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水の蜂  作者: 寺音
幕間1
17/103

砂上にて食すものー2

 片手で手綱を握り、股の裏側に力を込めてバランスを取る。もう片方の手に食料を持ち、チャッタたちはラクダに揺られながら食事を取っていた。

 ラクダたちの調子も良さそうなので、移動できる内に移動しておこうと言う考えである。


 下に降りればもう少しまともな食事が作れるのだが、今は干し肉などの保存食をかじり小腹を満たす。

 まともな料理と言っても、狩った獲物の肉をスープで煮るだとか、採取した多肉植物を切って焼くだとかそんなものである。



 ふと、アルガンが干し肉をかじりながら呟く。

「パサパサする。あーあ、せめてアレが成功してたらなー」

「アレって?」

 意味深な物言いに、チャッタは首を傾げる。アルガンはチラリと顔を後ろのムルへと向けた。


「ムルの魔術でさ、水はちっちゃくしてたくさん運べるわけじゃん」

「そうだね。重さはある程度しか軽減できないから、限度はあるけどね」

 そこはどうでも良いんだけど、とアルガンはチャッタの補足を一蹴する。


「町を出る前にさ、水以外でも水みたいなものならイケるんじゃないかと思って、色々試してみたんだよ」

「試したって、何を?」

「ちっちゃくして持ち運べないかどうかをだよ。例えば酒とかスープとか、肉汁とか」

「肉汁……」

 チャッタは思わず呆然と呟く。

「ぶっかけたらこの干し肉とかも旨さが増すかなーって」

 そんなアルガンの呟きが聞こえる。


「そしたら、見事に水の部分だけ球体になってさ。後の具材とかその他色々はしっかり残っちゃってるわけ。肉汁とか特に最悪で、なんか、ベタベタぬるぬるした肉の油とか、そう言う塊だけが残って……すっげぇ気持ち悪かった」

 その光景を思い出したのか、アルガンは思い切り口の端を歪めた。


「残った水も、なんか微かに肉の風味がするようなしないような。完全な水でもないし、かと言って肉汁でもないし。本当、アレはない」

「ごめん」

「にょにょ!」

 何故か謝るムル見て、ニョンが慌てたように身体を擦り寄せている。慰めているのだろうか。

 すかさずムルはニョンの身体を軽く握ったり離したりして、感触を楽しむ。

 表情は相変わらずの無表情だが。



「二人とも」

 チャッタは俯き、低い声を発した。その声が僅かに震えていることに気づいたのか、アルガンの肩がびくりと跳ねる。

 怒られる前の子どものように。


 しかし、顔を上げたチャッタの瞳は、太陽に負けないくらい燦々《さんさん》と輝いていた。


「そう言う興味深い実験は、僕がいるところでやってくれないかな!?」

「あーなるほど、そっちね」

 アルガンが肩の力を抜いて呆れた声を出し、ムルは不思議そうに大きく瞬きをする。



「そうか、あくまで魔術で変化させられるのは水だけで、それ以外の不純物は自然に除去される……と言うより、操れないから残ってしまうと言うことか。はっ!?  ひょっとすると、水の蜂はその力を応用して水を浄化していたのでは!? どう思う、ムル!?」

「覚えていない」

「うん、そうだったね! でもちょっとこれは、実験してみる価値があるんじゃないか!? ちょっと今度町に着いたら、付き合ってよ!」

「分かった」

「——もう勝手にやってれば」

 アルガンは最後の干し肉をポイと口に放り込む。


 周囲は相変わらず砂ばかりで、目の前には緩やかな山までできている。アルガンはうんざりしたように長く息を吐いた。


「あ」

 ムルが一言だけ声、と言うより音を発した。彼の視線は空を向いている。

 チャッタとアルガンも同じように天を仰ぐのと同時に、ムルは腕を上げ空を指した。



 真っ青な空に一点、濃い土の色をしたものが見える。目を凝らすとそれは、一羽の鷹であった。大きく翼を広げて空を舞い、鉤爪には銀色に輝く箱を掴んでいる。

 やがて大きく旋回し、砂山の向こうへゆっくりと下降していく。


「あれは——“水の遣い”」

 比較的住人の少ない集落へ水を運搬する鷹、通称“水の遣い”。その鳥が目視できる高さを飛んでいる。

 


「って事は、集落が近いんだな!?」

「地図は正しかったみたいだね、良かった」

 三人は顔を見合わせた。あの砂山を越えた先に目的の集落があるのだろう。


「疲れたー、早くゆっくり休みたい」

「はは、まだどんな場所かも分からないけどね」

 言わば得体の知れない余所者である自分達を、歓迎してくれるとも限らない。小さな集落であれば尚更だ。


 それでも、良い出会いがあると良いなとチャッタは思う。ムルやアルガンと出会ったのも、思いもよらない場所だったのだから。


「さあ、もう一踏ん張りだね。行こうか!」


 チャッタは自分にも言い聞かせるように、そう声を張り上げた。

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