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さて
宜しく御願い申し上げます!
新宿駅西口。地下ロータリーをぐるりと回りながら、地上へと抜ける。 客を降ろしたばかりの車は、心なしか、軽々(かるがる)と坂道を上がる。 ビルの谷間に無数に枝分かれする血管のように道が延びる。 早く街を流して客を拾いたい。それも出来るなら、上客がいい。 上客とは、より長距離を乗車する客のことだ。今日の稼ぎを少しでも多くしてくれる客のことだ。
午後十一時過ぎ。街にはまだ歓楽の賑わいが、人々の欲望の余韻が見て取れる。 終電まではまだ少し間があるが、酔い潰れてしまって電車に乗るのも億劫になった者たちがタクシーを呼び止めることは少なくはない。 俺は車を西新宿からガードを越えて東に出る道を選んだ。 左右の歩道方面に眼を走らせながら、ハンドルを握った。
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