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漆:国家魔術師

 魔法陣が光った一瞬後、そこに長い銀髪と深い青の瞳を有した長身の美女が現れた。

 年の頃は二十代半ばくらい。ファリナとはまた違った、知的な色香を漂わせている。


 遮蔽魔術を掛けているはずのゼインとリスティを、彼女はじっと見つめている。


「……リーフ・トラバーズか……!」


 ゼインが舌打ちする。

 その名前は、リスティでも知っている。

 国家魔術師の筆頭を務める人物だ。


「リーフ・トラバーズって、女性だったの?」


 リスティが聞いた噂では、超絶美男子らしいと話題だった。


 その言葉を聞いたリーフが、うふふ、と妖艶に微笑んだ。


「あら? アタシが男だろうと女だろうと、そんなのどっちだっていいじゃない。どっちにしたってアタシは美しいんだから」


 紅い唇で笑う彼女は、どう見ても女性だ。だが、その声は低く掠れていて、どう聞いても女性のそれには思えない。

 声だけ聞いたら四十歳前後の男性、それも渋みのある美丈夫を想像しそうだ。


「……なかなかの遮蔽魔術だけど、アタシの眼は誤魔化せないわよぉ」


 言いながら、彼女はつかつかとゼインに歩み寄る。


「良いわねぇ。アナタ、なかなか好みよ」


 その言葉に、ゼインが固まる。


「……お前、俺達を捕まえに来たんじゃねぇのか?」

「あら? アタシがいつそんなことを言ったの? アタシは、アタシ好みの美男子と可愛い女の子がいたから見に来ただけよ」


 きょとんと目を瞬いた後、リーフは北の塔を振り返った。


「入りたいんでしょう? あそこに。アタシと一緒なら入れるわよ」

「……どういうつもりだ? エルドラド王家に忠誠を誓った国家魔術師を信用しろと?」

「ん-? アタシは別に、()()エルドラド王家に忠誠は誓ってないのよね」

「今のエルドラド王家?」


 含みのある言い方をしたリーフに、ゼインが眉を顰める。


「アタシが国家魔術師になった時に忠誠を誓ったのは、あくまでも当時の国王であって、今のボンクラじゃないってことよ」


 現在の国王をボンクラ呼ばわりするとは、王族に聞かれたら首が飛ぶような不敬だ。


 しかしリスティは、はたと冷静に考える。

 今の国王ガウス・エルドラドが即位したのは、確か二十五年前だったはず。先代国王が病で急逝したため、急遽当時二十歳の王太子だった彼が国王となったと、歴史書にも書いてあったはずだ。


 今目の前にいる国家魔術師のリーフは、見た目はどう見ても二十代半ばの美女。

 それなのに、国家魔術師となったのは、二十五年以上前だというのか。


 年齢を聞いたところで答えてはくれそうにないので、全て片付いて家に帰れたら、町の図書館へ行ってエルドラド王国の成り立ちや歴代の大臣などについても書かれている歴史書を見てみようと心に決めるリスティだった。


「……で、アンタを信用して、俺達がついていくとでも?」

「別に信用してくれなくても良いけど、アタシが一緒じゃなければ、その塔に入るのは不可能よ。そしたら、《予言者(プロフェタ)》に会うこともできないわね」

 

 城に忍び込んで来た目的をさらりと当てられ、ゼインが警戒の色を濃くする。


「アンタが今の国王に忠誠を誓ってないことはわかったが、だからといって俺達を捕まえようとしないという保証はねぇ……だいたい、何で俺達の目的が《予言者(プロフェタ)》だなんて思うんだ?」

「そりゃあ、盗賊《漆黒(ニグリ)》と共に逃げ出したはずの謳姫が、『謳姫が破滅を呼ぶから見つけ次第処刑しろ』だなんていう予言のすぐ後に城に忍び込んでくるんだもの。目的はどう考えても、《予言者(プロフェタ)》に対する抗議しかないでしょう?」


 ふふっと不敵に笑うリーフ。

 ゼインとリスティは更に愕然とした。


「わ、私が、逃げ出した時のことを、知っている……?」

「見ていやがったのか……」


 しかし、それにしては、リスティの指名手配で盗賊《漆黒(ニグリ)》の名前は聞かなかった。

 リーフが、謳姫を攫ったのが盗賊《漆黒(ニグリ)》と知っていたなら、何故《漆黒(ニグリ)》が謳姫誘拐の容疑で指名手配されなかったのか。


「少しは、アタシのことを信用してもいいって思ってくれたかしら?」

「国家魔術師のくせに、俺達に味方して何の得がある?」

「別に? 損得とかじゃなくて、アタシはただ、美しい者の味方なだけよ」


 飄々とした様子のリーフに、ゼインもリスティも毒気を抜かれたような心地になって顔を見合わせた。


「……どうする?」

「どうするも何も、《予言者(プロフェタ)》に会うためには、アイツと一緒に塔に入るしかねぇだろ」

「で、でももし罠だったら……」

「まぁ、そうなったら、できる限り助けてやるから安心しろよ……それに、アイツからは、何つーか、悪意みてぇな嫌な気配を感じねぇから、信じられる気がするんだよな」


 二人は意を決し、リーフと共に塔に入ることにした。


 リーフはにこにこ上機嫌で二人を塔へ招き入れ、二人に遮蔽魔術を掛けると、足取りも軽く、塔の中央を貫くように伸びる螺旋階段を上り始めた。

 リーフ曰く、この塔の中で魔術を使えば、他の国家魔術師に感知されてしまうらしく、階段は徒歩で上るしかないらしい。


「《予言者(プロフェタ)》は最上階にいるわよ。生意気よねぇ。謳姫でもないのに、アタシを差し置いて最上階の部屋を得るなんて」


 最後の方で、声に険が滲む。

 リーフが《予言者(プロフェタ)》に対して良い感情を抱いていないのだと、その僅かな声色の変化で察するゼインだ。


「……さて、この上がもう最上階よ。アタシはここで待っているから、行ってらっしゃいな」


 リーフは穏やかな笑みを浮かべて階段から廊下へ出ると、頭上を指差した。

 

 ゼインとリスティは腹を括って、階段を早足に登り切った。


 階段を出た目の前に重厚な扉があり、両脇に衛兵が立っている。

 リーフによる遮蔽魔術の効果で、衛兵には二人の姿は見えていない。

 しかし、扉を開ければ異変に気付くだろう。


 と、ゼインは衛兵の背後に回り込んで素早く手刀で項を叩いた。

 一人がその場に頽れた瞬間、もう一人が驚いて駆け寄ろうとしたが、その前に彼も同じ理由で気を失ってしまった。


 この塔の中で魔術を使えば国家魔術師達に感知さてしまうらしいが、物理攻撃であればその限りではない。


「入るぞ」


 ゼインは扉に手を掛けた。


 重たい扉だが、施錠はされておらず、あっさりと開いた。


「……ちょっと、誰? 許可なく扉を開けるなんて、死にたいのかしら?」


 不愉快そうな声がした。

 年若い女の声だ。


 部屋の中は、とても豪華な家具に溢れていた。

 大きなソファに寝そべっていた女は、扉が開いても誰も入ってこない様子に、怪訝そうな顔をする。


 実は既に二人は部屋に入っていたのだが、遮蔽魔術の効果で彼女は視認できないでいるのだ。


「……《予言者(プロフェタ)》なんていうから、よっぽど優秀な魔術師なんだろうと思ったが……大したことねぇな」


 ゼインが思わず吐き捨てた瞬間、リーフの遮蔽魔術が解除され、ゼインとリスティの姿が露になった。


「なっ! 侵入者! え、衛兵っ! 何をしているのっ! 早くコイツらを捕らえなさいっ!」


 驚いて声を上げた女だが、入り口を守っていた衛兵二人は気を失っているため返事はない。

 

 金髪にグレーの瞳、顔はそこそこ整っているが、性格の悪さが滲み出ているように思える。


「お前が《予言者(プロフェタ)》か?」

「そうよ! 無礼者ね! いいこと? 『私の空間を穢す侵入者は即座に衛兵に捕まるでしょう』!」


 彼女は立ち上がり、高らかにそう宣言した。


 それが『予言』であると、リスティにもすぐにわかった。

 まずい、捕まってしまう。と青褪めるものの、しかし一向に衛兵はやってこない。


「……何も起きねぇな? お前、本当に《予言者(プロフェタ)》か?」

「失礼ね! 私は……!」


 ヒステリックに彼女が叫びかけたその時だった。


 慌ただしい足音が響いてきて、部屋に一人の青年が飛び込んで来た。

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