20、エルドレッド最後の夜
エリーゼがエルドレッドを想っているころ、彼は一人自室で物思いにふけっていた。
思い出すのは、貴族だったころの輝かしい思い出と、それとは対照的な暗くじめじめとした冒険者時代の苦い記憶。
〈屍者〉になってからのころは、不思議と思い出すことがあまりない。まるで自分の中に何も蓄積されていないかのように。
「これがイアンの言ってた〈屍者〉の宿命なのかね・・・」
エルドレッドはひとりつぶやいた。
それに対して、
「宿命とはいかようなものですか」
と問いかけてきたのは、リットマンだった。
リットマンが部屋に滑り込むように入ってきていたのは気づいていた。用件はおそらく、例の一件に違いない。
相変わらず無愛想な男だ、とエルドレッドは思った。教育理事との一席にいるあたり、こいつはあの女の陣営ということで間違いないのだろうか。
しかし、財務理事陣営だというレイノーラとも面識があるようだし、〈ギルド〉の内情というのはエルドレッドにはよくわからなかった。
返事をよこさないエルドレッドに、リットマンは一人で言葉を続ける。
「〈屍者〉というのはわれわれには不可解な存在です。生きとし生ける者が背負う〈死〉という絶対的な宿命を回避したにもかかわらず、われわれと同じような姿かたちで同じように意思疎通を図れるなど・・・」
ははあ、さてはお前は教育理事陣営に違いないな、とエルドレッドは思いつつ、言う。
「なんだ、それじゃあゾンビはゾンビらしく死んだ目をしていればいいってのか」
「ついでに口をだらしなく開けていれば完璧でしょうね」
リットマンは真顔で冗談を言った。冗談でなければこの場で引き裂いていたところだ。
「要件はなんだ。さっさと言え」
「最後の意思確認です」リットマンは言った。「われわれの提案を呑んでいただけますね?」
「さあ、どうだろうな」
「下手な駆け引きは無用です。あなたはわれわれの提案を呑む」
リットマンは強気に言った。「そもそも〈屍者の国〉にこだわる理由がどこにあるのです。あなたと妹君が貴族の生まれであることは調べがついています。何の因果で冒険者の地位に堕ちたのかは存じませんが、金も地位も縁のない今の境遇は、あなたには耐えられないもののはずです」
「おまえはきっとそうなんだろうな」
エルドレッドはそっけなく言った。
「とにかく、明日は頼みますよ」
リットマンはそう言い残して部屋を去った。
夜はふけていく。




