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 ──同じ頃。


 町一番の高台にある町長の邸宅。 

 町長室の前の狭い待合室でユランは待たされていた。


 町長の邸宅といっても小さな町である。一般家庭の住宅に毛が生えた程度のものだ。

 家の中は、黄土色の壁に黒木の柱、簡素な調度品や控えめな観葉植物など、何となく落ち着いた佇まいではある。

 ユランが手持ち無沙汰に観葉植物の湿った土に触れていると、扉が開く音がした。

 髪の薄い小さな老爺が町長室から出てきた。

「申し訳ない、旅の者。町長は魔物への対応で指揮を執っていて手が離せない。副町長の私が話を聞こう」

「別に世間話をしに来たんじゃないですよ。魔物のことです」

 薄笑いを浮かべてユランが近づくと、副町長は少したじろいだように後ずさった。

 武器は町長室の前の守衛に預けてしまっていたが、上背があり、立っているだけでも相手に迫力を与えるのは、ユランも自覚しているところである。

「交渉をしに来たんです。どうです、その魔物、おれが狩りましょう」

「いやしかし」と副町長は眉をひそめた。

「この町には、魔物からの護衛を頼んでいる狩人ギルドがいて」

「どこに? 常駐してないようなやつらを頼りにしてるんですか? 多分、こんな小さな町に危険な魔物なんて出ないと高を括ってるんですよ」

 ユランの言葉に副町長は口を噤んだ。

「そいつらが来るのを待ってたら、もっと被害が出る。それにおれはギルドに所属しないフリーの狩人です。討伐料はかなり安くなりますよ」

「し、しかし相手はグレィム。危険度等級上位の魔物。複数人での対応が基本のはず。、ギルドでもないと太刀打ち……」

「グレィムですか。おれひとりでやれます」

 当然のようにユランは答えた。

「だから、ひとりでどうやって」

 ユランがすっと人さし指を天に立てる。

 副町長は警戒気味に口を閉じ、後ずさった。


──この待合室にはあまりいいものはないが。

 ユランはそう思いながらも、いちおう見当はつけていた。

 部屋の隅にある観葉植物の鉢。その湿り気のある黒土が、ぼこりと音を立てて盛り上がった。

「ん……?」

 不穏な音に、副町長は辺りを見回す。

 ぼこぼこと、沸騰するように土が沸き立ったかと思うとずるりと伸び上がり、黒い大蛇のようにうねりながらユランの体に緩く巻き付いた。

「土が……?ま、まさか……精霊……?」

 副町長は目を白黒させ、唇を震わせていた。

「そんなの、い、今どき使える人間が……」

「正真正銘、精霊魔法ですよ」

 ユランはにこりと微笑む。

「──これで、頼む気になってくれますかね」



§


 町の端では櫓に男たちが上がり、弓などの武器を構えていた。物々しい雰囲気である。


「ユランさーん、わかりましたよ!」

 手を振りながら町内の案内看板へとポーチカが駆ける。その看板の前には既にユランが腕組みして立っていた。

「森の魔獣は」

「グレィムだろ」

「……」

 出鼻をくじかれポーチカは黙り込んだ。

「他には」

「……町の人が5人、犠牲になり、3人ほど森の東奥の方に連れ去られたようです」

「そうか。おい、荷物はどうした」

「適当な宿屋に置いてきましたよ。すごく重いんですから」

 ポーチカは少し怒ったようにユランを見上げるが、冷たい視線を返されただけだった。

「荷物持ちはあんたの仕事だろう」

「それはそうなんですけど……!あ、で、依頼の交渉の方はどうなったんですか?」

 ユランは片頬を上げてにやりとする。

「グレィム1体で7万だ」

「わお! 頑張りましたね! やる気出てきました」

「連れ去られたっていう3人を食べ終えたんなら、しばらく大人しくしてる頃か」

 ユランが振り返り、町の外に広がるこんもりとした緑の森を見やる。今は静かで、青い空の下ではその自然の色が美しくも見える。

 しかしその中は、人を食らうことを好む魔物がひしめく、危険な場所である。

「そんな身も蓋もないことを」

「──行くか」

 腰に下げた二本のうちの一本の鉈を手に取り、ユランは森へと悠長に歩いていく。

 ポーチカは慌ててその後を追った。

 日が傾き始める頃だった。

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