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12-『運転手さん、前の車を追ってください』って一度は言ってみたい

 今回の話の内容とタイトルはあまり関係がありません。ただ、こうしたかったからです。反省も後悔もありません。

 歓迎祭が間近に迫るとある日の帰りである。俺はとても珍しいものを見ていたのだった。

「ねえ、あれ中谷君じゃない?」

「ああ。最近何かこそこそやっているとは思っていたが・・・。どうにも怪しいな。後をつけてみようぜ。理由がわかるはずだ。」

「悪趣味だってば。」

 そう言いながらも、彼女はノリノリだった・・・。

 俺達は祐司の後をつけながら、最近の祐司の不審な行動に思いを巡らせていた。


 この間のしりとりの時も不自然であった。暇つぶしであるなら、別のゲームもたくさんあるのだから、そっちをやればいいだけの話だ。もしかしたら・・・。

 と、ここまで考えてから、現在の祐司の様子について考察してみる。

 祐司は現在異様にコソコソしながら、花を買い、歩いている。俺達が最初目にしたのは、花屋で花を買う祐司の姿であった。俺があまりの驚愕に言葉を失ってもなんら不自然ではない。祐司は今、まるで警戒していない。買うまではきょろきょろしていたのにな。どうやら、俺達には全く気が付いていないようだ。何処へ向かっているのか良く分からないまま俺達もついていく。


 二十分程歩いただろうか。俺達は、ある建物の前に辿り着いた。その建物とは病院であった。

「中谷君何でこんなところに用事があったんだろう。誰か家族が入院してるの?」

「いや、祐司の家族は全員健康体だったはずだ。少なくとも、誰一人入院はしていない。」

 しかし、俺も疑問を隠せない。俺と祐司の共通の知り合いで入院してるなんて聞いたことがない。それに、親戚や友人、知り合いならこそこそする必要がない。

 やがて、俺は一つの結論に辿り着いた。

「女だな。」

「え~。それはないと思うよ。」

「いや、間違いない。花はお見舞い用だとしても、コソコソする必要がない。それなのにあんな挙動不審な行動をするってことは、バレたくないってことだろう。とすれば、結論は一つしかない。女だ!」

「そうなのかな?」

 彼女はまだ納得がいかないようだ。

「だが、こんなところで話していても仕方がない。突入して、ことの真相を掴じまおうぜ。」

 俺の提案に彼女が頷いたのを確認して、俺達は病院に足を踏み入れたのだった。





  ◇





「で、つまり追いかけてきたと・・・。」

 祐司は怒りを堪えているようで、口元がピクピクしている。

「勿論だとも。こんな面白そうなイベントは逃すわけにはいかない。ついでにお前の弱味も握れそうだったしな。」

「そうか・・・。」

 祐司は今にもブチギレそうに見える。

「まあまあ。中谷君も落ち着いて、ね。」

 病室の主から祐司は宥められた。 

 そんな様子を見ながらここまでの流れを、俺は祐司の無言の威圧に耐えながら思い出してみる。俺は気が弱いからこれだけで参ってしまいそうだけどな。

「それはないわ。」

 彼女から予想だにしないツッコミをいただいた。


 そんなことは置いといて、結局、祐司の後をつけると、祐司はある女性の病室に入っていくのが見えた。その人物を見たとき、俺は不覚にも驚いてしまった。

 祐司が会いに行った人物は意外にも俺も知っている人だったのである。俺達の中学三年の時のクラスメートであった。ついでに生徒会長でもあった。俺達と彼女には浅からぬ縁がある。

 縁についての具体的な内容は後回しにするとして、何考えてたっけ?ああ、そうだ。この現在祐司に圧力をかけられている状況になった原因となる行動を思い返していたんだった。

 俺は祐司が会いに行った人物を見て思わず叫んでしまったのだった。

「あんた入院してたのかよ!」

「病院では静かにね。」

 叫んだあと、病室の主に注意されてしまった。

「ハル君はどうやら中谷君についてきたようだね。おや?そちらの女性は一体どなたかな?」

「私ですか?私は片桐沙紀です。あの・・・あなたは?」

「失礼。申し訳ないね。名乗るのを忘れていたよ。私は瀬野 晴海(せの はるみ)だ。ハル君や中谷君たちと中三の時、同級生だった者さ。それと、現在は同じ高校の生徒だよ。」

「え?マジで?知らなかったぞ。」

「だろうね。君は自分の興味がないことは知ろうとはしないからね。だけど、薄情だと思わないか?私の方には君の悪名が轟いていて知っているのに、君は私がどこに進学したかも知らないなんて。」

「?ということは私のこと知ってたんですか?」

「そうだね。君を騙すつもりはなかったんだけど。気を悪くしたなら申し訳ない。ハル君の可愛い彼女さん。同じ学年なんだから敬語なんて使う必要はないよ。」

 彼女はからかわれて顔が真っ赤である。リンゴあるいはトマトのような顔色だ。でも赤りんごとトマトって色が違うな。それにトマトだって赤だけじゃなくて黄色もあるし。それを言ったらリンゴも青リンゴがあるもんな。そういえば、グミでリンゴ味と青リンゴ味が一緒に入ってたことがあったけど、あれはアリなんだろうか?最早訳がわからない。

 予想外の方向に脱線しかけた思考を現実に引き戻しながら尋ねる。

「そういえば、何で入院してるんだ?不治の病にでも罹ったか?世界の中心で何か叫んでくればいいんじゃないか?」

 すると、瀬野はため息をつきながら事の真相を教えてくれた。事の真相なんて言い方をしたら大げさに聞こえるが実際は大したことではない。要は何故入院しているか、と言うことである。ただ、大仰に言ってみたかっただけだ。

「やれやれ。そんなことあるはずがないだろう。ここが何病院かちゃんと確認したか?ここは整形外科病院だぞ。私は歓迎祭の練習中に怪我をしてな。膝の靭帯を損傷したらしい。まあ、私はスポーツをやっているわけではないから問題はそんなにないんだが、手術をしなくてはいけないらしい。だからこうして入院している、というわけさ。」

「へえ。それで手術はいつだ?」

「明日だ。というか、随分と軽く流すな。」

「そりゃあな。深刻ぶっても治るわけじゃないし。それよりも重要なのは、祐司がお見舞いに来ているという事実だ。知っているなら俺達に教えてくれても良さそうなのに、情報を隠蔽し尚且つ一人だけ隠れてコソコソとお見舞いに来ていることが腑に落ちなくてね。」


 そこでやっと、俺が祐司に睨まれている状況へと帰還することになった。おお怖い。これが蛇に睨まれた蛙ってやつか・・・。貴重な体験をどうもありがとう。

「礼はいらん。」

「え?問題にするのそこ!?」

 彼女は叫ぶ。

「病院では静かに。」

 瀬野に注意される。皆も病院では騒がないように気を付けよう。

「で?結局どういうことなんだ?予想は出来ているが・・・。」

「どうもこうもないさ。予想通りだよ。」

 瀬野は肩を竦める。

「ちょっと勝手に分かり合わないでよ。結局どういうことなの?」

「まあまあ。嫉妬はほどほどにね。で結局どういうことかって、つまり中谷君と私は君たちのような関係ってことさ。」

「嫉妬じゃない。」

 彼女は遂に拗ねてしまった。瀬野は悪かったなどと謝っているが、俺は全然別のことを考えていた。やっぱり強い個性は必要なんだろうか、と。この瀬野は女のくせに妙な口調で喋るからな。別に男女差別とかはどうでもいいが、このもったいぶった言い方はやめてほしいと思う。面倒くさいし。

 愚にもつかないことを考えている内に彼女も機嫌を直したらしく、瀬野に確認している。

「付き合ってるってこと?」

「That’s right.」

 じれったくなってきたので俺がそろそろ本題に入る。

「で、いつからだ?」

「二週間前ぐらいじゃないかな?」

 純粋に驚く。

「あれ?あの事件からじゃないんだ。意外だな。」

「あの事件って?」

「後で説明するから、今はちょっと静かにしてくれないか。」

 彼女は俺の返答が気に入らなかったらしく、頬を膨らませた。結構可愛かった。実際子供っぽいと思うけどな。現実でやってたら普通は引く。

「そうだよ。私からだけどね。こういうのは普通男性からだと思うんだけど、その考えはちょっと時代錯誤な気がするよ。」

「なるほど。馴れ初めなんて聞いても仕方ないから質問するが、この間の不自然なしりとりは時間つぶしだったってわけか?」

「そうだ。予定の時間より少しばかり早くてな。だから終了をある程度操作できる遊びにしたってわけさ。」

 謎は解けた。

 その後、祐司は聞いてもいないことを延々としゃべり始めた。惚気話なら余所でやってくれ、頼むから。聞く方にとっては苦痛以外の何物でもないんだよ。

 気が付いたら、大分日が傾いている。

 そういうわけで、非常に疲れる一日となったのだった。

 この話をいれるかどうか結構迷ったんですが、前回の微妙なラストと若干関わり合いがあるのでやっぱりいれることに決めたのです。


 ここで次回予告をさらっと行きたいと思います。

 次回の予定はもちろん瀬野さんと彼ら四人の関わった事件についてです。

 それではまた逢えることを願って。

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