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婚約破棄された悪役令嬢を救いに来た「氷の冷徹公爵」様、遅いです。貴方が素直になれるまで3年かかるそうですが、執事の俺なら1秒で彼女を笑顔にできるので、横から失礼して奪い去りますね

作者: 文月ナオ
掲載日:2026/01/08

 

「リィン・エル・レスタリア! 貴様との婚約は、今この時をもって破棄する!!」


 王立学園の卒業パーティーで、第一王子アレクセイの声が、広大なホールに響き渡る。


 指揮者のタクトが止まり、音楽が不協和音を残して途切れた。


 談笑していた貴族たちのさざめきが一瞬にして凍りつき、数百人の視線が、ホールの中央へと突き刺さる。


 そこに立っているのは、一人の少女だった。


 夜の闇を煮詰めたような、艶やかな黒髪。


 照明の光を吸い込んで、濡れたような光沢を放っているそれは、彼女が歩くたびに絹糸のように揺れる。


 瞳は、最高級のアメジストよりも深く、見る者を吸い込むような神秘的な紫。


 公爵令嬢、リィン・エル・レスタリア。

 この乙女ゲームにおける、最大の障壁にして、最強の悪役令嬢だ。


 今日の彼女は、漆黒のベルベットのドレスを纏っていた。


 他の令嬢たちがパステルカラーや花柄で自らを愛らしく飾る中、まるで喪服すら連想させるその深い黒は、彼女の白い肌を、背徳的なまでに際立たせている。


 細い首元には、王家から婚約の証として贈られた大粒のダイヤのネックレス。


 だが、その宝石の輝きすら、彼女自身の生まれ持った気高さの前には霞んで見えた。


 彼女は背筋をピンと伸ばし、黒いレースの扇子で口元を隠している。


 その姿は、どんな窮地にあっても損なわれることのない、圧倒的な威厳と美しさを放っていた。


 周囲からは、容赦ない罵声と嘲笑の囁きがさざ波のように広がっていく。


「見たか? ついに断罪だ」


「いい気味ね。いつも見下すような目で私たちを見ていた罰よ」


「氷の悪女め。王太子の婚約者という立場にあぐらをかいていたからだわ」


 誰もが彼女を「悪役」と呼んで石を投げる。

 王子に捨てられた哀れな女だと、嘲笑う。


 ――愚かな。


 お前たちには、何も見えていない。

 腐った眼球など、くり抜いてしまった方がいいのではないか?


 会場の隅、巨大な円柱の影に控えていた俺――リィン専属執事のロイドは、白手袋に包まれた手を背中で組みながら、氷のように冷たい視線で周囲を見渡した。


 表情筋一つ動かさない、完璧な「空気」としての佇まい。

 だが、その内側では、煮えたぎるような激情と、昏い歓喜が渦巻いていた。


 俺には見える。


 幼い頃から彼女に仕え、前世からの「最推し」として、彼女の瞬きひとつ、呼吸ひとつさえ見つめ続けてきた俺にはわかるのだ。


 扇子を持つ彼女の指先が、血が通わなくなるほど白くなっていることが。


 呼吸が浅く、ドレスの胸元が不規則に上下していることが。


 長く美しい睫毛が一度だけ、誰にも気づかれないほど、微かに震えたことが。


 彼女は傲慢などではない。

 ただ、不器用なだけだ。そして、弱い。


 感情を表に出すのが苦手で、厳格な公爵家と過酷な王妃教育によって「完璧」であることを強要され続け、弱音を吐く場所を奪われてしまっただけの、ただの18歳の女の子だ。


 その鉄壁の仮面の下で、彼女が今にも泣き出しそうな迷子の顔をしていることを、この会場で俺だけが知っている。


(……震えないでください、お嬢様。今はまだ、耐えて)


 俺は心の中で、愛しい主人に語りかける。


 ついに、この時が来た。

 ゲームシナリオ通りの断罪イベント。


 本来なら絶望の淵だが、俺にとっては待ちに待った「解放」の瞬間だ。

 こんな見る目のない王子になど、私の大切な主人は勿体ない。


 髪の毛一本すら触れさせたくない。


 捨てろ。


 さっさと捨ててしまえ。


 そうすれば、私が彼女を拾える。

 公爵家の鳥籠からも、王家の鎖からも解き放たれた彼女を、私が全て奪い去ってやる。


「……理由をお伺いしてもよろしいでしょうか、殿下」


 静寂を破った彼女の声は、凛としていた。

 だが、俺の耳には、その声に含まれた硝子細工のような脆さが痛いほど伝わってくる。


 震えを必死に押し殺し、公爵令嬢としての矜持だけで立っている。

 その健気さに、胸が締め付けられそうになる。


 ああ、今すぐに駆け寄って抱きしめたい。

 その耳を塞いでやりたい。

 こんな雑音など、貴女の清らかな耳に入れる価値もない。


「理由だと? とぼけるな! 数日前、学園の裏庭でルナリエの頬を叩いただろう! か弱い彼女に暴力を振るうなど、言語道断だ! 未来の国母となるべき者が、嫉妬に狂って手を出すなど、恥を知れ!」


 王子の隣には、このゲームのヒロインである男爵令嬢、ルナリエがしがみついている。


 豪奢な金髪を縦ロールにし、ピンク色のフリルたっぷりのドレスを着た彼女は、いかにも「守ってあげたい」オーラを全開にしていた。


 彼女は頬を抑え、大粒の涙を瞳に溜めて、震える演技をしている。


「こわかったですぅ……リィン様、急に鬼のような形相で……何もしていない私をぶってきてぇ……。私、殺されるかと思いましたぁ……」


 ……よくもまあ、ぬけぬけと。

 俺の脳裏に、数日前の光景が蘇る。


 あの日。学園の裏庭。

 ルナリエは、取り巻きを使って、地味な下級生の女子生徒をいじめていた。


 花壇用の水を頭からかけ、教科書を破り、「平民上がりが生意気なのよ」と嘲笑っていたのだ。


 そこに颯爽と現れたのが、リィンだった。

 彼女は躊躇なくルナリエの前に立ちふさがり、ずぶ濡れになった下級生を背に庇った。


 そして、反省の色も見せずにヘラヘラと笑うルナリエの頬を、パァン!と引っぱたいたのだ。


『恥を知りなさい! 立場の弱い者を虐げて笑うなど、貴族の……いいえ、人としての品位に欠けます!』


 あの時のリィンは、震えるほど美しく、かっこよかった。

 まさに俺の憧れる「高潔な悪役令嬢」そのものだった。


 ルナリエたちが逃げ去った後、残されたのはリィンと、ずぶ濡れで震える下級生。


 リィンは厳しい表情を崩し、懐から僕が手入れしたばかりの刺繍入りのハンカチを取り出して、優しく下級生に差し出したのだ。


 けれど。


『ひっ……! リィン様……!? ご、ごめんなさい! 私に関わらないで!』


 下級生はパニックになり、差し出されたリィンの手を強く払いのけて逃げてしまった。

「悪役令嬢」の悪名に怯えて。


 払われたハンカチが、土の上に落ちた。

 リィンは、赤くなった自分の手を呆然と見つめ、それから寂しそうに目を伏せた。


 怒ることも、咎めることもなかった。

 ただ、彼女は落ちたハンカチを拾い上げ、パンパンと丁寧に土を払った。


 そして、まだ近くで震えている下級生のために、そっとベンチの上に置いたのだ。


『……良かったら、使って』


 それだけ言い残して、彼女は静かに去っていった。

 その背中が、どれほど孤独だったか。


 誰にも理解されず、優しささえ拒絶される彼女の痛みが、俺には痛いほど伝わってきた。


 泥だらけになったハンカチを丁寧に払い、愛おしそうに撫でる彼女を、木陰から見ていた俺。


 あの時、俺の中で何かが切れる音がしたんだ。

 高貴な王子でも、最強の騎士でもない。


 彼女の涙を拭えるのは、泥にまみれることを厭わない「俺」みたいな人間だけなんじゃないか、と。


「聞いたか! この可憐なルナリエを傷つけるなど、王太子妃にあるまじき所業! 貴様のような性根の腐った女は、我が国の害毒だ! よって、国外追放処分とする! 衛兵! この女を捕らえよ!」


 王子の命令と共に、会場の端に控えていた衛兵たちが、ガチャガチャと鎧を鳴らしてリィンに向かってくる。


 リィンが、恐怖に強張った顔で一歩後ずさる。


 その肩が、小さく震えた。

 彼女の脳裏には、冷たい牢獄や、故郷を追われる絶望がよぎっているのだろう。


 ――させるか。


 俺の大切な主人の体に、薄汚い男どもの指一本触れさせるものか。


 もう十分だ。


 婚約破棄の言葉は吐いたな? もう後戻りはできないぞ、アレクセイ。


 俺は、懐中時計をパチンと閉じた。

 そして、音もなく影から踏み出し、リィンの前へと滑り出た。

 迫りくる衛兵の前に、白手袋の片手を掲げる。


 静かに、しかし会場の空気を絶対零度まで凍らせる声で、俺は告げた。


「――お下がりください」


 ただそれだけの一言。


 だが、それには絶対的な威圧感が込められていた。


 衛兵たちが、見えない壁にぶつかったかのように、たたらを踏んで立ち止まる。


「な、なんだ貴様は! たかが執事風情が、王命に逆らう気か!」


 王子が顔を真っ赤にして怒鳴る。


 俺は優雅に一礼した。


 完璧な角度、完璧な所作で。


 それは王族への敬意ではない。愛する主人への忠誠の証としての礼だ。


「お初にお目にかかります、殿下。リィン・エル・レスタリア公爵令嬢の専属執事、ロイドと申します」


 顔を上げる。


 執事の仮面を外し、その奥にある明確な「敵意」と「嘲笑」を、俺は王子に向けた。


「以後、お見知り置きを。……まあ、二度とお会いすることはないでしょうが」

 


「な、何を……」


 王子が困惑に眉を寄せる。


 無理もない。


 王族である彼に対し、平伏するどころか、冷ややかな瞳で見下ろす使用人など、ぬくぬくと温室で育った彼の人生には存在しなかったはずだ。


「私の主人に、薄汚い手で触れようとなさいましたね?」


「ロ……ロイド……?」


 不安そうな顔をするリィンを一瞥し、俺は一歩、前に出る。


 たった一歩。だが、その圧力が王子をたじろがせる。


「我が主は、そこらの安物とは訳が違います。事実確認もせず、貴方様の軽率な思い込みで傷をつけて良い方ではありません」


「え、冤罪だというのか? 何を根拠に……証拠はあるのだ! ルナリエの証言が!」


「証言、ですか。……ふっ」


 俺は鼻で笑った。

 明確な嘲笑だった。

 静まり返ったホールに、俺の失笑だけが冷たく響く。


「何がおかしい! 使用人風情が!」


「失礼。あまりに滑稽でしたので、つい。……殿下。貴方様の目は、飾りでございますか?」


「なっ!?」


 会場がざわめく。


 執事が、次期国王に対して「目は飾りか」と言い放ったのだ。


 通常なら不敬罪で即刻、その首が飛ぶ。

 だが、俺の纏う空気が、それを許さない。


 俺の背後には、まだ状況が飲み込めず震えているリィンがいる。


 彼女を守るためなら、俺は修羅にでも悪魔にでもなる。


 俺は懐から、一冊の薄い手帳を取り出した。

 革張りの、何の変哲もない手帳だ。

 だが、その中にはこの国の闇の一部が詰まっている。


「真実の宝石を捨てて、メッキの石ころを拾う。……男として、あまりに見る目がなさすぎる。嘆かわしいことです」


「き、貴様ぁ……!」


「ルナリエ男爵令嬢」


 俺は視線を王子から、その隣で震えるピンク色のドレスの女に移した。


 彼女は俺と目が合った瞬間、蛇に睨まれた蛙のようにビクリと肩を跳ねさせた。


 本能が告げているのだろう。


 目の前の執事が、ただの使用人ではないことを。


「貴女の演技は素晴らしい。女優になられたら、さぞ大成されたことでしょう。……ですが、舞台選びを間違えましたね」


 俺の目は笑っていない。

 冷たい瞳で、彼女を射抜く。


「そ、そんなことないですぅ……私は被害者で……リィン様に虐められてぇ……」


「被害者? ……では、これをお聞きになっても、同じことが言えますか?」


 俺は手帳に挟んでいた、小さな魔石を取り出した。

 最高品質の「録音魔石」だ。

 俺は指先で魔力を流し込む。


 キィン、という起動音の後。


 会場中に、ノイズ混じりの、しかし明瞭な音声が再生された。


『あはは! リィンを嵌めるのなんて簡単よ!』


 会場の空気が凍りついた。

 それは、紛れもないルナリエの声だった。


『そうよねぇルナリエ様! あの王子、頭空っぽだから、涙を流せばイチコロだもん!』


『チョロいチョロい! 「僕が守ってあげる」だって! 笑っちゃう!』


『これで私は次期王妃! あの堅物のリィンを追い出して、贅沢三昧よ~! 国民の税金でドレス買い占めちゃうもんね!』


 高笑い。

 学園の裏庭、誰もいないと思って彼女たちが大声で笑っていた時の会話だ。


 俺はずっと前から、彼女たちをマークしていた。


 散々プレイしたゲームで、彼女たちがリィンを陥れると分かっていたからだ。


 この日のために、気配を消して録音し、温めておいた「とっておき」だ。


 音声が止まる。

 シーン……と、会場が静まり返る。

 誰がどう聞いても、これは決定的な証拠だ。


 王子アレクセイの顔色が、赤から青へ、そして土気色へと変わっていく。


「頭空っぽ」「チョロい」。


 愛する女性からそう評されていた事実が、彼のプライドを粉々に砕いていく。


「こ、これは……!? 声が似ているだけの……ねつ造よ!」


 ルナリエが金切り声を上げる。

 顔面蒼白で、脂汗が分厚い化粧を溶かしている。


 可憐なヒロインの仮面が剥がれ落ち、醜い本性が露呈した瞬間だった。


「往生際が悪いですね。……では、こちらは?」


 俺はパチンと指を鳴らした。

 その合図と共に、ホールの扉が重々しく開いた。


 数名の衛兵に連れられて入ってきたのは、数人の令嬢たちだった。


 録音の中で一緒に笑っていた、ルナリエの取り巻きたちだ。


 彼女たちは青ざめ、ガタガタと震えながら、まるで死刑台に向かう囚人のように歩み出てきた。


 彼女たちとて、来たくて来たわけではない。


 俺が事前に「裏の手」を使って、彼女たちの家の横領や不正の証拠をちらつかせ、


「正直に話すなら、家ごとの破滅だけは見逃して差し上げましょう」と、優しく「お願い」しておいたのだ。


「ル、ルナリエ様が……全部計画しました……」


 先頭の一人が、泣きながら崩れ落ちた。


「私たちは、逆らえなくて……言う通りにしないと、実家に悪い噂を流すと脅されて……」


「ビンタの件も、ルナリエ様が下級生をいじめていて、それをリィン様が止めに入っただけです……! リィン様は、正しかったのです!」


 取り巻きたちの慟哭に近い自白。

 それが、トドメだった。


 会場の空気が一変する。


 今までリィンに向けられていた侮蔑の視線が、一斉にルナリエと王子へと反転する。


 疑惑、軽蔑、呆れ。


「なんてことだ」


「騙されていたのか」


「あの我儘令嬢が……」という囁きが、さざ波のように広がる。


「な、なんだこれは……ルナリエ、どういうことだ!? 君は、私を愛していると……!」


 王子が狼狽してルナリエを見る。

 縋るような目つきだ。


「ち、違うの! 信じてアレクセイ様! これは罠よ! この執事が仕組んだのよ!」


「罠? ……ええ、罠にはまったのは、殿下、貴方の方ですよ」


 俺は冷たく言い放つ。

 もう、敬語を使うのも馬鹿らしいほどに。


「婚約者であるリィンお嬢様を信じず、甘言を弄する女にうつつを抜かし、確認もせずに断罪を行う。……次期国王としての資質以前に、人として終わっている」


「き、貴様……不敬だぞ……! 衛兵、何をしている! こいつはリィンの使用人だ! 主であるリィンごと、この無礼者を斬り捨てろ!」


 王子が叫ぶが、衛兵たちは動かない。


 動けるはずがない。


 この場の「正義」がどちらにあるか、誰の目にも明らかだからだ。


「不敬? ええ、結構です。どうせ今日限りで辞めるつもりでしたから」


 俺は胸元のポケットから、リィンが夜なべして刺繍してくれた主従の証であるハンカチを取り出した。


 そして、わざとらしく丁寧に、自分の指先の埃を払う仕草をした。


 まるで、汚いものに触れてしまったかのように。


「リィンお嬢様がどれほど努力されていたか。どれほど国のために尽くしてきたか。一番近くにいた貴方が知ろうともしなかった。……貴方には、彼女の隣に立つ資格など、欠片もない」


 俺の言葉は、鋭利な刃物となって王子のちっぽけなプライドを切り裂いた。


 王子は言葉を失い、ただ口をパクパクとさせている。


 金魚の方がまだ愛嬌があるだろう。


 ルナリエはへたり込み、裏切られたと叫ぶ取り巻きたちに責め立てられている。

 まさに、地獄絵図だ。


 これで、リィンの無実は証明された。

 冤罪は晴れた。


 俺は振り返り、呆然と立ち尽くすリィンに視線を戻した。

 彼女の瞳には、涙が溢れていた。

 悔し涙ではない。安堵の涙だ。


「ロイド……貴方、いつの間にこんな準備を……」


 震える声で問いかける彼女に、俺は執事の仮面を脱ぎ捨て、一人の男としての顔で微笑んだ。


 甘く、優しく、愛おしさを込めて。


「お嬢様のためなら、地獄の底から悪魔の証言だって取ってきますよ」


 俺は彼女の手を取り、その冷たい指先にそっと唇を寄せた。

 甲へのキス。忠誠の証。


「さあ、帰りましょうか。こんな空気の悪い場所、お嬢様の美しい肌に障ります」


 全ては終わった。


 あとは彼女を連れて、この腐った会場を出るだけだ。

 俺たちが用意した、新しい人生へと。




 ――だが。

 物語は、そう簡単には終わらない。


 俺が一番警戒していた「ラスボス」。

 王子よりも厄介で、ルナリエよりもタチが悪い男が、まだ残っている。


 カツン、カツン……。


 重厚な軍靴の音が、ざわつくホールを切り裂いた。


 空気が変わる。


 先ほどまでの泥沼のような騒ぎとは違う、ピリリとした緊張感が背筋を走る。

 貴族たちが道を開け、最敬礼で頭を下げる。


 現れたのは、一人の男だった。


 月光のような銀髪。


 氷河のごとき冷徹な青い瞳。


 漆黒の軍礼装に身を包み、腰には国宝級の魔剣を帯びている。


 この国の騎士団長にして、王弟殿下のご子息。


「冷徹公爵」と恐れられる最強の騎士、アーケンバイン公爵だ。


 彼が現れた瞬間、リィンの肩が強張った。

 俺の手を握る彼女の力が、ギュッと強くなる。

 無理もない。


 彼はリィンの初恋の相手であり、原作における「彼女の本来のヒーロー」なのだから。


(……来たか)


 俺は目を細め、最強の騎士を睨みつけた。


 遅い。遅すぎる登場だ。

 だが、ここからが本当の戦いだ。


 俺は、リィンを誰にも渡さない。

 例え相手が、この国最強の公爵であろうとも。

 


 アーケンバイン公爵。


 この国の騎士団長にして、王弟殿下のご子息。

 泣く子も黙る「冷徹公爵」と恐れられる最強の騎士だ。


 公爵は、戦場のような惨状と化したホールを見渡し、全てを察したように静かに頷いた。


 そして、軍靴の音を響かせ、リィンの前に歩み寄ると、立ち止まった。


 その無表情な顔からは、感情が一切読み取れない。


 ただ、氷河のような冷たさが漂っているだけだ。


 周囲の貴族たちがゴクリと息を呑む。


「公爵様は、悪女をどう裁くおつもりだ?」という期待と恐怖の視線。


 だが、俺は知っている。


 彼は、リィンを助けに来たのだ。


 冤罪が晴れた今、傷ついた彼女を「保護」するという名目で、自分の屋敷に連れ帰るつもりだ。


 一見、ヒーローによる救済に見える。


 だが、俺は知っている。


 このアーケンバイン公爵、顔と剣の腕は国宝級だが、恋愛に関しては超がつくほどの「奥手」で「言葉足らず」で「ムッツリ」だ。


 彼はリィンを深く愛しているくせに、素直になれず

「君を保護する」

「これは政略的な判断だ」

「勘違いするな」

 などと、氷点下の言葉しかかけられない。


 そのせいでリィンは

「私は公爵家に利用されるだけなんだ」

「愛されていないんだ」と心を閉ざし、二人が心を通わせるまでには――なんと【3年】もの月日がかかる。


 その間、リィンはずっと屋敷の奥で、飼い殺しのように静かに過ごすことになる。


 愛する人の屋敷にいながら、愛されていないと思い込む地獄の日々。


 窓の外を眺め、ため息をつくだけの3年間。


(ふざけるな。3年だ? そんな長い間、この傷ついた彼女を氷漬けにしておく気か?)


 俺は、公爵を睨みつけた。

 今、リィンに必要なのは、安全な鳥籠じゃない。

 彼女を肯定し、愛し、心を溶かす「熱」だ。


『(……愚かな王子だ。だが、これで彼女はフリーになった。私が彼女を引き取り、守ろう。……愛しているなどと言えば、彼女を困らせるだけだ。今はただ、静かに……)』


 公爵の心の声が(ゲーム知識として)聞こえるようだ。


 公爵がリィンに一歩近づく。


 その口が開く。


「……君を一時的に預かる。……勘違いするな、これは王家への……」


 彼が言い切る前に、俺は、音もなく公爵とリィンの間に割って入った。


 そして、リィンの細い腰をぐいっと引き寄せ、俺の背中に隠した。


「――お断りします」


 俺の声が、公爵の声を遮った。


「……っ!?」


 公爵が目を丸くする。


 彼が言葉を遮られるなど、人生で初めての経験だったろう。


 会場中が息を呑んだ。

「あの冷徹公爵の前に立ちはだかった!?」と。


「な、なんだ君は。……そこをどけ。私は彼女を……」


「彼女をどうするおつもりで? 連れ帰り、屋敷の奥に閉じ込めて、『政略的な保護だ』とでも告げるおつもりですか?」


 公爵が息を呑んだ。

 図星をつかれた顔だ。


 彼の「騎士としての潔癖さ」と「不器用さ」が、そう言わせるつもりだったのだ。


「な、なぜそれを……。だが、今は彼女の安全が第一だ。我が公爵家で保護すれば、誰も手出しは……」


「保護? 安全? ……そんなもの、今の彼女は求めていませんよ」


 俺は公爵を真っ直ぐに見据えた。


 身長は彼の方が高い。魔力も剣技も彼の方が上だろう。


 だが、リィンを想う「覚悟」だけは、絶対に負けない。


「貴方のその『分かりにくい愛』は、今の傷ついた彼女には猛毒だ。貴方が素直になって、無駄なプライドを捨てて、彼女に『愛してる』と伝えるまで、何年かける気ですか? 1年? 2年? それとも3年か!?」


「それは……時間をかけて、信頼を築いてから……」


「そんな悠長なこと言ってる場合か!」


 俺は叫んだ。

 執事の丁寧語など、かなぐり捨てた。

 ただの一人の男として、恋敵に吠えた。


「見ろよ、彼女の手を! こんなに冷たくなってる! 彼女は今、この瞬間、泣きたいほど傷ついてるんだ! 全世界に否定されて、心が張り裂けそうになってるんだぞ!」


「……っ」


「3年後の雪解けなんて待ってられない! 今、温めなきゃ意味がないんだ! 愛してるなら、今すぐここで抱きしめて『愛してる』って言ってみせろよ! 『君を守る』って叫んでみせろよ!」


 公爵は唇を噛み、拳を握りしめた。


 言えないのだ。


 この場で、衆人環視の中で、愛を叫ぶことなど、彼の「公爵としての矜持」が、そして何より彼自身の不器用すぎる性格が許さない。


 彼は、そういう男だ。高潔だが、あまりにも不自由な男だ。


「……できないなら、引っ込んでてください」


 俺は公爵を睨みつけたまま、言い放った。


「俺なら――1秒後には彼女を笑顔にできる!」


 ドッ、と会場が揺れた気がした。

 背後のリィンが、息を呑む気配がした。


 俺はくるりと振り返り、リィンに向き直った。


 彼女の紫の瞳が、涙で潤み、揺れている。

 不安と、期待と、驚きがないまぜになった瞳。


 俺は彼女の目線に合わせ、その震える手を両手で包み込んだ。


 俺の体温を、全て彼女に注ぎ込むように。


「お嬢様。……いいえ、リィン」


 初めて名前を呼び捨てにした。

 彼女の瞳が大きく見開かれる。


「公爵家は、この騒動で貴女を勘当するでしょう。例え貴女に非がなくとも。必ずそうなります。貴女にはもう、帰る家も、身分もありません」


「……ええ。分かっているわ。私は、もう……」


「丁度いい」


 俺はニカッと笑った。

 悪戯を企む少年のように、大胆不敵に。


「これで貴女は自由だ。公爵令嬢でも、王子の婚約者でもない。ただのリィンだ」


「ロイド……?」


「俺が全部持ってます。金も、家も、貴女を幸せにする覚悟も。執事の給料、使わずに貯め込んでいました。実は結構な額があるんです。それに、俺の実家は没落したとはいえ、腐っても元貴族。隠し資産の一つや二つあります」


 俺は彼女の手を強く握りしめた。

 彼女の冷えた指先が、俺の熱で少しずつ温まっていくのを感じる。


「鳥籠はもういらない。……これからは、俺のただ一人の『お姫様』になっていただけませんか?」


 リィンの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。

 それは悲しみの涙ではなく、凍りついていた心が溶け出し、熱を持った証だった。


 彼女は泣き笑いのような顔で、俺の手を握り返した。


「……最後の命令よ、ロイド。……私を、連れて行って。ここじゃない、どこかへ」


「仰せのままに」


 俺はリィンの体を、軽々と抱き上げた。

 いわゆる、お姫様抱っこだ。


「きゃっ!?」


 リィンが可愛らしい悲鳴を上げて、俺の首に腕を回す。


 その顔は、既に真っ赤だ。


 可愛い。

 可愛すぎて、今すぐこの場でキスしたいくらいだ。


「さあ、行きますよ!」


 俺は堂々と正面玄関へと歩き出した。


 公爵が、王子が、貴族たちが、呆然として道を開ける。


 誰も俺たちを止められない。


「待て! 貴様、勝手な真似は……!」


 王子の怒鳴り声を背中で聞き流す。

 俺は入り口で立ち止まり、一度だけ振り返った。


「では、見る目のない皆様! この最高に可愛いお姫様は、俺が頂く!」


 宣言と共に、俺はホールを飛び出した。


 腕の中には、世界で一番大切な温もりがある。




 俺たちが目指したのは、馬車止めではない。


 人気のない中庭の影――そこに、俺があらかじめ仕込んでおいた魔法陣がある。


「出番だ。――来い、『影の愛馬シャドウ・ステッド』」


 俺が指を鳴らすと、地面の影が沸き立ち、一頭の漆黒の馬の形を成した。


 闇夜に溶けるような美しい毛並みに、青白く光る瞳。


 俺の魔力で具現化させた、疲れ知らずの使い魔だ。


「え、ええっ!? 影から馬が……!?」


「さあ、リィン。俺の背中にしっかり掴まって」


 俺はリィンを軽々と抱き上げ、影の馬の背に乗せると、自らも手綱を握った。


「速いですよ。風になりますから、振り落とされないようにギュッとしがみついていてください」


 リィンがおずおずと、俺の腰に手を回す。


 背中に感じる彼女の柔らかな感触と体温に、心臓が跳ね上がる。


 これなら、どんな名馬よりも速く、誰にも追いつけない。


「いざ――!」


 俺の掛け声と共に、影の馬は音もなく跳躍した。

 重力を無視し、夜空を駆けるように、王宮の高い塀をひとっ飛びにする。


「きゃああああっ!」


 リィンの可愛らしい悲鳴と共に、俺たちは星空の下、王都の夜の闇へと飛び込んだ。


 公爵も、王子も、ヒロインも。


 全員まとめて置いてけぼりだ。


 世界で一番大好きな人を連れて。

 3年なんて待たない。


 今夜、俺たちは世界で一番幸せになるんだ。




 ◇◆◇


 


 夜風が頬を撫でるのが気持ちいい。


 背中から伝わるロイドの体温と、力強い鼓動の音が、私の震えを止めてくれていた。


 流れる景色は煌びやかで、でもどこか現実味がなくて。


 ただ、耳元で聞こえる彼の「寒くないですか?」「もう少しですよ」という甘い声だけが、確かな現実として私を繋ぎ止めていた。


 どれくらい走っただろうか。


 ロイドが手綱を引き、馬の脚を緩めた。


「着きましたよ、リィン」


 ロイドが連れてきてくれたのは、王都の喧騒から離れた、静かな森のほとりに佇む一軒家だった。


 豪奢な屋敷ではない。


 けれど、レンガ造りの壁には温かみのあるランプが灯り、手入れされた庭には季節の花々が咲き乱れている。


 煙突からは細い煙が立ち上り、まるで絵本に出てくるような「隠れ家」そのものだった。


「ここは……?」


「俺がコツコツ準備していた、俺たちの城です」


 ロイドは私を抱き下ろすと、役目を終えた影の馬を霧のように消し去り、私をエスコートして中へ招き入れた。


 室内は、木の温もりに溢れていた。


 座り心地の良さそうな革のソファ、暖炉でパチパチと燃える火、そして部屋の隅々にまで行き届いた気配り。


 私の好きな若草色のクッション、私がいつか読みたいと言っていた稀覯本(きこうぼん)、そしてテーブルには――。


「……準備がいいのね」


 テーブルの上には、ポットと、私の大好きなスコーンが用意されていた。


 まるで、今夜こうなることを最初から予期していたかのように。


「執事ですから」


 ロイドは悪戯っぽくウィンクすると、私をソファに座らせ、慣れた手つきで紅茶を淹れた。


 部屋中に広がる、芳醇なアールグレイの香り。


 それは、実家の冷え切った部屋で、唯一私を慰めてくれた香りと同じだった。


 彼がいつも淹れてくれた、私の心を溶かす魔法の香り。


「……ずっと、狙っていたの?」


 温かいカップを両手で包みながら、私は彼を見上げた。


 ロイドは窮屈そうだった執事の上着を脱ぎ、ネクタイを緩めている。


 そのラフな姿に、心臓がトクンと跳ねた。


 いつも完璧な「使用人」だった彼が、今は一人の「男性」として目の前にいる。


 その肩幅の広さも、シャツ越しに分かる筋肉の厚みも、すべてが私を守るためにあるのだと訴えかけてくる。


「ええ。ずっとです」


 ロイドは私の隣に腰を下ろした。

 近い。彼の熱が伝わってくる距離。


「お嬢様が……リィンが、不当に扱われているのを見るたびに、俺の腹の中は煮えくり返りそうでした。いつか絶対に、この鳥籠から連れ出してやると。……王子が婚約破棄してくれた時、俺は心の中でガッツポーズしました」


「ふふっ……貴方って、本当に性格が悪いのね」


「知らなかったんですか? 執事なんて、みんな腹黒いんですよ。欲しいものは手段を選ばず手に入れる。……貴女のことも」


 彼は笑って、私の頬に触れた。


 その指先は、ごつごつとしていて、大きくて、でも驚くほど優しかった。


 庭仕事も、剣の稽古も、家事も。全てを私のためにこなしてきた手。


 冷徹な公爵の手よりも、ずっとずっと温かい。


 ねぇ、ロイド。知ってた?


 私ね、ずぅっと、貴方のこと好きだったんだよ。


 私はあなたの主で、あなたは私の執事。


 分かってたから言えなかった。あなたが私に向けてくれる優しい眼差しが、いつも愛おしくて、たまらなかった。


 私には、婚約者がいるのにね。ダメな人だよね。私。




「リィン」



 彼が真剣な眼差しで私を見る。


 その瞳の熱量に、私は射抜かれたように動けなくなる。


 そこにあるのは、忠誠心なんて生ぬるいものじゃない。


 もっと重くて、深くて、甘い……執着に近い愛。


「もう、我慢しなくていい。完璧な令嬢でいる必要もない。泣きたい時は泣いて、怒りたい時は怒っていい。……俺の前では、ただの女の子でいてください」


「……ロイド……」


 張り詰めていた糸が、ぷつりと切れた。


 私はカップをテーブルに置き、彼の胸に飛び込んだ。


 彼は私を強く、壊れ物を扱うように優しく抱き締めてくれた。


「怖かった……! みんな敵に見えて……独りぼっちだと思って……っ!」


「俺がいます。これからはずっと、俺が一番近くにいます」


「うん……うんっ……!」


 私は彼の胸で泣きじゃくった。


 18年間、溜め込んできた全ての感情を吐き出すように。


 彼は私が泣き止むまで、ずっと背中を撫で、髪にキスを落とし、「愛してる」「大好きだ」「可愛い」と甘い言葉を囁き続けてくれた。


 その言葉の一つ一つが、凍りついた私の心に染み渡り、溶かしていく。


 3年なんて待てないよ。


 3年かけてゆっくり信頼を築く?


 そんなのいらない。


 今、この瞬間、私は彼に抱きしめられて、世界で一番幸せなんだから。


「……愛してる、ロイド。ずっと……愛してた」


 涙に濡れた顔を上げ、私は精一杯の想いを伝えた。


 もう、迷いはない。この好きって気持ち。ずっと奥底にしまってた、この気持ち。もう隠せない。


 彼こそが、私の運命の人だ。


「俺の方が、もっと愛してますよ。俺の姫様」


 重なる唇。


 紅茶の香りと、彼の熱い想いが混ざり合う。


 窓の外では星が瞬いているけれど、私たちにはもう、互いの存在しか見えていなかった。


 これは、冷徹公爵が3年かけてもきっと辿り着けなかった場所。


 有能で強欲な執事が、たった一晩で手に入れた、極上のハッピーエンド。





 ◇◆◇





 ――それから、3年後。


 王都から少し離れたその街には、評判のカフェレストラン『サニー・ガーデン』があった。


 オーナーシェフの男が作る料理は絶品で、給仕をする黒髪の美女の笑顔は、訪れる客すべてを虜にするという。


 店はいつも花で溢れ、温かい笑い声が絶えない。


 カラン、カラン。


 ある日の夕暮れ。一人の旅人が店を訪れた。

 銀髪に、どこか寂しげな蒼い瞳を持つ騎士だ。


 彼はカウンターの隅に座り、コーヒーを一杯だけ注文した。


 彼は見ていた。


 厨房で楽しそうに働くエプロン姿のロイドと、カウンター越しに彼を見つめるリィンの姿を。


 リィンは、かつて夜会で見せたような「氷の仮面」など被っていなかった。

 花が咲いたように笑い、ロイドに甘えている。


 ちょうど、焼き上がったばかりの新作ケーキの味見をしているところのようだ。


「ん……ロイド、美味しい! これなら看板メニューになるわ」


「リィンの口に合うなら最高傑作だ」


「もう、大袈裟なんだから……んっ」


 ケーキを頬張るリィンの口元に、クリームがついた。


 するとロイドは、自然な動作でカウンターから身を乗り出し――彼女の唇についたクリームを、自身の指ですくい取った。


 そして、その指についたクリームをペロッと舐めとる。


「――うん。リィンが食べるとなんでも甘くなる魔法がかかるみたいだ」


「っ……! ば、ばか……! 人が見てたらどうするのよぅ……」


 リィンが顔を真っ赤にして、ポカポカとロイドの肩を叩く。


 ロイドはそんな彼女が愛おしくてたまらないとばかりに、その手を掴んで甲にキスを落とした。


 二人の間には、誰も入り込む隙のない、完成された幸福があった。


 騎士は、ふっと自嘲気味に笑った。


 その瞳には、かつてのような凍てつく冷徹さはなく、憑き物が落ちたような静かな諦観が宿っていた。


「……完敗だ」


 彼は飲み干したカップの横に、代金としての金貨と、一輪の花を置いた。


 紫のアネモネ。


 花言葉は――『あなたを信じて待つ』。それは『遠くから見守る愛』。


 3年待てなかった自分が、一生かけて遠くから見守ることを誓うかのように。


 彼は誰にも気づかれないように席を立ち、風のように店を去っていった。


 その背中は少し寂しげだったが、もう二度と振り返ることはなかった。


「あれ? 今のお客さん……」


 リィンが気づいて顔を上げる。


 テーブルに残された紫の花を見て、彼女は少しだけ目を見開く。


「綺麗なお花。忘れ物かな?」


「どうした、リィン?」


「ううん、なんでもない! お客さんの忘れ物みたい!」


 彼女はロイドの方へ向き直り、愛しそうにその首に腕を回した。


「ねぇロイド。お店が終わったら、またあの『隠れ家』に行きましょう?」


「ん? 今日は甘えん坊モードか?」


「いつも甘えん坊です! ロイド……大好き」


 チュッ、と重なる口付けの音。

 二人は顔を見合わせて、幸せそうに笑い合った。


 彼らが育むのは、二人だけの、温かくて甘い愛の物語。


 見栄や世間体ばかりの鳥籠には、もう戻らない。


 これは、「待て」なかった執事が、最愛の悪役令嬢を奪い去り、世界一幸せな花を咲かせるまでの物語。

ここまでお読みいただきありがとうございました!


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【スカッとしたい方へ】

『その聖水、ただの麻薬ですよね?』

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【笑ってキュンとしたい方へ】

『冷徹公爵様の心の声 (テロップ)がピンク色で大暴走している件について』

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【とろとろに甘やかされたい方へ】

『触れるもの全てを殺す『死神公爵』様、なぜか私だけ触れても平気なようです』

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他にも投稿済みの短編がございますので、作者マイページからお好みのものを見つけてご覧いただけると幸いです。

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