13-お悩み相談は一口1000円から
タイトルをいつも一味違うものにしようと頑張っているのですが、なかなか上手いこといきません。修業が必要なんですかね。山籠もりでもすればいいのでしょうか。
病院の帰り道、俺は彼女に例の事件の詳細を教えてくれと頼まれていた。
「ねえ、瀬野さんと関わった事件ってどんな事件だったの?」
「語るも恐ろしい、とても忌まわしく危険に満ちた事件だった。とても俺の口からは語ることができない。残念だ。」
俺は素気無く断る。実際大した事件でもなかった。ちょっとした日常の延長線上みたいなものだったからな。わざわざ言うほどものでもない。
ところが、彼女にとってはそうではなかったらしい。
「教えてってば。いいじゃん、減るものでもないんだし。」
「確かに減るものではない。だが、わざわざ言うほどの事件でもなかった。だから言わない。」
「何でそんなに秘密にしようとするの。・・・もしかして言わないんじゃなくて、言えないんじゃないの?」
「言わないんだよ。」
「心の中に何かやましいものがあるからじゃない?」
いい加減彼女の勘繰りがあさっての方向にいきそうだったので、俺は根負けして話すことを決めたのだった。
「わかった、話すから。けど聞いてからガッカリするとか無しだぞ。本当につまらない話だからな。変な期待してるとマジでがっくりするからな。」
俺は一応注意しておく。ここはアメリカ社会ではないから、説明をしっかりしてないからといって裁判で負けて多額の慰謝料を取られることはない。だが念には念を入れてだ。み〇みけのごとく過度な期待はお断りなのである。
「そう、あれは中三の夏のことだったかな?いや春のことだったかもしれない。もしかしたら秋のことだったかも・・・。」
「いいからさっさと話しなさい。」
駄目だったか。ソウ〇イーターのエク〇カリバーのようにウザく始めてみようと思ったんだが・・・。
「あれは中三の時だった・・・・
◇
当時俺達は中学でも一、二を争うほどの問題児集団だった。自分で言うのもなんだが、確かに問題児ではあった。職員室に呼び出された回数は最早覚えきれないほどだったし、反省文を書かされた回数も同じく、といった感じだった。
その頃のことである。俺達は一応生徒会長である瀬野と同じクラスだった。まあ、同じクラスとはいっても会話なんてほとんどなかったし、向こうからしてもただの問題児集団としか見ていなかっただろうな。
ところがだ、事態がここで急変するんだな。具体的な日にちなんてのはもう覚えてはいないが、瀬野が俺達に話しかけてきた。それ自体は別段特筆すべきことじゃない。問題はその内容だった。
何?もったいぶらずにさっさと言えだと?今から話すから待ってろ。
◇
「君達四人に相談があるのだが・・・。」
俺は少し驚く。それは他の3人も同じだっただろう。瀬野はいつも生徒会長らしくハキハキしている奴だった。だがこのときの瀬野は珍しく歯切れ悪く話しかけてきたのだ。しかも俺達にだ。
「何だ?俺達はお悩み相談はやってないぞ。」
祐司が代表して返答する。
「そんなことはわかってる。けど君たちくらいしか解決する手段を持っている人はいないんだ。話だけでも聞いてはくれないか?」
「まあ、俺達で良ければ、だが。」
「すまない。では後で生徒会室に来てくれないか?」
「いいぜ。」
瀬野はその返事に安心したのか、あからさまにほっとした顔をして自分の席へと戻って行った。逆に微妙な顔をしているのは俺達だった。
あの瀬野が問題児である俺達に相談するようなことがあるとは到底思えない。だが、瀬野の顔はかなり深刻そうだった。一体どんな悩み事、あるいは問題があるのかさっぱり想像もつかない。アイツは所謂万能生徒会長と呼ばれるほどの才媛だ。果たして俺達にそれを解決できるのか・・・?基本的に壊し屋とか愉快犯とか言われているからな。どう考えても適任とは思えない。
そんな考えが表情に出ていたのか、祐司が話しかけてきた。
「どうした、ハル。やっぱりお前も何が何だか良く分からないって顔してるぞ。俺も良く分からないが。ただ、一つだけ心当たりがないでもない。おそらくそのことだとは思うんだが・・・。まだ確信を持ててないんだよ、俺も。」
それだけ言うと祐司は次の授業の準備を始めた。
俺達もその動きを見て、思い出したかのように準備を始めるのであった。
その日の放課後のことである。俺達は瀬野に呼び出された生徒会室に足を踏み入れた。よく考えてみると、俺は生徒会室に呼び出されたことがほとんどないことを思い出した。忍び込んだことは何回かあるが・・・。改めてしっかりと見渡してみる。意外と新鮮な気持ちだ。
「それで俺達をここに呼び出した目的を教えてもらおうじゃないか。」
祐司の言葉に俺は現実へと舞い戻った。
「そうだな。これから話すことは出来る限り他言無用にしてほしい。機密保持の関係とかプライバシーの問題とか色々あるのでね。だからこそ、こんな場所を選んだのだ。今日は私と君たち以外誰もここには来ないからな。」
「前置きはいい。さっさと本題に入ってくれ。」
気が付くと祐司と瀬野の対決っぽい感じになっている。なんか俺を含めた3人は蚊帳の外だ。手持無沙汰になった俺達は欠伸をしたり、壁に寄りかかって目を閉じたりしてる。フリーダムだ。
「そう焦らないでくれ。まず確認したいのだが、中谷君、君は例の噂について何かしら知っているんじゃないか?」
「まあな。やっぱりか・・・。」
「例の噂ってなんだ?」
ここでまさかの颯による空気の読めてない発言が来た。二〇ニコ動画だったら画面いっぱいにキター!って字幕が入るレベルだぞ、これは。颯恐ろしい子・・・。こんなもん話が終わってから聞けばいいじゃねえかよ。今聞くとか話の腰を折る気満々だろ。
「おや?知っているのは中谷君だけなのかな?まあ、それも含めて君たちをここに呼び出したからな。その質問は全くもって当然のことだな。それじゃ説明しようか。」
ここで一旦咳払いをすると、説明を続けるのだった。
「まずは噂についてだが、君たちは最近生徒会で裏帳簿が作られているという噂を聞いたことがないか?今回の相談は主にそのことについてなんだが。」
「俺はないな。」
颯は即答だった。
「ふむ。それに近い噂は聞いたことがあるかもしれないな。生徒会がリベートを受け取っているだとかなんとか。そんなことは部活でも一部の人間が話していた、と思う。確か。」
やや自信なさげに大貴は言う。
一方俺は全く聞いたことがない。部活も特にやってないし、知り合いもそんなに多い訳でもないからな。情報収集能力が低いな。こんなんではこれからの情報社会を生きていくのは困難かもしれない。まいったな。
「俺は聞いたことがない。」
俺はそう答えざるを得なかった。
「そうか。まだそんなに広まっているわけではなさそうだ。で、ここからが本題だ。君達にはこの噂の真偽を私と協力して調べてもらいたい。頼めるか?」
「どういうことだ、そりゃ。何で生徒会についての噂なのに生徒会長であるお前がその真偽を確かめなくちゃならんのだ。」
俺は思わずそう答えていた。至極もっともな意見だと自分では思う。だっておかしいだろ。生徒会に関することなのに生徒会長が知らないとか笑い話ですか?って言ってるようなもんだろ。
だが、瀬野の顔を見る限り、笑い話ではあるが笑い話ではないようだ。ややこしいな、これ。
「それは完全に私の力量不足としか言いようがないな。はっ。思う存分笑ってくれ。私は身に覚えもない噂をたてられるような無能会長だと。」
「まあまあ、そんなに自虐的になるなよ。結局どういう状態なんだ?」
上手いな。こうやって傷心の女の子を慰めてムフフな展開に持ち込むのか。参考になった。流石は祐司だよ。
「そんなこと考えてないから。」
あれ?口に出してたかな。まあいいや。
「つまり、私は特に噂になるようなことはしていない。けれど、ある日のことだ。生徒会には裏帳簿があるなどという噂を私は耳にしてしまったのだ。勿論初めはそんな馬鹿な、と思ったさ。だけれど、火のないところには煙は立たないと言うだろう?急に心配になった私は色々調べてみたのだ。すると、証拠はまだ見つかってはいないが、どうも本当らしいのだ。これはマズイと思った私は君たちに協力してもらおうと相談を持ちかけた。これが真相さ。」
「話はわかったが、何故俺達なんだ?他にも協力してくれる奴なんてたくさんいるだろ。」
しかし、俺の言葉に首を振る瀬野。
「この件は非常にデリケートなんだ。明るみに出れば私だけじゃない、多くの人に迷惑がかかる。もしかしたら教師や親まで何らかの影響が及ぶかもしれない。故に、条件として口が堅いことと調査能力がずば抜けていることの二つが上がるんだ。そしてこの二つを同時に満たすような存在は君たち以外に思い浮かばなかった。だからだよ。」
「まあそうなるだろうな。任せとけ。調査能力がそんなに高いかどうかは疑問だが口は堅いぜ。とは言っても、明確な証拠を見つけられるかはわからないがな。」
祐司の言葉に瀬野の表情は若干和らいだ。
「それじゃあ明日から調査していくぜ。野郎ども、お前らの本気見せてみろ。」
「そうか。よろしく頼む。」
何に影響されたのか良く分からない祐司の言葉の後、俺達はその問題について調べることとなったのである。
何か思いのほか長くなりました。そのせいで分けることに・・・。ホントは分けなくても良かったのですが、一話の分量をどうしても短めにしようと無意識のうちにやらかしてしまうようなのでこのような結果に。
次回は解決編?ですかね。