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俺と妹の汚れた聖域  作者: ケイト


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地獄のルールに縛られている


 台所に立つ俺は、今祈るような気持ちで料理をしている。

何かの間違いであって欲しい、これは夢であるべきだと、何度も念じ、見えない存在に祈りを捧げるが、それが届くはずもなく。

普段は指を切ったりしないはずなのに、包丁でケガをする始末。

ズキズキとした出血と共に走る痛みが、それら全てが無意味だと笑っていやがる。


 ……それでも、何も変わらないけれどまずは彼女に喜んでもらいたい。

彼女の口に合うかどうかは分からないけれど、俺の努力の結晶とも呼べる最高の物を作るつもりだ。

一人で暮らしはじめて一ヶ月が過ぎ、妹を見つけるって目標も達成された。

後は普通に暮らすだけだった、バカな話をして盛り上がったりするだけのはずだったが……最悪な再会になってしまった。


「部屋、綺麗だね」


「そこに座ってればいいよ」


「掃除する必要はなさそうだし……お兄ちゃん、必要が無いのに、何で家に連れ込んだの? やっぱりキスだけじゃなくて」


「俺はお前にそんな酷い事はしない!」


 背後で座りもせずに俺のこれまでの努力と、助けるのが遅いと事を責めるような発言しかしてくれない。

机やクッションをおいてあるリビングに向かう事もせず、ただ後ろから俺をじっと見つめている。

明るくて、ちょっと抜けてる、そんな昔の内面すらどこにも残っていなくて。


「じゃあ、何したらいい?」


「何って……スマホいじってるとか、普通にくつろいでくれればいい」


「スマホ、持ってない、ダメだって言われたから」


 ただただ、彼女がおくってきた過酷な日々が、淡々と語られるだけだった。

彼女がしゃべる度に苦しみが襲ってくる。

今時の高校生がスマホすら持たせてもらえないって一体どんな環境で……。


「……母さんは元気なのか?」


 新しい父親の事を聞く事は出来なかった。

勇気が無かったとかじゃなくて、妹にとって父は恐怖と自らを搾取する象徴でしかないのだから、ソレを口にするのは、彼女に安心してここで暮らしてもらうという俺の夢に反するからだ。


「元気だよ」


「そっか」


 元気なら何故、妹を守らないんだ。

俺の母は何故娘が傷つけられているのに、動こうとしない?

腹が立つ、苛立ちが止まらない。

目の前にいたのなら、確実に殴っている。

と言うより……それがなくても一度母さんには会うべきだ。

妹を怯えさせない為に、彼女をこれ以上不安にさせない為に込み上げる感情を顔に出さないように……よし。


「そういやそのケガの包帯が剥がれかけてるな、確か新しいのが部屋のどこかにあったと思うから……探してくれるか?」


 まずは彼女の傷を何とかしないといけないな。

医療の知識なんて殆どないけれど、少なくとも薄汚れた包帯を使っていては治るものも治らないだろうし、何かしらの病気に感染してしまうかもしれない。


「……わかった」


「おう!」


 包帯は自分で巻いてもらおう。

いくら魅力的な体とはいえ、彼女は妹であり、傷ついている少女なんだ。

俺が彼女に触れる事事態が、不快感を与えてしまうかもしれないし……。

そう考えるとアレだな、手を引いて連れてきたのは間違いだったか?

いやでも無理矢理にでも連れてこないと来てくれなかっただろうし……。


「包帯の分、お礼するから」


「そんなの気にすんな、俺達は家族なんだからその程度でそんな申し訳なさそうな顔すんなよな」


 料理を続けていると、グツグツとスープが煮える音や肉を焼いている音、様々な音が聞こえてくるだろう。

火元から目を離さずにいる俺には、背後から料理とは違う音が聞こえていた。

シュルシュルと布が擦れる音と、軽い物を床に落とすような音。

それが気になって、火を止めて後ろを振り向いた。


「お前……!」


 そこには、下着だけになった妹がいた。

こんな状況なのに、俺は大きな胸を最初に見てしまったが、すぐに視線は服で隠れていた場所に移っていく。

痣やタバコの火を押し付けられたような傷痕が残る腹部、腕には真っ赤な……強い力で握られたような跡もある。

太ももにだって……クソッ!


「ゆうこ、お前のその傷は……」


「家族だから、お礼しないといけない、何も出来ない私には、体しか価値が無い……だから、お礼させて」


 俺の心配は、届いていなかった。

妹は少し震えながら、俺に近づいてくる。

その間もずっと。


「お礼しなきゃ……お礼しなきゃ……お礼しなきゃ……家族なんだから、やらなきゃ」


 ぶつぶつとまるで神にでも祈る言葉のように、それか彼女を縛る呪いの言葉のように、意味の分からない、いや分かりたく無い言葉を羅列する。

そして、俺の目の前まで来た妹はそこで膝をついた。

そのまま俺のズボンに手を伸ばして……ダメだ、こんな事させちゃいけない!


「やめろ!」


 思わず、大きな声が出た。

腰に置かれた妹の手を掴み、やろうとした事を、兄妹でしてはいけない事をしようとした妹を止める。

コイツは今、何をしようとしたんだ。

俺も年頃の男だから、やろうとした事には想像がつく。

歪んだ妹から飛び出る単語と行動はソレと簡単に結びつき、一瞬の迷いもなく俺は正しい行動をした。


「あっ……ご、ごめんなさい……すぐ脱ぎます、すぐに下着も脱ぎますから……」


「ゆうこ、落ち着け!」


「殴らないで下さい……痛いのはやめて下さい……気持ちよくしますから、どうかお礼を受け取って下さい!」


 妹は明らかに虐待を受けている、これはもう確定事項だろう。

しかも一番最低な事をされている。

艶かしく、男を誘惑するような体もきっと、そうならねばさらに酷い事をされるという生存本能のような物で発達したのではないかと思ってしまう。


 洗脳されていると言ってもいいだろう。

性と力によって彼女の尊厳は破壊され、ただ力から逃れる為に、自分を守る為に彼女は自分を傷つける事を教えてられている。

これは断言してもいい、再開した時に言っていた"お父さん"とやらが犯人で、母さんもそれを黙認している。


「……何もしなくていいんだ、お前が嫌な事はしなくていい」


「嫌な事……しなくていい……」


 許さない。

俺の大切な家族を、妹を傷つけた男と、母を許せない。


「守れなくてごめん、でももう二度とお前を傷つけさせないから、絶対に俺が守るから!」


 今の俺が出来ることは限られている。

でもその選択肢の中で何を選べばいいのか分からない。


「期待しちゃだめ、期待したら後でまた…….」


 何度気持ちを込めても、俺の言葉は彼女に届かない。

こんなにも心配しているのに、こんなにもお前を思っているのに、それが全て妹に施された洗脳と恐怖に遮られていて、心に届かない。

どうすれば伝わるんだ、どうすれば……。


『おいしーね、おにーちゃん!』


 そうだ。

心伝える手段は言葉だけじゃない。

もう昔の弱く非力な俺じゃない、俺にはお嬢様の所で鍛えたこの料理がある。

料理はただ食事の為にあるんじゃない、香りや味で記憶を呼び起こし、そして込めた心を伝える為の道具にもなる。


「そこで座って待ってろ、いいな」


「……うん」


 少しキツイ言い方だったが、妹は俺に従ってくれた。

下着のままだけど、机の所に向かっていって、クッションを避けて固い床に座ってからこっちを見ている。

不安と恐怖に取りつかれたような眼差しで、俺の望まない瞳を向けている。


「昔さ、コーンスープ好きだったよな、まだ好きか?」


「コーンスープ……うん」


 他にも料理はあるけれど、きっとこれが一番いいだろう。

夕方に食べるには適していないかもしれないが、このカリカリに焼いたトーストと、インスタントじゃない手作りのスープを皿に乗せて彼女の前に広げた。


「お兄ちゃんな、料理上手いんだぞ? ほら、食ってみろ」


 どうか、俺の気持ちが妹に届きますように。





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