新しいご主人様
「今日もお兄ちゃんは仕事だし、私が家の事やらないとね!」
休日の早朝からお兄ちゃんは仕事に行ってしまって、私は一人この家の事を任されています。
なにもしなくていいと言われていますが、何かやらないと嫌な思い出に襲われるし、勉強は……したくないので、家事をするようにしています。
「さてと、今日もがんばりましょうか!」
お義父さんから解放されて、私には少し変わった……ううん、お兄ちゃんが言うにはこれが普通の生活らしいから、多分普通がやってきたんだと思う。
美味しくて暖かいご飯に、柔らかいベッド、そして私の体を求めず暴力も振るわない……何をしてくるのか分からないお兄ちゃんとの生活は、とても怖かった。
優しくて、笑顔を見せてくれて、私が喜ぶ事を喜んでくれる。
「体……だるい……こんなにも体調が変わるんだ」
お兄ちゃんは今日も遅い。
頑張って働いているの?
それとも、またあの神目さんや人妻の所で楽しく過ごしているの?
今はもう、どうでもいい事だけど……。
私はちゃんと、お兄ちゃんをここで待ってるからね。
たとえどんな恐怖が待っていたとしても、お兄ちゃんが私を捨てて他の女の所に行こうとしても、私は怯えなくていい。
「えへへ……喜んでくれるかな」
女の予感は的中してた。
だってお兄ちゃんはお義父さんと違って、元気で、欲望にも素直だったから。
薬局で買ってきたお守り代わりのコレも、私を元気付けてくれる。
大丈夫、もう私は捨てられない。
お兄ちゃんがお義父さんみたいにならないと強く願えば願う程、私を捨てられなくなっていく。
「お母さんは今頃どうしてるんだろ」
部屋の中で、お兄ちゃんの晩御飯を作りながら家族の事を思い出して、それを首を振りながらすぐに脳から消して、これからの希望に満ちた未来の事を考える。
「ごめんね、お兄ちゃん」
貴方が本気で私を守ろうとしていたのは、行動で示そうとしていたその想いは確かに伝わったよ。
でもね、その姿はお義父さんと何一つ変わらなかったの。
むしろお義父さんの方が、何が起こるのか簡単に分かった分、お兄ちゃんの方が怖かった。
「キスとかハグって……その先が怖いのに……何にも分かってくれなかったなぁ」
誘惑しても、身構えていても、お兄ちゃんは当たり前の事をしてこない。
だから私は、素敵だけど恐怖が見え隠れするこの生活を変える為に頑張った。
今だって、お兄ちゃんに喜んでほしくて簡単だけど晩御飯を作っている。
私の新しいご主人様は、お義父さんと同じ目で私の体を見るくせに、真逆の言葉を口にする。
私で楽しみたいと目が訴えかけるのに、口ではそんな事はしないとか、兄妹だからと否定して……どれだけその歪さが怖かったか、あの人は分かってない。
「いつか……謝らないといけないよね」
貴方の心を利用してごめんなさい。
でも、貴方も私の体で楽しんだし、悪いことだけじゃないよね。
お義父さんと違う事は分かってるよ。
ここで暮らすのは幸せ、だから……貴方を利用してでも私はお義父さんの所には帰りたくないの。
「よし、できた!」
じゃがいもの冷たいポタージュスープ。
お兄ちゃんが作ってくれたコーンスープみたいな味は作れないけれど、私だってこれぐらいはレシピ本を見ながら作れる!
……お兄ちゃんの事なんてちっとも好きじゃないけれど、もし今、料理をしながら待っているのが素敵な男性なら……。
「って、私のバカバカ!」
鍵が開く音がした。
私の新しいご主人様が帰ってきた音だ。
いつも通り、キスをして喜ばせましょう。
そして罪を重ねさせる。
「ただいま、ゆうこ」
「お帰り、お兄ちゃん!」
抱きついて、胸を押し当てて、少し後ろに逃げるお兄ちゃんを腕で捕まえて全身を密着させる。
「ただいまのキス、してあげるね」
最初は嫌がっていたキスも、素直に受け入れてくれる。
もし本気で嫌なら今でも辞めさせるはずなのに……誘い受け……いや、演技だったのかな?
もしくはお兄ちゃんは攻められるのが好きなの?
うーん……ま、いいや。
「ゆうこ……その、近い」
「兄妹のスキンシップでしょ、お兄ちゃん」
「だけどこんなキスは……その」
「もういいじゃん、私達それ以上の事したんだし」
お兄ちゃんはこの言葉を聞くと申し訳なさそうな顔をして、抵抗をやめる。
お義父さんは一方的だったけれど、お兄ちゃんなら私がコントロールできる。
予測可能な日常が、戻りつつあるんだ。
「……そう、だよな」
「うん、だからほら、あの時みたいに私を感じてくれてもいいんだけど……その前に……ごほん、ご飯にする? お風呂にする? それとも……いもうと?」
「先にご飯食べてもいいかな……その、話したい事があるんだ」
今日のお兄ちゃんは少し、いやかなり変だ。
普段なら苦笑いをしながら受け流すはずなのに、それをしてない。
もしかして……気付いたのかな。
無理もないか。
好きだったコーンスープは味覚が変わったかのように食べられなくなって、常に睡魔に襲われて眠る事も増えていった。
私はなんとか隠そうとしたけれど、兆候を全て隠す事は出来なかったし……仕方ない。
「話って何?」
「それは……だな、最近体調が良くないみたいだからさ、大丈夫かなって思って」
「そう? 元気だけど……?」
お兄ちゃんはノートの切れ端をポケットから取り出して、それを読み始めた。
「た、例えばの話だぞ……味覚が変わったとか」
「コーンスープが食べられなくなったね」
「普段よりも睡魔が強いとか……」
「最近睡魔が酷いんだよね、学校でも寝ちゃうし……睡眠不足かな? でもしっかり寝てるんだよね」
あの切れ端……お兄ちゃんの字じゃない。
神目さんの字かな、すごく綺麗な字を書くんだ。
それとは対照的に、お兄ちゃんは私が質問に答える度に顔が青くなっていく。
なんだ、気付いてなかったんだ。
でもそろそろ気付いて貰わないと。
「気持ち悪くて吐く事がある……とかは……無いよな、だってお前が吐いてる所なんて」
「個人差があるからね、私は軽いみたいだよ」
「……何を……言ってるんだ?」
お兄ちゃんってば、すごい汗。
ガクガクと震えて、目を見開いてる。
ねぇ、そんなに驚く事?
いつでも貴方に私を襲わせる事ができたのに、何故あの日にやったかとか考えなかったの?
「一回で出来るなんて、やっぱり兄妹だから相性いいのかな? お兄ちゃんは童貞だったんでしょ? すごく気持ちよかったし、いっぱい出したもんね」
「……お前あの日は、大丈夫だからって」
震えが酷くなった。
私の肩を掴んで、嘘ですと言って欲しいって顔に書いてある。
でもダメ、逃がさない。
貴方には私を守ってもらう。
力じゃ勝てないし、頭も良くない。
だから、お兄ちゃんの罪悪感で縛らせてもらうから。
「避妊もせずに私を抱いたのは誰?」
「それは……お前が義父の所に帰るか抱くかって選択肢を出すから」
予想通りの言い訳をありがとう。
「じゃあそれは、お兄ちゃんが自分で決めた事だよね」
「……ッ!」
「お義父さんはずっと避妊してたよ、めんどくさい事になるからって言ってたけど……お兄ちゃんはしてないよね」
「俺は……ちがう! 俺は……」
「お義父さん以上の事をしておいて、まさか責任とらないとか言わないよね?」
「責任って……俺達は兄妹だぞ、血の繋がった実の兄妹だ! それなのに……お前、まさか……」
お兄ちゃんから離れると、目の前のご主人様は膝から崩れ落ちた。
そして、私が奉仕する時のように腰を掴んで、涙を流しながらよく聞こえない懇願をしてる。
「そこじゃなくて、ここだよ」
手を掴み、私とお兄ちゃんの愛の結晶……じゃない。
お兄ちゃんを縛る鎖はここだよと、正しい場所を教えてあげる。
少しだけ膨らんだ場所に手を当ててあげてから。
「お兄ちゃんじゃなくて、もうパパって呼んだ方がいいかな?」
私がそう言ってあげると、お兄ちゃんは何も言わなくなった。




