目標はその下にいた。
リヴァイアサンは中国の龍のように細長く、そして海の中で自由に泳ぎまわっていた。
まるで私達の乗る船を歓迎するように。
この場合、潰す勢いだろうけど。
「親方!前方に嵐が見えます!おそらくリヴァイアサンかと」
男の指した先を見ていたスタインが頷く。
既に手にはあの斧がある。
「魔導砲の準備をしておけぇ!!てめぇら!奴と戦闘を始めるぞ!!」
声を大きく張り上げて指示を的確に出していく姿は、またしても迫力のある存在へと変えていく。
これで見た目中年ですが二十代ですとか言われたら衝撃的だわ。
魔導砲と呼ばれたものが次に次に甲板に現れる。
主砲部分も準備完了、という声がすると、所々で続くように声が上がった。
「おぅ、てめぇは後ろで援護を頼む」
「弱点は?」
「さぁな。てめぇで考えやがれ」
さっさと船首部分へと歩いていってしまった。
次第に船は波によって横へ大きく揺れ出し、いよいよリヴァイアサンの目の前へと迫ってきている事が分かる。
『フェルマー、私の体を床と固定する事って可能?』
『私をなんだと思っていますか?』
『本』
『えっ?いや、私はですね、』
「おい嬢ちゃん!ぼけっと突っ立ってんじゃねぇ!邪魔だよ!!」
「あら、ごめんなさい」
『足の固定と周囲を見ておいてね』
『調整はなさらなくてよろしいのですか?』
『あなたの力を借りたら意味ないでしょ』
こちらに気付いたリヴァイアサンが、右舷側から船体に突撃してくる。
大きく傾く中、スタインの部下たちが海に落ちるのを阻止すべく、術を発動させる。
スライムのような球体で、敵を閉じ込めたり衝撃緩和を目的にした術だが、魔力で範囲を大きくした為、全員落とさずに済んだ。
意外と範囲広かったのだけど、疲れはないわね。
一応無属性として発動はしているんだけど。
弾力によって弾かれたメンバーは驚きを隠せずにいたが、リヴァイアサンの尾が迫っている事に気付くとすぐに準備へ動く。
魔導砲がリヴァイアサンの胴を攻撃するたびに術式が浮かび上がってくる。
様々な色の術式が浮かび上がっても、穴を開けるような破壊力はなさそうだった。
それほどまで、リヴァイアサンの体は堅いようだ。
一方、船首部分ではスタインがリヴァイアサンの顔に向けて攻撃していた。
喰らいつこうとするリヴァイアサンに対し、スタインはあのでかい斧を片手で器用に扱い、痛手を与えていく。
船首部分に乗り掛かるように、腕でがっちり掴んでいるリヴァイアサンの体を船伝いに拘束する魔術を発動させる。
無論、こちらも無属性として。
巨体の所為で全身を拘束する事は叶わなかったが、スタインにとっては好機だったようだ。
遠目からでも分かるように、リヴァイアサンの左目に斧が大怪我を負わせた。
青い血を噴き出しながら海の中へ逃げ込んでいく。
それでやられるならとっくに討伐できているだろうけど。
さすがに出てきてもらわないと攻撃が出来ない。
メンバー共々、嵐の中リヴァイアサンの登場を待つ。
雷の轟きだけが静寂を切り裂く中、誰かが叫んだ。
「来たぞー!後ろだー!!」
殆どのメンバーが船首へと移動していた所為で船尾にいたのは私だけだった。
固定を解除してもらい後ろを振り向くと、リヴァイアサンは船首の時同様、腕を使って乗り掛かっていた。
「!」
大口を開け、右目だけの睨みでも迫力は凄まじい。
死なないように精一杯の結界を張り、遠ざけるべく爆発の術を使おうとした時だった。
『スーシャは喰らえぬ。お前を喰わせろ!』
口から魚の腐ったような臭いが周囲に蔓延る。
さすがに臭いまでは遮ってくれないらしい。
某最後の物語でもある臭い息ってステータス異常技だから、臭いも遮った方が良いかも。
『この方をディレンタ様と知っての狼藉か』
フェルマーが例の黒髪美青年の姿で私の前に現れる。
半透明なのが気に掛かる所だけど。
相変わらず羨ましい限りの美貌で……ってそんな事今は考えてる暇ないか。
『あぁ知ってるとも!ディレンタさえ喰らわば我が治世が始まるのだ!!』
……はいはいとんだ中二病ですこと。
ちなみに現実ではリヴァイアサンが咆哮をあげているようにしか聞こえない。
フェルマーと念話で話すように、頭に直接響いている感覚だった。
『フェルマー、もう良いわ』
目を瞑り逃げ出さない玲に、リヴァイアサンが勝ち誇る笑みを浮かべる。
スタインは喰われそうな玲に逃げろと叫びながら近付くが、荒波の所為で中々進めない事にイライラしていた。
半透明状だったフェルマーは既にいなくなっていた。
リヴァイアサンがゆっくりと玲の前までやってくると、口を大きく開け、そして。
「喋ってる暇があるのなら、さっさと食べれば良かったのよ」
大きく開ける口を閉ざすように、一本の黒い槍が雷を纏って突き刺さった。
その一本が合図だと言わんばかりに複数の槍が次々とリヴァイアサンの体を貫通させていく。
あまりの痛みに声を張りあげようにも槍が突き刺さっている所為であげられないもどかしさを感じながら、リヴァイアサンは船から離れ、その巨体を海面へと打ちつけた。
徐々に海中へと身を沈めるリヴァイアサンが見えなくなると、後ろから歓喜の声が上がった。