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現実アンチは色付ける。  作者: 新田 穂摘
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EP4 二面性

人間とは何か。醜く自分勝手それでいてどこか美しい。罪悪感という簡単そうでいて深く難しいものを常に持って行動する生き物。だがこんな事を誰も考えはしないだろう。考えれば考えるほど捻れて、さっきまで救ってくれていた気がしていたのに、少し前の自分を何故か抉ってくる。『罪悪感』このたった3文字からは想像できないほどの丸みと尖の二面を感じる。自分の人生に得も意味もない人が危険に晒される瞬間に立ち会う時、きっと人間は助けるだろう。だが、自分も危険な状態ならきっと見捨てる。それは良くも悪くも自分の為に。そして平穏が戻った時、魔法が解けたかの様に一変し救った自分と救わなかった相手を入れ替えたくなる。

それが人間。真理と言っていい。

「醜い」

「何故こんな事を今・・・」

答えは出なかった。塩気にある何かが唇の隙間を潤しながら、口に広がった。

みどりは目を覚ます。眠っていなかったかの様に頭は冴えている。

「まだ魂があるのか俺」

死んだのに死んでいない。消えたかったのに消えていない。

筈なのに。当たり前のように気になることをみどりは考えてもいなかった。紐が解けて自由になったように。

みどりは起き上がる。

天井も、床も。机も。椅子も。窓も。カーテンも。影がなく奥行きが感じられない真っ白な部屋。まるで画用紙に影を描けない素人のかいた部屋の絵だ。なのに。普通なら見向きもしない下手な絵のはずなのに。

「綺麗だ」

みどりは初めて本物の芸術というものに触れた。

その瞬間、カタッ。という音と共に机の上に置いてあった童話の様な本が開き始めた。

「なんだこれ・・・すげー」

みどりはその非現実的で胸躍る光景に驚きを超えて魅入っていた。まるでまだ何も知らない赤子が世界の一端を知った時のように。

みどりはその本に近づく。開かれたページには見知らぬ文字の羅列があった。

「読めねー。なんて書いてんだ」

みどりは読めないない事を知りながらも何故か文字の羅列を追っていた。1ページまた1ページと取り憑かれているかの様に瞬き一つせず。そして最後の一文を読み終える。

「さっぱりわからん」

書かれている事も。意味もわからなかったはず。それなのにみどりは何かに引っかかったように首を傾げて無意識にポツリと呟いた。

「記憶」と。

その時その言葉に呼応するかのように部屋に風が吹いた。みどりの長く癖のついた黒い髪が靡き風によって本は閉ざされ表紙が視界に現れる。

みどりは目を疑った。驚き、恐怖すらあった。 

真っ白な長方形の真ん中に鏡の様な材質の鍵穴。そこには濃い緑色と眩しい黄金色の自分の姿が写っていた。

みどりは死ぬ直前の光景がフラッシュバックしたのだ。あの脳内アートのような決して作ろうとしては作れない奇跡を。

みどりは、ハー、ハーと息を吐く。無数の雨を集めたかの様な粒が頬を伝い顎の先から堕ちた。

机に当たって少しずつ広がってゆく。

微動だにしないみどりを、母の導きと言わんばかりの優しい青がそれらの粒に写っていた。 

「ありがとう・・」そう呟くと、みどりは生まれて初めて感謝の意味を知った気がした。

そしてピントのあった母を見る事もまた初めてであった。

時に怒り、悲しむ。だがいつも近くにいる。どこまでも大きく優しい青・・・

「これが母か・・」 

気付くのが遅かったとみどりは悟った。

だが後悔とは別の何かを心にもたらすことが出来た。

 

影が出始め、みどりは、初めてその部屋の狭さと汚さを知った。







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