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終:報酬

 ゼインの脅しが効いたらしく、約束のひと月は何事もなくやって来た。


 リスティと共に彼女の実家に戻ると、丁度旅行から帰宅したらしい彼女の両親と鉢合わせた。


 リスティを守り抜いた報酬として、彼女の父は二人をある場所へ案内した。

 アルトゥーラ王国の王城跡の程近く、岩山の頂上付近だ。


「……何もねぇな……宝物庫は?」

「そう急かすな」


 父は、ある岩に触れた。

 そして何か呪文を唱えると、まるで扉のように岩の一部が開き、鉄扉が現れた。


 手にしていた鍵をその鉄扉の鍵穴に差し込んで、重たい扉を開く。

 中は洞窟だった。


「こっちだ」


 父は呪文を唱えて手元に明かりを灯すと、ずんずんと暗い洞窟を進んでいく。


「……お前の親父、魔術師だったのか?」

「ううん。父さんが魔術を使えるなんて、知らなかったわ……」


 リスティの父は医者だ。

 回復魔術や治癒魔術を使っているところさえ見たことがない。


「私が使えるのは、この場所に入るための、封印解除の魔術とこの光明魔術くらいだよ。魔力は少しあるが、才能がなくてね」


 二人の会話が聞こえたらしい父が苦笑する。


 才能がない、と簡単に言うが、人間の九割は魔術が全く使えないので、明かりを灯すことができるだけでも本来は充分である。


「……さて、ここだ」


 言うや、彼が明かりを放り投げるような仕草をすると、光がいくつかに分かれて飛び、壁に貼り付いて辺りを照らした。


 少し開けた、部屋のようになっている場所だ。行き止まりらしく、その先はない。

 中央には大きな石板が一つあり、その上に、赤い表紙の本が置かれている。


「……どこに宝があるんだ?」

「ここさ」


 父は赤い本を手に取り、ゼインに手渡した。


 それをパラパラとめくると、驚きの事実が記されていた。


「……この島には、黄金が眠っているのか……?」

「ああ。アルトゥーラ王家において、そう言い伝えられていた。エルドラド王家は、その黄金を探し続けているのさ」


 ゼインが読んだ部分には、アルトゥーラ最後の国王が、幼少期に父王から聞いた黄金伝説が記されていた。

 要約すると、特別な歌を歌うと、山が開き黄金が現れる。それを手にする者こそ、この島を統べる真の王となる。という内容だ。


「……なるほどな。だから、やたら謳姫に固執していたのか」


 歴代のエルドラド王家は、謳姫を見つける度に妃にしていたという。

 謳は、間違いなく特別な歌だからだ。


「……この島には山がたくさんある。どの山が開くのかはわからないし、そもそも本当に黄金が眠っているのかもわからない……それでも奴らは探し続けている」

「……ガウスが王位を手放さなかったのは、あるかどうかもわからねぇ黄金に目が眩んでいたからか……」


 そんな男の、守る気もない約束を信じて死んだ自分の母親を思い、ゼインは切なげに目を伏せた。


「……ゼイン……」


 痛まし気に彼を見て名を呟いたリスティだったが、ゼインは一度嘆息すると、気を取り直した様子で石板を見た。

 そこには、何やら文字が刻まれている。


「何だこれ……?」


 眉を顰めつつ、ゼインはそこに彫られていた文字を読み上げる。


「……暁の女神の加護の許、黄昏の王の遺した宝がこの島に眠る。島が危機に瀕する時、真なる王が謳を用いて鍵を開くだろう」


 その下には、詩のようなものが彫られている。


「……これを謳えってことか」

「おそらくな。だが、未だかつて山が開いたことはない。この謳をリスティに謳ってもらったこともああるが、何も起きなかった……宝など実在していないのか、はたまた、島が危機に瀕していないとダメなのか……」


 父は飄々とした様子で呟く。


「……アルトゥーラの秘宝が、まさか石板とはな」


 実際、ゼインの目的は宝ではなく最後の国王が遺したとされる手記の方だったので、金品が得られなかったとしても良いのだが、多少期待はしていたので落胆は隠せない。


「……まぁ、君にはリスティが世話になった。これは私からの礼だ」


 言いながら、父はポケットから小さな革袋を取り出した。

 音から、中にはかなりの量のコインが入っていると思われる。


「ひと月分の生活費くらいはある」


 それは遠慮なく受け取って、ゼインは嘆息した。


「……まぁ、仕方ねぇか……慈善活動なんてするもんじゃねぇな」


 そんなことを呟きながら、ゼインは身を翻した。


「じゃあな。もう捕まるなよ」


 リスティに向けてそう言い放ち、彼は姿を消した。


「……父さん、本当にこの島に黄金が隠されているの?」

「さぁな。手記には黄金と書かれているし、エルドラドの連中もそれを信じているが、俺にはどうも違うものが隠されているようにしか思えない……確証はないが、本当に島に危機が訪れた時、リスティがもう一度あの謳を謳ったら、何かが起きるかもしれない。それだけは覚えておいてくれ」


 父はそう優しく頬んで、娘の背中を軽く叩き、洞窟を出るように促したのだった。


 この島に危機が訪れるようなことがあれば、もう一度あの謳を謳ってみよう、そしてもし宝が得られたら、今回のお礼に、ゼインにも分けてあげよう、そう密かに心に決めるリスティなのであった。

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