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23、及ばない浅慮

 それから数日をおかずして、〈ギルド〉ではダンジョン第9層に向けた遠征攻略部隊の募集が始まった。

 教育理事の予想通り、アイゼンハルト総帥は冒険者たちの士気の高まりを抑えこむことができなかった。もっとも、裏工作が失敗したうえに、ここまで派手に〈屍者〉に立ち回られたとあっては〈ギルド〉としても動かないわけにはいかなかった。

 応募にはダンジョン第三層攻略が条件で、先の遠征とは比較にならないほどの人員が募られた。

 ダンジョン下層部である第9層にしては少ない報酬だったが、教育理事の指示のもと、対〈屍者の国〉であることを大々的に宣伝したところ、大いに人手が集まった。


「すさまじい数ですね」

 レイノーラは言った。彼は、〈ギルド〉の本館の二階から、本館前に集った冒険者たちの群れを見やっていた。

 かたわらではリットマンと教育理事が同じように階下を睥睨している。

 リットマンは言う。

「数にして三千。第三層攻略済みという条件をつけてこれだけ集まれば、十分というものでしょう」

「烏合の衆は御しやすくて助かりますね」

 教育理事は口角をあげてみせた。

 それを見てレイノーラは言う。

「教育理事は遠征に同行されるのですか?」

「むろんです」教育理事はうなずいた。「遠征の指揮をとるのはこの私です。それに、この目で〈屍者の国〉の連中が蹂躙される様を見なければ、気がすみませんから」

「リットマンは?」

「彼は待機です」

 リットマンは肩をすくめたが、レイノーラに視線を送るような下手はしなかった。

 教育理事は冒険者たちを見下ろしながら言った。

「遠征は三日後と伝えてください。準備ができた部隊から順次投入して、上層・中層階の攻略にあたらせます」

 レイノーラは驚いた。

「三日後ですか。ずいぶんと急ですね」

「相手の体制が整うのを待つ必要はありません。〈屍者の国〉の連中がここを離れてからまだ日が経っていない今こそが好機です。それに」

「それに?」

「あなたのボスからも遠征日程はできる限り詰めるように伝えられていますから」

「恐縮です」

 うわべに貼り付けたような笑みを浮かべながら、レイノーラは計画の第2段階が順調に進んでいることを感じていた。

 あとは〈屍者の国〉の力量次第だが・・・

 レイノーラは心の内でイアンに語りかけていた。落胆させないでくださいよ、と。



 それから二日後、〈屍者の国〉の打倒を目指した大規模遠征部隊が〈ギルド〉を出発した。

 先遣隊がダンジョン第2層まで攻略を済ませており、遠征部隊は第3層以降を数の暴力に任せて次々と攻略していった。

 第6層、第7層で若干名の犠牲者が出たが、おおむね順調といえた。

 そして現在、第8層終部。

「さすがに攻略にてこずることはありませんね」

 教育理事は第9層攻略に向けた野営テントのなかでつぶやいた。

 かたわらには秘書兼雑用係を任された無名冒険者が控えており、彼が各部隊の資料を確認しながら言う。

「損耗率はおおむね8%前後。この調子ですと、出発時とほぼ同規模の状態で〈屍者の国〉と接敵することになりそうです」

「予定どおりですね」

「聞くところによれば、〈屍者の国〉は10名に満たない規模の野盗の類だとか。いくら過去に遠征部隊がやられたとは言え、ここまでの規模を用意する必要はあったのですか?」

「わたしの計画に不満でも?」

 雑用係は直立して首を振った。

 はあ、とため息をつきつつ教育理事は言う。

「たしかに、ここまで順調なのは予想外です。第9層に至るまでに接敵するものを思っていましたが・・・買いかぶりすぎましたかね」

 教育理事は不敵な笑みを浮かべた。

 この場面では、むしろなぜ敵の姿が見えないのか、ということに疑問を持つべきなのだが、そんな慎重な姿勢は教育理事は持ち合わせていなかった。

 もし彼女が、〈ギルド〉の遠征を想定してしかるべき〈屍者の国〉の面々が迎え撃つ姿勢を見せないことに疑問を持ち、思慮をめぐらせることができていれば、この後の悲劇は避けられたかもしれない。

 しかしもう遅い。

 遠征部隊は間もなく第9層に向けて出発する。賽は投げられた。

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