とんだ珍客
宜しく御願い申し上げます!
内心、これで気を悪くされるのじゃないかと、ヒヤヒヤもする質問であった。気でも悪くされて、八王子まで気まずい雰囲気のまま、ふたりきりのドライブを延々(えんえん)と愉しむというのは実に避けたい自体だ。 でも、俺は彼が巫山戯ているのを疑ったのだ。冗談か何かで言っているのではないかと。それ程聞いたこともない苗字を告げられたものだから。それも訊いてもないのに。 ところが、彼の次の言葉は、俺の希望的観測(きぼうてき、かんそく)を見事に裏切ってくれるものであった。 「ほんと、失礼だな。人の名前を嗤うなんて。一体、どんな躾を受けて育った運転手手なんだ」 「あ・・・、いや、嗤ったつもりは決してない。決して。うん。誤解を与えたというのなら申し訳ない。いや、よく聴き取れなかっただけさ。うん。赦して」
俺は慌てて釈明と謝罪とをした。 ヒエアルタと名乗るこの男は、歳の頃からしでいえば、俺より若干歳下に思えた。 しかし、彼は簡単には赦してはくれなさそうなのであった。不機嫌そうに、吐き捨てるように、
「たかが、タクシー運転手の分際で」 それには俺も、職業まで馬鹿にされたものだから、少しむっ、とする。 「ヒエアルタ ツジモトイ」
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