18-歓迎祭~激闘編②~
歓迎祭2日目である。
いよいよ今日は俺の唯一参加するクイズ大会がある日だ。
このクイズ大会だが、参加するのにチームを作らなくてはならない。4人で一つのチームだ。それで、チームのメンバーだが、俺と祐司と彼女とあと一人がいる。
決して、あと一人を蔑ろにしているわけでも、名前を覚えていないわけでもない。ただ、俺達の交友関係からは外れている人物であるだけだ。
古瀬村 唯香という名前である。古瀬村がどんな為人をしているのかはいまいちよく知らないが、知っていることが少しだけある。
まず、成績が非常に優秀であること。なんでも、この前のテストでは順位が一桁だったとか。後、知っていることは物静かであること。教室なんかでもいつも本を読んでいる姿を見る。典型的な成績優秀者タイプだ。しかし、メガネはかけていない。かなりどうでもいいけどな。
だが、俺には古瀬村をチームに入れた祐司の考えが読めない。確かに成績は良いだろうが、クイズには成績はあまり関係がない。要は物事をより多く知っているか否か、だけだからだ。わざわざ、あまり親しくない人を入れることでチーム内の結束というか、何かに影響を及ぼす可能性も出てくる。
何故だ?
「それには特に理由はない。」
「何を言っているんだ?」
遂におかしくなったか?理由がないのに、あまり仲のよろしくない人を入れるのか?そこまで考えられなくなってきたのか。
「違う。この人選だけは俺がほとんど関与していない。古瀬村が自分から入りたいと言ってきたんだ。俺としては断る理由がなかったからメンバーに加えただけだ。」
そう言われちゃしょうがない。
それにしても、おとなしそうに見えるんだが、実はクイズが好きなのかな?
俺がクラスメイトの新たな一面を知ったことに何とも言えない気持ちになった。別に嬉しくもないし、何かの役に立つとも思えない。かといって、デメリットがあるわけでもないので。
そんなことを考えている内に一回戦の時間になったようだ。
「はい。じゃあ、これからクイズ大会一回戦を始めましょう~。」
このクイズ大会だが、学年ごとに行われるものだ。学年には10クラスしかない。そこで、一回戦目では、10クラス中5クラスだけが勝ちあがって二回戦に進む。そして、二回戦目では5クラス中3クラスのみが三回戦目、つまり決勝戦に進める。
勝負方法は、一回戦目と二回戦目は同じで、5問先取したクラスから勝ち上がる。三回戦目だけは、早押しクイズになるが。
クイズの内容だが、一戦ごとに何らかのテーマがあり、そこに準拠した問題が出される。それをチーム内で相談したりして、解答する。それが、このクイズ大会の流れだ。
「今回の勝負でのテーマは・・・社会。社会です。それでは、始めていきましょう。」
司会の言葉で、盛り上がる会場。
それにしても、社会か・・・。このクイズ大会はテーマを決めるといっても、結構抽象的らしいからな。僅かにでも掠っていたら出題されるらしいし、気をつけなくては。
「第一問。これは簡単ですね。『国際法の父と呼ばれたのは誰か?』最初だから簡単なのでしょう。一分間解答時間を差し上げます。」
最初だから簡単だな。祐司とかはわかったかな。
「どうだ?わかりそうか?」
「いや、知らん。」
「これはちょっと・・・。」
思いのほか、チームメイトは役に立たないようだ。仲間の助力を得られないのは少々痛いが、やれないことはないし、多分大丈夫だろう。
と、俺は思っていたのだが、最後の一人がかなりの戦力だった。
「これ、グロティウスですよね?」
「お、知ってたか。誰も知らなかったらどうしようか、と思ってた。」
流石は優等生か。思ってた以上に戦力になりそうなのは嬉しい誤算だな。
「これぐらいは基本知識ですから。」
古瀬村は薄く微笑む。
良かった。チームで参加するのに、俺一人だけだったらどうしようかな、と本気で思ってしまった。それが覆っただけでもありがたい。
「はーい。解答時間は終了です。皆さん、答えは出ましたか?それでは、答えの発表です。正解は『グロティウス』です。」
それと共に、各々の解答が係の人間に集計されていく。周りを見ると、正解と不正解が半々だ。一年にはちょっとばかし難しかったかもな。
「続きましては二問目。『京都議定書を日本が批准したのは何年でしょうか?』これはちょっと難しいですね。」
確かに。京都議定書自体の発行がいつかわかる奴はそこそこいるだろうが、批准が何年かはわからない奴は多いだろう。
「一応聞くが、これわかるか?」
「勿論知らん。」
「・・・右に同じ。」
「やっぱりか。」
わかっていただけに、落胆はしない。これを知っている奴はかなりの猛者だ。おそらく決勝に駒を進められるレベルと見て、間違いないだろう。
「すみません。これはわかりません。」
古瀬村もお手上げのようだ。
まあ、俺は知っているがな。俺はコソコソと誰にも見えないように、配られているボードに答えを書き込む。
「解答時間は終了です。答えは『2002年』です。」
悔しそうに項垂れているのがたくさんいる。だが、2チームだけ正答している。俺を含めて3チームがこの問題を正解したようだ。
おそらく、こいつらが決勝で戦う相手だろう。
その後も俺は正解を続け、無事に一回戦は突破できた。
「次は二回戦か・・・。ハル頼んだぜ。」
祐司は清々しいほど爽やかに、俺に押し付けてきた。
「お前がやりたいって言ってきたのに、何の役にも立たないのは一体どういうつもりだ?全部俺か古瀬村任せじゃねえか!」
「まあまあ。落ち着いて。」
彼女が宥めてくるが、そんなんじゃ俺の怒りは収まらん。いつか目にもの見せてやる。精々その脆弱な人の体であることを悔やむがいい。くっくっく。
「ああ、ハルが怒りのあまり大魔王みたいなことを言い出した。こりゃもう駄目かもしれない。」
「悪の親玉みたいになっちゃった・・・。」
彼女は遠い目をして言う。
「ふふふ。」
そんな時だった。笑い声が聞こえてきたのは。
その主は誰かと言うと、古瀬村だった。
俺ら3人は驚きのあまり思考が停止する。
古瀬村は可笑しくてしょうがないといった体で、必死に笑いを噛み殺そうとしてるがまるでできていない。腹と口に手を当て、身を攀じるほどに笑っている。とは言っても、笑い過ぎて、笑い声がほとんど出ていなかったが。
とても珍しい光景だった。古瀬村と言えば、前述の通り寡黙で、大人しめの娘であるイメージが強かった。少なくとも、こんな風に笑い転げている姿など誰が想像できようか。
「いやはや、こいつは魂消たな。古瀬村のこんなレアな姿を見れるとは。」
未だ呆然としながらも、思わず口に出してしまった風な祐司。
「古瀬村さんってこんな人だったんだ・・・。」
彼女もそう零す。
祐司の呟きに思考が徐々に現実に戻ってくるのを感じながら、俺も思わず呟く。
「そんな顔も出来るんじゃねえか。」
俺達が呆然と見つめていることに気付いたのだろうか、必死に笑いを堪えようとする古瀬村。
涙を拭いながら、
「失礼ですね。私だって人間です。そんな可笑しな会話を聞かされたら笑わずにはいられません。」
と古瀬村は言っているが、それでも顔は笑ったままである。
そんな感じで、意外な切り口から古瀬村と仲良くなった俺達であった。
で、遂にやってきた決勝戦である。
因みに二回戦目はストレートに勝ち上がった。
2回戦目飛ばしてすみません。何かクイズが思ったように出来なかったので、こんなショボイ感じになりました。
次回は決勝戦で、歓迎祭編の最終話になる予定です。次回のクイズはちゃんと全問つくっていあります。次回こそはしっかりとクイズを出していきます。
ですが、あまり期待せず待っていてください。