01
諦めだけは特技に近い所為で彼女は今この状況にももう慣れていた。
しかし幼馴染と一緒に居ても飽きないと思ってしまった自分を無償に殴りたくなった。
普段幼馴染と帰る事はない。
こちらが徒歩で学校に行くのに対し、向こうは自転車で通学、という理由もある。
幼馴染と言っても、お互いの両親が仲が良いだとか、そういうので小学生の時まで家族ぐるみでよく遊んでいただけだ。
中学生になってからはお互い喋る回数も減っていった。
幼馴染とはいえ所詮は思春期盛りの子どもだ。
高校三年生ともなればめっきり話す機会はなくなった。
だがそれは学校での話で、意外にも学校から帰れば普通に話し出す。
そしてたまには共に帰る仲だった。
段々自分が幼馴染のトラブルに巻き込まれてきたと実感してきたのは小学校高学年辺りだった。
そしてそれが嫌がらせ、その他諸々よくありそうな感じのトラブルだと知るのは中学に上がってからだ。
ネット環境が揃う事になった自分は嬉しくて仕方なくて日々ネットサーフィン。
そこで知ったのは、どこか親近感が沸くもので。
しばらく経った後に「あれ、これ私とアレ(幼馴染)じゃ…?」と気付き出す。
幼馴染がイケメンで頭やら運動神経も良いと来れば、後は王道的展開である。
小学校高学年辺りからモテ始めた彼は誰とも付き合うでもなく、だが女の子達との親密な交流も忘れない。
こいつはガキの頃からハーレムを作るような人物であった。
ミーハーかなんかだろうと思われる人物もいたが、それ以上に幼馴染自身が一人一人と向き合っていたのが原因だと思われる。
しかし一見では優男のような、いつでも柔らかな笑みを浮かべているが、性格はなんともいい難い。
時にはこちらが火の粉が降りかかろうが、ヤツは高みの見物と言わんばかりに裏で愉しんでいる人間なのだ。
反対に、怪我を負わんばかりの被害が私に降りかかりそうになればヤツは止めに入ってくる。
随分と長い幼馴染の紹介ではあったが、平穏な私の学生生活を脅かしてくれたのはこいつが原因だ。
今回は随分とまたでかい面倒事をぶら下げて、いらんテンプレも付けてくれるとか、異世界に強制連行されるとかそういう特典は迷惑なんで、本当にいらないです。
「待て玲、お前だけ逃れるつもりか!裏切り者め!」
「何が裏切り者よ。その、変な幾何学模様に大人しく吸い込まれて野垂れ死になさいっ!」
教室の扉を必死になって掴む玲は今、幾何学模様に吸い込まれかけている幼馴染に捕まっていた。
男女の差ではあるが人間危機が迫ればそれなりに力も出る。
所謂火事場の馬鹿力。
しかし同じく危機に瀕する幼馴染もまた、馬鹿力を発揮していた。
およそ玲の倍の馬鹿力ではあったが、徐々に自分の足半分が沈んだ時、遂に玲の手が扉から離れた。
「こうなったら道連れにしてやるぞ、我が幼馴染よ…!!」
「ここで厨二発言する君はどうやら余裕らしいわね。私の事は気にしないで、一人旅でも楽しんでらっしゃい」
とは言うが、実際扉から手が離れた時点で玲は諦めていた。
そしてこの台詞がこの世で最後の台詞となり、彼ら2人の声を聞いた者はいなかった。