27、終
レイノーラは〈ギルド〉内にある自分の執務室で窓外を眺めながら、これまでのことを回想していた。
〈ギルド〉は存亡の危機に瀕していた。大多数の冒険者を失い、仲介手数料という主たる財源を失いかけている。組織の首領である総帥の交代は必至で、今のところはレイノーラの直属の上司にあたる財務理事が有力視されている。
ひとまずは〈ギルド〉の再建に注力することになるだろう。〈屍者の国〉への対応は後手に回らざるを得ない。
というより、付き合い方を考えざるを得ないだろう。
もはや〈ギルド〉に〈屍者の国〉を打倒する力はなく、向こうの出方次第ではこちらが滅ぼされかねない。つかず離れず、下につかず上にも立たず、微妙な距離感を保っていくよりほかにないだろう。
そうなれば当然、〈屍者の国〉とのコネクションを持った折衝係が必要になり、彼が〈ギルド〉の存亡を握る重要人物となるはずだ。
「悪くない計画だと思ったんですがね・・・」
レイノーラはひとりごちた。
〈屍者の国〉との折衝係という人柱も同然の役回りを押し付けられたレイノーラは、一時は絶望していた。しかし、〈屍者の国〉の面々に出会ったとき、そして何よりイアン・エンバーマーの王としての実力を目にしたとき、ひらめいた。
〈ギルド〉内部で唯一、〈屍者の国〉との接点を持ったことは、千載一遇の好機なのではないか。
今回の計画は、その発想を契機にレイノーラが考えた末にひねりだした一発逆転の策だった。
教育理事側近のリットマンを抱き込んで進行した計画は、ほぼ予定通りに進んだ。それどころか、教育理事がいなくなったことは棚ぼた的な幸運だった。
しかし・・・
「ここまでとは思っていませんでしたよ、イアン様」
あれほどの大規模遠征部隊が一瞬にして全滅するとは、レイノーラも想定していなかった。計画によれば、レイノーラの地位を確立するために〈ギルド〉の失墜は必須要件だった。だが、生きるか死ぬかの瀬戸際にまで追い込まれるとは思っていなかった。
「まあ、考えようによってはアリですね」
〈ギルド〉が徹底的に追い詰められたことで、〈屍者の国〉の件がより一層シビアになってきた。結果として、レイノーラの〈ギルド〉における地位は想定以上に高位かつ責任重大なものになった。
もちろん良いことばかりではなく、レイノーラは今後、生物としての宿命を超越した屍者たちの集団を相手に繊細な立ち回りを強いられることになる。
「面白くなってきましたね」
レイノーラはほくそ笑んだ。
窓からはおぼろげな月光がさしこんでいる。外は喧噪と無縁な平和な夜で、普段と何も変わらない一日の終わりに思えた。
しかし、こんな穏やかな夜も今日で見納めかと思うと、鬱々と物思いに沈んでいく・・・はずだった。
しかし、今のレイノーラは身体の奥底からふつふつと湧き出る興奮に顔がほてる思いだった。
〈屍者の国〉はこの先、世界を変える。
自分はその大変革に身を投じるのだ。
そんな確信をもって、レイノーラは激動の一日を終えた。




